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2015.10.01

音楽ジャーナリスト後藤菜穂子が訪ねる
ラハティ・シベリウス音楽祭2015
(パート2)

シベリウス生誕150年イヤーの決定版企画とも言える、オッコ・カム指揮 フィンランド・ラハティ交響楽団による「シベリウス交響曲サイクル」の開催が2ヶ月後に迫りました。
前回に続き、音楽ジャーナリスト 後藤菜穂子さんによる「シベリウス音楽祭」の現地レポート第二弾をお届けします。

パート1から続き)

アニヴァーサリー・イヤーのラハティ・シベリウス音楽祭は、8月31日〜9月6日の7日間、特別拡大版で開催された。例年は4日間でオーケストラ公演は3つ、すべてラハティ交響楽団とその時の首席指揮者によって演奏されるが、今年は音楽祭が始まって以来初めて、ホストのオッコ・カム&ラハティ響に加え、2つの客演オーケストラと4人のゲスト指揮者が招かれた。プログラムも例年のようにテーマを設定するのではなく、シベリウスの代表的なオーケストラ作品、すなわち7曲の交響曲および《クッレルヴォ》や《タピオラ》などの主要な交響詩を6公演で網羅するという豪華な企画となった(オーケストラ公演の他に、別会場では連日室内楽コンサートも開かれ、ふだん演奏される機会が少ないピアノ曲や室内楽曲にも光が当てられた)。

 
「シベリウス音楽祭 2015」シベリウス・ホール ロビーの様子 シベリウスの肖像画の前で記念撮影できるコーナー(この方はそっくりさん?)

招待されたオーケストラはヘルシンキ・フィルとBBC交響楽団。シベリウスの交響曲の多くを世界初演した由緒あるヘルシンキ・フィルは、名誉首席指揮者レイフ・セーゲルスタムとのコンビで開幕を飾り、交響詩《タピオラ》、《レンミンカイネン組曲》他のプログラムを熱演した。また、国外でのシベリウス受容に大きな役割を果たしてきた英国を代表してBBC交響楽団が2公演行ない、現在首席指揮者のサカリ・オラモが初期の大作《クッレルヴォ》と《エン・サガ》を指揮、もう一公演はオッコ・カムが客演、ヴァイオリン協奏曲と交響曲第2番を取り上げた。

さらに今回の音楽祭では、ラハティ響の歴代のシェフであるオスモ・ヴァンスカおよびユッカ=ペッカ・サラステの二人も古巣のオーケストラに客演、ヴァンスカが《森の精》と交響曲第3、4番、サラステが《吟遊詩人》と第1、5番を担当した。このように内外で活躍する5人のフィンランド人の指揮者たちが結集、それぞれの演奏スタイルや解釈、響きの作り方の違いなどをじっくり味わえる機会となった。
おそらくこうした顔ぶれが揃ったのには、音楽祭の芸術監督を務めるオッコ・カムのオープンで包容力のあるお人柄もあったのではないかと思う。音楽祭中にお話をうかがった際にも、ラハティ響のシベリウスの演奏の特色について、「一つの解釈に固執することなくとてもフレキシブルで、どんな指揮者のどんな要求にも応えることができるのが彼らの優れている点」だと語っており、シベリウスの音楽には多様な解釈があり得るし、むしろそれが当然だという考えを強調していた。そうしたオープンかつ謙虚な姿勢はカム自身の音楽作りからも感じ取れる。

 
セレモニーで挨拶するオッコ・カム シベリウス・ホール客席内の様子

さて、そのカムとラハティ響のコンビは、音楽祭の最後のオーケストラ公演(9月5日)に満を持して登場、交響詩《大洋の女神》、《ポホヨラの娘》および交響曲第6、7番のプログラムを演奏した。《大洋の女神》は光と波の戯れを鮮やかに描いた名作で、カムはオーケストラから豊かな表情を引き出して、輝かしいクライマックスへと導いていった。続く交響詩《ポホヨラの娘》はカレワラ伝説に基づいたドラマティックな冒険譚。切れ味のよい弦楽器、フルートやオーボエの溌剌としたソロ、そしていぶし銀の響きの金管楽器群が物語を活き活きと歌い上げた。

この日、特に心に残ったのは交響曲第6番だった。第5番と第7番の間にはさまれ、演奏回数がいちばん少ないとも言われるが、実際には抒情的な作品で親しみやすい。カムとラハティ響の演奏は透明感のある軽やかなタッチで、森の中に差し込む光や、湖を吹き渡る風などのイメージを醸し出してくれた。冒頭、弦楽器が美しいアンサンブルを織りなしたあとオーボエやフルートが加わり快活な楽想に移るが、そうしたテンポの変化もカムの手にかかるときわめて自然に流れていく。謎めいた魅力をもつ第2楽章に続き、スケルツォ楽章は躍動感にあふれ、終楽章ではオーケストラのさまざまな声部の間で緻密な対話が交わされた。

シベリウスの最後の交響曲となった第7番は、第6番の直後に着手されたにもかかわらず、形式的にも内容的にも驚くほど異なった音世界といえる。「シベリウスは交響曲において同じことを繰り返すことはなく、どの曲もきわめて個性的で、前の曲と似ている部分はまったくありません」とカムは語るが、本当にそのとおりだと思う。
曲は単一楽章から成り、各セクションはきわめて有機的に展開していく。この曲を指揮する上でのコツはテンポをなるべく目立たないように変化させていくことだそうだが、カムは見事な手腕でそれを実現し、しかもオーケストラから深みと広がりのある表現を引き出した。ここでも彼は曲の内なる流れに沿って、特定のフレーズをことさら強調することなく、よどみなく曲を築き上げていく。曲の節目で現れるトロンボーンの高貴な主題も全体の響きの中から立ちのぼってくるようだった。コンパクトながらシベリウスのエッセンスがつまった作品であり、最後は万感の思いのこもったハ長調の和音で締めくくられた。

 
9/5公演より カーテンコールに応えるオッコ・カムとラハティ響 客席はスタンディングオベーション

© Juha Tanhua/写真提供:フィンランド・ラハティ交響楽団

音楽祭の最後のオーケストラ・コンサートだったからか、観客の喝采に応えてアンコールに《フィンランディア》が演奏された。シベリウス・イヤーにこの地で聴く《フィンランディア》に思わず感動でゾクゾクしてしまったが、意外なほどテンポの速い軽やかな演奏で、新鮮な思いで聴くことができた。
隣に座っていたフィンランド人の老紳士も最後、感極まっていたが、彼のお祖母様はシベリウスの愛妻アイノと学校時代からの友人で、毎年のようにアイノラの家も訪れていたそうだ。オッコ・カムの父親もヘルシンキ・フィルのコントラバス奏者としてシベリウスの曲を初演したそうだし、この国ではシベリウスはまだまだ身近な存在として語り継がれていることを実感しながらホールをあとにした。

→音楽ジャーナリスト後藤菜穂子が訪ねるラハティ・シベリウス音楽祭2015(パート1)はこちら



[関連情報]



BISレーベルによるプロモーション動画(オッコ・カムのインタビューや録音風系など)



公演情報

2015年11月26日[木]19:00 コンサートホール
2015年11月27日[金]19:00 コンサートホール
2015年11月29日[日]15:00 コンサートホール

オッコ・カム指揮 フィンランド・ラハティ交響楽団
生誕150年記念 シベリウス交響曲サイクル


公演詳細情報へ

[出演]

指揮:オッコ・カム
ヴァイオリン:ペッテリ・イーヴォネン
フィンランド・ラハティ交響楽団

[曲目]

11/26[木]
  • シベリウス:交響曲第1番 ホ短調 op.39
  • シベリウス:交響曲第2番 ニ長調 op.43

11/27[金]
  • シベリウス:交響曲第3番 ハ長調 op.52
  • シベリウス:ヴァイオリン協奏曲 ニ短調 op.47
  • シベリウス:交響曲第4番 イ短調 op.63

11/29[日]
  • シベリウス:交響曲第5番 変ホ長調 op.82
  • シベリウス:交響曲第6番 ニ短調 op.104
  • シベリウス:交響曲第7番 ハ長調 op.105


[料金](全席指定・税込)

【3公演セット券】S:¥18,000(残席僅少) 【1回券】各日 S:¥8,000 A:¥6,000 B:¥4,000 (11/29は残席僅少!)


■チケットのお申し込み
東京オペラシティチケットセンター 03-5353-9999

電話 10:00〜18:00/店頭 11:00〜19:00/月曜定休



他、プレイガイド

*セット券は、東京オペラシティチケットセンター(電話 03-5353-9999・店頭)のみの取り扱い。(「インターネット予約」での取り扱いはございません。)
*東京オペラシティArts友の会会員特典:チケット料金10%割引。割引でのお求めは東京オペラシティチケットセンター(電話・店頭・インターネット)のみ。
*曲目、出演者等は、変更になる場合がございますのでご了承ください。
*就学前のお子様の同伴・入場はご遠慮ください。
*ネットオークション等での営利目的の転売はお断りします。

公演に関するお問い合わせ:東京オペラシティ文化財団 03-5353-0770

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