◎東京オペラシティーアートギャラリー開館記念展

Releasing-Senses
感覚の解放
[見て、触って、感じる展覧会]

1999.9.9[木]― 11.21[日]


「五感」を通して感じること
美術表現を視覚だけに限定せず、聴覚・触覚・嗅覚など、われわれに与えられている五感すべてに広げて考えてみるとき、"見ている"と思っているものは、単に目の前にある物体や現象そのものではなく、実際はそれが五感を通して脳に認識され、知覚されたときに脳裏に広がるヴィジュアル・イメージであることに気づきます。目の前のイメージが既に自分の中にある記憶や体験と結びつくとき、イメージはさらに喚起され、一枚の絵から、時には鳥肌がたつほどの強烈な印象を受けることもあるでしょう。逆に、これまで見たことのないもの、聞いたことのないものに対しては、自分の中にそれを受け入れる引き出しがないために、驚きや戸惑いを覚えるものですが、それが衝撃や感動あるいは興奮につながるのです。また、五感を通して感じようとしなければ、日常生活においても、目の前にあるのに見えていないもの、そこに音があるのに聞こえてこないもの、つまり知覚されていないものが山のようにあることも事実です。

感覚の解放、イメージのひろがり
感覚というものを普段われわれは無意識に使っていますが、その感覚、感じ方は人によってさまざまであり、どのような器にどのような尺度で受け入れるかによって異なってくるものです。五感に対する直接的な刺激が、既成の概念からの解放につながり、想像の翼が広がることで、普段、見えていないものが見えてきたり、注意を払っていなかった音が聞こえてくることでしょう。
五感のすべてを解放し、感受性を豊かに、また繊細に研ぎ澄ましていることで、イメージの世界は無限に広がります。ともすれば難解と思われている現代美術の作品を読み解き、楽しむ鍵も、見る人の中にあるイメージの世界にあるのではないでしょうか。
また、現代美術における表現の可能性を見せるための場所として新たに生まれるアートギャラリーには、作品をみせるだけのニュートラルな建物としてだけでなく、プログラムの方向性や社会に対する姿勢においても、可能な限り制約ない柔軟で開かれた態度が求められているように思います。
長期化する経済的な低迷による社会環境の不安定さのために、人々の心の余裕や自由な発想が奪われがちです。このような時期であるからこそ、なおさら、表現を通して感覚を解放し、また、想像力を刺激して、「他者」に対する理解を深めることがますます必要とされているのではないでしょうか。


参加アーティスト
「Releasing Senses ― 感覚の解放」に参加する4名のアーティストは、作品に触れる、床に敷いれた作品のうえを歩く、作品に内包される音や時間をイメージするなど、さまざまなアプローチによって見る人の五感を刺激する作品を制作しています。



◎アーニャ・ガラッチオ
1988年にロンドンの若手作家が自主開催して話題になった「フリーズ」展に参加して以降、イギリスの新しい美術の波の中で独自のスタイルを保持する作家として注目されています。
生花やチョコレート、氷など、時間が経つにつれて姿を変える素材によるシンプルかつ力強いインスタレーションで知られています。また作品における匂いや温度なども見逃せない要素です。
展覧会終了後には、氷は溶け、花は枯れ、目に見える形としての作品は残らず、写真は記録でしかありません。彼女の作品は、実際にそれを体験した人の記憶の中に残るだけであり、誰も所有することはできないのです。


作品写真
《望みをもって》
ロウソク、ポリカーボネート、ガラス、ロープ
1999

3つのリングのうえにのったロウソクは、会期中燃えつづけ、形を変えます。また、リングからたれ落ちたロウソクは、床面に新たなリングを描き、その形状も変化しつづけます。
リングのうえで静かに燃えるロウソクを見つめ、その匂いを感じることで、星に願いをかけるように、希望や勇気がわいてくるかもしれません。

作品写真
《ミルキー・ウェイ》
チョコレート、オイル
1999

コリドールの壁面には、14kgのチョコレートが塗られています。甘い香りのトンネルをくぐりぬけることもできますし、ベンチに座って、まるで絵画を鑑賞するように筆跡とチョコレートの香りの両方を静かに感じとることもできるでしょう。



◎ クリスチャン・マークレー
ヴィジュアル・アーティストとして活動する傍ら、ミュージシャンでもある彼の作品には、ビートルズの曲が録音されたテープを編んでつくったクッション〈ザ・ビートルズ〉(1989)、1000個の石膏製の白い電話の受話器が床にばらまかれている〈ボーン・ヤード〉(1990)など、常に"音"や音の記憶から生まれるイメージが重要な要素として存在していま す。


作品写真
《エコーとナルシス》
CD 13,500枚
1992-1999

今回の展示では、約13,500枚のCDが床に敷き詰められています。鏡面状になったCDの上を歩くと、そこに内包される大量の"音"をイメージすることができるだけでなく、それだけの音に囲まれた自分自身をも見つめることになります。タイトルからもわかるとおり、自分の姿を見つめるナルシスに恋をして破れ、声だけを残して消えた森の精エコーの声が聞こえるようではありませんか。


作品写真
《ミックス・ レヴュー》
壁面テキスト
1999

新聞や雑誌にある音楽評(レヴュー)から抽出された言葉が、マークレーによって独自にリミックスされ、ギャラリーの壁面に一行の文字で展示されています。
音や音楽を表現するさまざまな言葉から、自由に音をイメージしてみてください。

《電話》
ヴィデオ 7分
1995

映画やテレビドラマから、電話に関するシーンを集めたもの。電話の呼び出し音から電話の取り方、終わり方まで、脈絡なく繋がれているヴィデオですが、どこかストーリーが繋がっているかのように思わせる箇所も。電話をかけるという日常的な行為が、マークレーによって新鮮な物語として再構成されています。

《レコード・プレーヤー》
ヴィデオ作品 4分
1984

両手に持ったレコードを引っ掻いたり、叩いたり、割ったり、最後には床に落として踏んだり。レコードを演奏するというよりは、レコード盤で"遊ぶ"パフォーマンスのビデオ作品。マークレーにとっては、これがまさしく"演奏"なのかもしれません。





◎ 村岡三郎
1950年代から一貫して鉄を素材とし、威厳さえ感じさせる重厚な作品を制作。1997年には東京国立近代美術館および京都国立近代美術館で大規模な個展が開催され、その評価を確実なものとしました。
鉄とあわせて酸素ボンベや塩の塊、硫黄など身体や生命に深く関係のある素材を使用しますが、目の前に壁のように立ちはだかる作品には、アーティストがその制作に関わった時間や労働、エネルギーが込められています。村岡自身、美術作品が視覚のみに依存しすぎることで、逆にそこから広がるはずの想像力やイメージが展開されにくくなってしまう危険性を指摘 しています。


作品写真
《エントランス》
鉄、塩、銅、熱(体温)、電話回線、ガラス、振動スピーカー
1999

塩の海原が眼前に広がります。そのうえには、地下室の入口(エントランス)を思わせる鉄の構造物があり、それを支えているのは銅の柱です。銅の柱には作家の体温が毎日送られ、終日、保たれます。冷たいはずの金属からは、まるで人の腕を触わっているような不思議な印象を受け、そこにはいない作家の存在を感じ取ることができます。また、展示から吊られたガラスからは、人が地下室に降りているかのように、階段を降りる音が聞こえてきます。





◎ マルティン・ヴァルデ
ヴァルデの作品には、奇妙なファンタジーがあります。見る人が直接触れるタイプの作品は、ヴァルデの、観客とのインタラクティブな関係に対する関心から来ていますが、彼の場合、強制されたり指示されたりすることによる関係ではなく、例えば、小さくてふわふわした縫いぐるみや、お菓子の缶に入っているエアーキャップを触らずにはいられないように、人が否応なく惹き付けられてしまう仕掛けを、敢えてクリエイトするところに意味を見出しています。
ゴム、綿、ロウ、シリコン、ひもから、ティッシュペーパーや卵の殻まで、日常生活のなかではとりわけ珍しくもない素材が、彼特有のファンタジックな視点を通過して"世の中にありそうで無い不思議なもの"に生まれ変わり、その罠に観客は気づかないうちにはまることになるのです。
本展のためにも、この、奇妙で不思議なものをいくつか仕掛ける予定。自身の感覚に身をゆだね、心を解放してヴァルデの作品を感じていただければと思います。


《ハンドメイツ》
ゴム、ゲル、ウレタン樹脂
1996-1999

蛍光黄緑や紫色をした風船は、やわらかいのかと思って触わってみると、中心に不思議な形をした硬いものが入っています。また、黒い風船には、自由に形をかえる奇妙な感触があります。
思わず触れてみたくなる魅惑的な色と形の前にたって、あなたは触わらずにいられるでしょうか。


作品写真
《結んでほどいて》
ロープ
1999

展示室内に山のように詰まれたロープ。細いものから太いもの、古いものから新しいものまで、さまざまなロープがあります。異なるロープどおしをつないで新しい結び目をつくるのも、すでにある結び目をほどくのも、あるいは何もしないで通り過ぎるのも、あなたの自由にゆだねられています。

作品写真:© Tadahisa Sakurai


インフォメーション
期間:1999.9.9[木]― 11.21[日]
開館時間:12:00 ― 20:00(金・土は21:00まで、入館は閉館30分前まで)
休館日:月曜日(祝日の場合は翌火曜日)

入場料:一般 ¥1,000(¥800)、大学・高校生 ¥800(¥600)、中学・小学生 ¥500(¥400)
( )内は15名以上の団体料金、その他割引制度あり
収蔵品展001「寺田コレクション秀作展 part1」の入場料を含みます。

主催:(財)東京オペラシティ文化財団
協賛:日本生命/NTT都市開発/小田急百貨店/第一生命
協力:山大鉄商/相互物産/竹尾
助成:(財)アサヒビール芸術文化財団/国際交流基金
後援:文化庁/東京アメリカン・センター/オーストリア大使館/ブリティッシュ・カウンシル/スイス大使館

お問い合わせ:東京オペラシティアートギャラリー Tel.03-5353-0756