Luc-Tuymans

2000.10.22[日]― 12.28[木]



タイマンスチラシ


ペインティングの「現在」を語る上で欠かすことのできない画家 ─ タイマンス
リュック・タイマンス(1958ベルギー生れ/アントワープ在住)。  
彼の作品は、90年代半ばの閉塞感漂う現代美術の中にあって、伝統的な手法である「絵画」を再認識させる上で大きく貢献したと言えます。また、彼の絵画は若い多くの画家に影響を与えており、その存在は、現代の絵画の可能性を語る上で欠かすことができません。

92年のドクメンタIX(5年ごとにドイツのカッセルで開かれる現代美術の国際展)で大きな注目を集め、その後、わずか10年もしない内にヨーロッパ、アメリカを中心に数多くの展覧会で紹介されてきましたが、日本では、今回が初の本格的な展覧会となります。

初期から現在に至る油彩約70点の展示を通して、タイマンスがたどった制作の流れを見せるほか、ドローイング17点、写 真19点、さらに制作の際に用いられたポラロイド写真など、あわせて100点以上の作品を集めて展示し、その活動の全貌に迫ります。

これまで行われてきたタイマンスの個展としても過去最大規模のもの。自身によってSincerely(心をこめて)と題された本展は、今世界で最も注目を集めるこの画家の活動に触れるまたとない機会となるでしょう。

作品_医学書
《医学書IV》
油彩、キャンパス/57.0×38.0cm
1992
(c) Zeno X Gallery

静謐な透明感と現代の漠然とした不安感
ひと気の無い室内、無表情な顔、胴体だけが描かれた幼児の体。タイマンスの作品は、そのほとんどが雑誌やスナップ写 真などの日常的にありふれたイメージをもとに描かれています。それらの作品に漂うどこか寂しげな雰囲気は、その徹底して無機質的な印象とともに、私たちの意識の奥深くに閉じこめられた遠い記憶を呼び覚まします。  表層的でありながら深遠な思想を含み、また素朴を装いながらも高度に洗練された彼の作品は、決して固定的な解釈によって括られることがなく、常にシニカルとミステリアス、シンプルなものと恐怖・暴力との間を揺らぎながら永遠に浮遊し続けるかのようです。彼の絵画がもたらす清澄な透明感と、とらえどころのない茫漠とした不安感といった印象は、高密度に加速し展開し、その一方で深刻な希薄化が進行しつつある現代社会に生きる私たちの存在そのものを、見事に代弁しているとも言えるでしょう。


作品_室内
《室内》
油彩、キャンバス/177.0×126.0cm
1999
個人蔵
(c) Wako Works of Art


作品_体
《体》
油彩、キャンバス/49.0×35.0cm
1990
(c) Zeno X Gallery

作品_手
《手》
油彩、キャンバス/100.0×80.0cm
1978
個人蔵
(c) Zeno X Gallery

映画的な手法による構成
タイマンスは80年代初め、一時絵画を離れて映画を撮り続けていました。彼がよく用いるクローズアップや、部分のみを描くカットアップ、さらには断片的なイメージを組み合わせるモンタージュといった映画的な手法は、その後の彼の絵画を特徴づける重要な要素となっています。彼はこれまでDie Zeit(1988)、Der diagonish Blick(1992)、The Heritage(1995)、あるいは Illegitimate(1997)といったシリーズ作品を何回か手がけていますが、これらのシリーズは一見何の関係性も見られない別 々のイメージを寄せ集めた構成となっており、これにも映画的なモンタージュの援用が見て取れます。

作品_時間
《時間》
油彩、キャンバス
30.0×40.0cm、39.0×40.0cm、37.0×40.0cm、41.0×40.0cm
1988
個人蔵
(c) Zeno X Gallery


イメージを徹底的に無機質に描くという「暴力」
タイマンスの作品には常に孤独感が漂っています。音も動きも無く、そして喜びや悲しみ、怒りといった感情的な要素もその表面 から慎重にぬぐいとられた絵画。タイマンスはその完全に無機質化された画面 を通して、その中に描かれたごくありふれた日常的なイメージが持つその最も純粋な様相を浮かび上がらせようとしていると言えます。

そのように対象を最もダイレクトに描こうとする態度は、タイマンスによれば、対象に冷徹な眼差しを向け続けたファン・アイクや仮面 の人物を好んで描いたジェームス・アンソール、さらにはつねにクールでありつづけたマグリットといった、シニシズムとアイロニーに満ちたベルギー独絵画特の系譜につながるものであると言います。

またそうした一切の粗雑物を排除し、イメージをできるだけシンプルにかつダイレクトに描こうとする彼の絵画は、いわばある種の「暴力」の表出に他ならないとも言います。

作品_ヒムラー
《ヒムラー》
油彩、キャンバス
51.5×36.0cm
1997-98
ヴォルフスブルグ美術館蔵
(c) Zeno X Gallery


作品_Nr.2
《Nr.2》
水彩、鉛筆、紙/21.5×25.5cm
1981
ベルン美術館蔵
(c) kunstmuseum Bern


うつろな画面が伝える悲惨な暴力の歴史
タイマンスの絵画には、戦争やホロコーストといった過去の悲惨な歴史に言及した作品も多くみられます。
これらの作品は、表面的には他の作品と同様、怒りや悲しみなどの感情が一切払拭された無機質な画面 として描かれていますが、しかし逆に、イメージが淡々と描き出されていることにより、その事実が示唆する過去の惨劇の凍りつくような真の恐怖がより大きな戦慄を伴って見るものに伝わってきます。

またスナップ写真のようにカジュアルに切り取られた歴史の断片は、その淡白な印象とともに私たちの日常に秘められたそうした過去に直接結びつく「暴力」や「恐怖」の因子を浮かび上がらせもします。

彼は「自分たちの新しい兵舎(our new quaters)」(未出品)と誇らしげに書き込まれた、ある古い兵舎の写 真をもとに描いた作品について次のように述べています。「これは絵画というよりむしろ、戦争を想起させるある種の主張であるといった方が良い。それは暴力の象徴でもある。私は西洋文明とは、それ自身が進歩を続けるために破壊行為を繰り返し行なってきた、稀に見る数少ない文明であると考えている。」

作品_うさぎ
《うさぎ》
油彩、キャンバス/59.3×71.5cm
1994
個人蔵
(c) Zeno X Gallery

作品_欄
《蘭》
油彩、キャンバス/99.5×76.7cm
1998
Collection Jay & Marsha Seeman
(c) David Zwirner, New York

しなやかな感性のフィルターを通して拾い上げられた日常的イメージの断片。絵画の歴史を背負い、また、それをもとに私たちにさまざま解釈をうながすタイマンスの作品は、絵画や彫刻に限らずありとあらゆる表現形態がめまぐるしく出現し、また消えていく現代美術の世界において、あらためて絵画とは何か、また人間は美術とどのような関わりを持ち、また今後どうあり続けるのかといった、深淵な問題を私たちに問いかけてきます。


インフォメーション
期間:2000.10.22[日]─ 12.28[木]
開館時間:12:00 ― 20:00(金・土は21:00まで、入館は閉館30分前まで)
休館日:月曜日(祝日の場合は翌火曜日)

入場料:一般\900(\700)、大学・高校生 \700(\550)、中学・小学生 \500(\400)
( )内は15名以上の団体料金、その他割引制度あり
収蔵品展005「スピリチュアル・ガーデン」、project N 04「佐佐木誠展」の入場料を含みます。

主催:(財)東京オペラシティ文化財団
特別協賛:日本生命
協賛:NTTテレマーケティング/NTT都市開発/小田急電鉄/第一生命
協力:日本航空/日本通運
後援:ベルギー王国大使館・フランダース政府代表部

◎リュック・タイマンス講演会
タイマンス本人が自作について講演いたします。(英日の通訳あり)
日時:2000.10.22[日] 14:00 - 16:00 会場:東京オペラシティタワー7F 会議室
定員:200名(要予約)
定員に達しましたため、応募は締め切らせていただきました。

お問い合わせ:東京オペラシティアートギャラリー Tel. 03-5353-0756