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本展では寺田コレクションの二大テーマの一つ「ブラック&ホワイト」より黒と白の世界を拡張し、色にフォーカスしながらさまざまな作品をご覧いただきます。開館14年目の現在、コレクションの総点数は3000点におよびますが、全体を概観してみるとその根底に変わらず感じられるのは収集家寺田氏の「『存在』とは何か」という問題意識です。寺田氏はつぎのように語っています。
─ 存在とは個々の現象であって、それは光がなければ見ることはできません。光の誕生とともに、森羅万象が一度に生まれたのです。かたちがあるような無いような、もやもやとした流動的なもの。存在と非存在、有と無を感じさせるものに私は惹かれます。あるとは何か。無いということです。無いと言いながら、かたちが見えてくる、それが面白くて仕方ないのです。
ギャラリー3正面、ロープにぶら下がり足で描きつけられた白髪一雄の《游墨 壱》は、激しい身体の動きの痕跡を留めています。「表現」から距離を置いて、行為そのものを際立たせているのは白の上の黒です。向かって左側の壁、堂本右美の絵画もまた大胆な筆のストロークが身体性を感じさせますが、ふわりとした無重力感の源は、彩度の高い色同士、あるいはそれらと重さを感じさせる黒との均衡です。堂本の動的な多層空間に対し、岡田ムツミの画面は静的で奥行きを感じさせません。瞼の残像のように、見る者の内部に記憶された、まさに「色を描く」絵画なのです。 ギャラリー4、柿崎兆の木版画による抽象化された風景は鼠色(ねずいろ)、鈍色(にびいろ)いった日本の伝統的なグレーを基調に、さびた色合いが特徴となっています。こうした色に精神的調和を覚えるのは、湿潤な気候のフィルターのもと、光の微細な変化を感じ取ることができる日本人独特の感覚ではないでしょうか。一方、ニューヨークを活動の場とした内間安瑆の木版画は明快な色の対比が目を捉えます。《Forest Byobu》の連作は幾何学的な構図の中に木版画の技法によるやわらかな味と鮮やかな色が融合し、作家ゆかりの地である沖縄のまばゆい光を思わせます。

加納光於
《「骨ノ鏡」あるいは色彩のミラージュ(エスキス)2》
油彩,紙 38.0 x 54.8cm, 1999
photo: 斉藤新
ここで具象絵画にも目を向けてみましょう。色は具象的なイメージに生命をもたらします。奥山民枝の《シリーズ屮:舐芽》に描かれている花の蕾らしきもの、エネルギーの漲る生命体は青白い光をまとい、淡い紅色を刻々と増してゆくようです。「なまめかしさ」という言葉が思い浮かびますが、それは内側からあふれる生命の輝きに由来するものでしょう。

奥山民枝
《植物園》
油彩, キャンバス 45.0 x 26.7cm, 1980
photo: 早川宏一
存在という不確かなものの中で、色もまた流動します。けれども色は見る者一人ひとりに届いて確かな記憶を残すのです。かつてL.シュタイナーは著書『色彩の本質・色彩の秘密』の中でこう述べています。「物質から世界を作ることはできません。世界は波打つ色彩から創造されるのです。色彩は精神的なものと直截的・個人的・類縁的な関係を持っているので、世界を創造することができるのです。」 それは色が私たちにとっていかに世界を生々しく感受させてくれるものであるかを示しているでしょう。個々の作品から生まれる色を、それぞれの見方で体験していただければと思います。
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展示風景 |
■インフォメーション
会場:ギャラリー3&4(東京オペラシティ アートギャラリー 4F)
期間:2013.7.13[土]─ 9.23[月・祝]
開館時間:11:00 ─ 19:00(金・土は11:00 ─ 20:00/いずれも最終入場は閉館30分前まで)
休館日:月曜日(祝日の場合は翌火曜日)、8月4日[日](全館休館日)
収蔵品展入場料:200円
(企画展「アートがあれば II ─ 9人のコレクターによる個人コレクションの場合」のチケットでもご覧いただけます)
主催:公益財団法人 東京オペラシティ文化財団
協賛:ジャパンリアルエステイト投資法人
お問い合わせ:03-5777-8600(ハローダイヤル)