収蔵品展029 女たち  2009.4.11[土] ─ 6.28[日] 松生歩《彼方からの声》 顔料,和紙 116.0 x 145.0cm, 1984
松生歩《彼方からの声》
顔料,和紙
116.0 x 145.0cm, 1984

女たち ─ 一人の収集家の視点から

本展は東京オペラシティコレクションの中から多様な女性像を展示し、そこから見えてくるものを浮かび上がらせる試みです。当館には舟越保武や長谷川潔などの作品をはじめ多くの女性像が収められていますが、あらためて女性をモティーフにした作品という切り口で作品を集めてみると、そこには当コレクションを収集した寺田小太郎氏の個性が色濃く映し出されていることがわかるでしょう。

鴨居玲《裸婦》 水彩,鉛筆,パステル,紙 72.0 x 53.0cm, c.1978
鴨居玲《裸婦》
水彩,鉛筆,パステル,紙
72.0 x 53.0cm, c.1978
新見恵里子《室内 7》 油彩,キャンバス 130.5 x 162.0cm, 1987
新見恵里子《室内 7》
油彩,キャンバス
130.5 x 162.0cm, 1987

ギャラリー3:
舟越保武の《聖女》、《聖ベロニカ》、《マグダラ》は、清楚さや憂いの奥に、信仰に生きる者としての意思の強さを湛えています。これらは舟越の他のほとんどの作品と同様、モデルなしで制作されました。舟越はモデルを使わないことについて「自分の中にある静かなものを形にしたいという願い」からだと述べています*。 カソリックの信仰をもつ舟越は、長い年月のあいだ祈りの中で内面にいる聖女たちと向き合っていたことでしょう。同時に舟越はアッシジのサンフランチェスコ聖堂からの帰り道に修道女を幻視する体験をしたり、ある時はモティーフに母親の面影を重ねることもありました。女性たちの刹那の美は舟越の内面に結晶し、ふとした時に表出するようです。彫刻家の中で抽象化された女性たちは、生身の人間のようにうつろうことなく、その美を永遠にとどめるのです。

一方、鴨居玲は描くことによって生身の人間の内面を鋭く洞察しました。《裸婦》に描かれているのは、前かがみになったモデルの、情念の塊としての肉体です。生涯人間をテーマに描きつづけた鴨居の素描には、男女の性別とは関係なくそこに存在する、一人の人間に対する愛おしさが垣間見えます。 続く新見恵里子は若い女性の佇まいをみずみずしいタッチで描き出しました。《素描10》や《室内7》のデフォルメした手脚の長い華奢な身体は、思春期特有のもろく不安定な内面を映し出し、こちらからの視線を拒むようにうつむく姿は、当時20代の画家自身が内省するさまを思わせます。

合田佐和子は、映画のヒロインを、雑誌のグラビアやブロマイドから写しとって絵画にしました。1960年代の編みぐるみのオブジェから始まり、ポラロイド写真、舞台美術と様々な表現メディアに取り組んできた合田の絵画は1970年代、古い写真をキャンバスに下絵なしで描き写すことで始まっています。《笑うマリリン》、《オレンジ色のガルボ》、そして女優の眼だけを切り取った《マリリンの眼》といった一連の作品では、本来のモノトーンがカラーに置きかえられているものの、女優たちは色の中に沈んだままです。閉じこめられた時間は異なる時空で溶け出す時を待つかのようです。


智内兄助《雛の眼のいづこをみつつ流さるる》 アクリル絵具,金箔,金泥,和紙,木製パネル 116.7 x 91.0cm, 1984
智内兄助《雛の眼のいづこをみつつ流さるる》
アクリル絵具,金箔,金泥,和紙,木製パネル
116.7 x 91.0cm, 1984

ギャラリー4:
女性の美は、時に不穏さをもたらします。智内兄助は深い闇に佇む童女の姿を精緻な筆で描きました。相馬遷子(そうませんし)の句がタイトルになった《雛の目のいづこをみつつ流さるる》では、物の怪をどっぷりと含んだような着物の絢爛豪華さが、童女の存在感を一層虚ろなものにしています。智内の愛娘をモデルにしたというこの作品に、寺田氏は初めて娘が生まれた時の「男親としての戸惑い」を重ね合わせたといいます。忽然と姿を現しやがて女性へと成長する謎の生命体は美しくもあり、えもいわれぬ妖艶さを漂わせています。また、幻想的かつ耽美な表現で知られる金子國義の《髪をすかれるアリス》や《ヘヤーピン》の美少女たち、宇野亜喜良の描く様々な物語の中の蠱惑(こわく)的な女性たちは、画家の美意識の化身のように、見る者の心をざわめかせます。

「母なる大地」という言葉のとおり、古来女性は生み育むものの象徴として崇められてきました。万有の生命を支え豊穣をもたらす「地母神」は、日本神話のイザナミのように、それぞれの国や地域で生まれ、信仰されています。内田あぐりの《地母》に描かれた女性のトルソは、大地と一体化した「母なる神」を具現化した姿でしょうか。暗い地中から、命あるものの生と死の循環をつかさどるかのようです。

折々の出会いによって収集されたこれらの作品には一見繋がりがありません。けれども全体を俯瞰してみると、人間の存在自体に強く問いを発するものなのです。寺田氏は女性をモティーフにした作品の収集について「つきつめれば人間とは何か、ということへの関心でもある」と述べています。男性である収集家にとって女性というもう一つの性が未知なる存在であるとすれば、そこに目を向けることが自分自身、ひいては人間全体を知ることへとつながってゆくのでしょう。

* 舟越保武『舟越保武のアトリエー静謐な美を求めてー』、昭和女子大学光葉博物館、2000年



ギャラリー展示風景 ギャラリー展示風景
展示風景

■インフォメーション

会場:ギャラリー3&4(東京オペラシティ アートギャラリー 4F)
期間:2009.4.11[土] ─ 6.28[日]
開館時間:11:00 ─ 19:00(4/17を除く金・土は11:00 ─ 20:00/いずれも最終入場は閉館30分前まで)

休館日:月曜日(ただし5月4日は開館)
入場料:企画展「6+ アントワープ・ファッション」の入場料に含まれます。

主催:財団法人東京オペラシティ文化財団
協賛:日本生命保険相互会社

お問い合わせ:東京オペラシティアートギャラリー Tel. 03-5353-0756