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一昨年(2010年)冬から昨年春にかけて佐藤翠は、パリ中心部にあるレジデンス施設に滞在し、制作活動を行いました。《Carpet - Paris I - 》《Carpet - Paris II - 》と題された2点の作品はこのときに描かれたもので、綿布を木枠に張らず、直接壁に固定して展示されます。描かれているのが絨毯だということ、また、フランスから日本に持ち帰る際の利便を考えれば、彼女がこの作品をあえて枠張りしなかったことはごく当たり前のように思われます。
佐藤翠は、自分が好きな服、バッグ、靴などが並ぶクローゼットを描くことから出発しましたが、そこから展開して現在では、さまざまな靴が並ぶシューズラックや色とりどりの柄のカーペットなどをおもに描いています。カーテンや家具などに彩色を施したインスタレーションも発表していますが、いずれも生地や表層が大きな関心になっている点が興味深いと言えます。 ![]() 《Shoes shelf II》
アクリル絵具, 綿布 133.0×194.0 cm 2011 photograph: KEI OKANO ![]() 《Pink carpet》
アクリル絵具,綿布 133.0 ×194.0 cm 2011 photograph: KEI OKANO もっとも、佐藤翠の絵画は、たんなる素材や物質のシステマティックな探求でもなければ、現実世界から完全に乖離した抽象的産物でもないことも事実です。彼女の作品には、パステル調の明るい華やかな色合いのものもあれば、抑制のきいた暖色系の控え目な色調のものも見受けられます。以前から気になっていたこの色遣いの際立った対照については、こんなエピソードがあります。夏、秋と続けて彼女の作品を見てくれた友人の母親から、こう言われたそうです。「この前の夏の個展では色も夏色だったけど、今回は秋色ね」。彼女自身もそれまで気がつかないうちに、制作時期の季節感が、自ずと作品に反映されていたのです。平面作品だけでなく、彼女が鏡、カーペット、カバン、カーテンなどをもちいたインスタレーションをしばしば手がけるのもそれと関係するはずです。佐藤翠が表現するのは、彼女自身が心地よいと感じられるようなきわめてパーソナルな世界であり、大きなストロークが身体性を強く感じさせる大画面の絵画もそうした親密な空間を実現するうえで不可欠なものに違いありません。
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佐藤翠 SATO Midori | |
1984 | 愛知県生まれ |
2008 | 名古屋芸術大学美術学部絵画科洋画コース卒業 |
2010 | 東京造形大学大学院造形学部造形専攻美術研究領域修士課程修了 「アートアワードトーキョー丸の内2010」小山登美夫賞受賞 現在、神奈川県在住 |
主な個展 | |
2010 | TWS-Emerging 140「Blissful moments」, トーキョーワンダーサイト本郷, 東京 |
2011 | TWS-Emerging Plus「Pont Marie」, トーキョーワンダーサイト アートカフェ kurage, 東京 |
主なグループ展 | |
2008 | 「名古屋芸術大学選抜展」, ギャラリー山口, 東京 「Atelier」, 名古屋市市政資料館 「アートアワードトーキョー丸の内2008」, 丸の内・行幸地下ギャラリー, 東京(2010年も) 「モンブラン ヤングアーティスト パトロネージ イン ジャパン」, モンブラン銀座本店, 東京 |
2009 | 「トーキョーワンダーウォール公募2009」, 東京都現代美術館 |
2010 | 「Unique Commons―わたしだけのみんなのもの―」, 名古屋芸術大学アート&デザインセンター |
参考文献 | |
「秋元康流 アートのすすめ 第24回」, 『美術手帖』, 美術出版社, 2010 年9月号, p.169 | |
「〈Painting Material 04〉クサカベ アキーラ×佐藤翠」, 『美術手帖』, 美術出版社, 2011 年12月号, pp.176-177 |
■インフォメーション
会場:東京オペラシティ アートギャラリー 4Fコリドール
期間:2012.1.14[土] ─ 3.25[日]
開館時間:11:00 ─ 19:00(金・土は11:00 ─ 20:00/いずれも最終入場は閉館30分前まで)
休館日 :月曜日、2月12日[日](全館休館日)
入場料 :企画展「難波田史男の15年」、収蔵品展「『私』を知るための問い」の入場料に含まれます。
主催:公益財団法人 東京オペラシティ文化財団
お問い合わせ:東京オペラシティ アートギャラリー Tel. 03-5353-0756