プロジェクトN

project N 36 原良介 HARA Ryosuke 2009.1.17[土]─ 3.22[日]
《on the bank》  油彩,キャンバス 162.0 x 227.3cm 2008 photo: 早川宏一 courtesy: Yuka Sasahara Gallery

《on the bank》
 油彩,キャンバス 162.0 x 227.3cm 2008 photo: 早川宏一 courtesy: Yuka Sasahara Gallery
 

原良介の絵画 ─ 余剰次元の可能性について

原良介は絵画にしかできない表現方法で、得体のしれないこの謎めいた世界の一部を抽出し、描き出そうとしている画家です。私たちが知覚している世界は、ほんの一部にすぎません。原は私たちが知覚できる領域を確かめながら、さらに拡大しようと試みているかのようです。

本展はコリドールの前半と後半で、《on the bank》(土手の上で)と《untitled and mysterious scene》(無題と神秘的な風景)の二つのシリーズに大別されます。後者はむしろ、「名づけ得えぬ神秘的な光景」と呼んだ方が良いかもしれません。前半の作品全てが《on the bank》であるのと同じく、後半も作品のどれかが《無題》でどれかが《神秘的な風景》ではないからです。

例えば《on the bank》では、左手の壁の大作に登場する三人の少女が、対岸の壁のうち一点では風景だけを残して消失し、代わりに大きな輪が浮かんでいます。「代わりに」というのは、輪の色が少女を構成していたものだからです。絵本『ちびくろサンボ』で、4匹のトラが木の周りをぐるぐる走るうちに溶けてバターになったくだりが思い出してみてください。まさにそれと同じ原理です。 そしてさらにもう一点、輪が縦に並んだ幾何学的な作品も、この大きな輪を補助線にすると分かりやすいでしょう。既にお気づきの方もいるかもしれませんが、これらの輪は大きい作品に出てくる土手、少女、木々といった全てのモチーフを縦方向に色相展開したものです。

展示風景
展示風景

《on the bank》と《untitled and mysterious scene》の作品群はどちらも、こうして互いに連鎖反応を引き起こしながら着想されています。それらは厳密にいえば連作ではなく、一点一点が独立した作品ですが、大きな幹につながる枝葉といった関係です。そしてその幹は一本ではありません。《on the bank》は近作の《by a forest》(2007)や《by a lake》(2007・未出品)、あるいは《untitled and mysterious scene》といった異なるシリーズに接木される可能性もあるのです。

原の絵画は突き詰めていえば、「代替可能性」についての作品です。作品ごとのまとまりで見ると、ある題名で呼ばれるひとつの作品が別のシリーズの仲間に入ることが可能で、さらに画面に描かれる全てのモチーフも、(人物でも木々でも)別の作品に登場可能なのです。少女たちは顔のディテールが描かれないことでどの作品でも反復可能なモチーフとして描かれ、森と湖畔と土手は近似する風景として反復され、《THUNDER BLOOD ROOT》(雷血根)(2007)は風景内の根や枝の代わりとなります。それは原曰く、「すべてのものを等価に扱」い、「公平な風景の一部」とすることです。同様に「モチーフの強弱をなくすため」に一層のみで描かれる画面は、滑るような原の特徴的な筆致を生み出しています。

展示風景 展示風景
展示風景  

遠近法にもとづく空間の奥行き表現は西欧絵画に由来するもので、日本ではそれが導入される19世紀初頭(明治時代)まで、ひとつの画面に複数の場面(時間)が線的に併置される時空間表現がなされていました。しかし原の場合、描かれる光景は時間によって線的に進行しません。三人の少女は三つ子ではなく、「同一場面で同時に存在する異なる可能性」、別の言い方をすれば「主体の遍在可能性」です。

三次元に生きている(と信じている)私たちは、それ以上の次元をこの目で確かめることができません。ですが、得体がしれないと思いながらも、「どうやらそれがある」ことを理論上は認めざるを得ないものがあります。三次元にもうひとつ時間が加わった四次元以上の「余剰次元」もそのひとつです。いつかそれを人が身をもって経験する時代がきたとき、その未来の人々は原の絵画を見て、「昔の人はこうして余剰次元を理解しようとしていたんだね」と話すのかもしれません。ちょうど現代の私たちがアルタミラの壁画の図版を見て、「昔の人にとって絵は呪術や信仰の儀式と密接に関わるもので、だからこうして狩りに出る前の祈りとして牛や馬を壁に描いたんだろうね」と話すように。

展示風景

 


原良介 HARA Ryosuke
1975 神奈川県生まれ
2000 多摩美術大学美術学部絵画科油画専攻卒業
2001 多摩美術大学大学院美術研究科修了
「トーキョーワンダーウォール公募2001」,トーキョーワンダーウォール大賞受賞
現在、東京都在住
   
主な個展
2002 「TWS-Emerging 013 原良介 展」,トーキョーワンダーサイト本郷,東京
2005 「原良介 展」,スペースギャラリー,大阪
2006 「SPROUT DRAWING」,Yuka Sasahara Gallery,東京
「原良介 展」,スペースギャラリー,大阪
2007 Gallery Stump Kamakura,神奈川
2008 「ゆらめき地平面」,Yuka Sasahara Gallery,東京
   
主なグループ展
2004 「東京デザイナーズウィーク2004 コンテナ展」,コンテナ・グラウンド(トーキョーワンダーサイト内ブース),東京
2006 「百花繚乱」,BOICE PLANNING,神奈川
2007 「東京画――ささやかなワタシのニチジョウのフーケイ」,トーキョーワンダーサイト渋谷,東京(カタログ)
   
参考文献
  • 飯田志保子「薄曇りの空に ─ 『東京画』概観」,『東京画 ─ ささやかなワタシのニチジョウのフーケイ』,東京都歴史文化財団トーキョーワンダーサイト,2007年,pp.6-7 / Iida, Shihoko. "Under a pallid sky," Tokyo Painting, Tokyo Metropolitan Foundation for History and Culture, Tokyo Wonder Site, 2007, pp.8-9
  • 成相肇「Gallery Review 原良介『BY A FOREST』」,『美術手帖』,美術出版社,2007年10月号, p.183

 

■インフォメーション

会場:東京オペラシティ アートギャラリー 4Fコリドール
期間:2009.1.17[土]─ 3.22[日]
開館時間:11:00 ─ 19:00(金・土は11:00 ─ 20:00/いずれも最終入場は閉館30分前まで)

休館日 :月曜日、2月8日[日](ビル全館休館日)
入場料 :企画展「都市へ仕掛ける建築 ディーナー&ディーナーの試み」の入場料に含まれます。

主催:財団法人東京オペラシティ文化財団

お問い合わせ:東京オペラシティアートギャラリー Tel. 03-5353-0756