インタビュー 「メキシコ音楽の祭典」ホセ・アレアン

「メキシコ音楽の祭典 ─ オーケストラ・コンサート ─」に出演する指揮者のホセ・アレアン氏に、今回のオーケストラ・コンサートの魅力について語っていただきました。彼は、現在、メキシコシティ・フィルハーモニー管弦楽団の芸術監督を務め、メキシコ国内で最も活躍している指揮者の一人です。

(2013年11月 メキシコ・シティにて 聞き手・山田将生)

こんにちは。ホセ・アレアンと申します。今回、メキシコのプログラムを東京で演奏できることを心より喜んでおります。メキシコの作曲家の様々な側面をお聴かせできる今回のプログラムを、日本の聴衆の皆様が気に入って下さったらなんと素晴らしいことでしょう!

  • ■ポンセ、チャベス、レブエルタスはどんな作曲家ですか?。
  • 彼らは19世紀後半から20世紀へと続く、メキシコのクラシック音楽のレパートリーにおいて大切な3本柱です。それぞれに特徴があり、三者とも全く異なる性格の作品を書いています。

    マヌエル・M・ポンセは、とても夢想的で、ドイツの後期ロマン派やフランス的な要素も持っています。彼はフランスに留学し多大な影響を受けました。ドビュッシーやラヴェルのオーケストレーションを理解しているだけでなく、感覚的にも彼らととても近いと思います。しかし同時に、メキシコの他の作曲家に対しても影響を及ぼすようなメキシコ的なもの、メロディー、ハーモニー、リズム、そして言葉との関係を初めて作品内に取りこみました。つまり、ポンセには19世紀を振り返るヨーロッパ的な面と新しいメキシコ的な面という2つの面を持っていることが分かります。これはメキシコ国民楽派の芽生えということができると思います。

    1920年代になると、チャベスとレブエルタスが活躍し始めます。2人ともメキシコ国民楽派と呼べますが、作風は正反対の極を示しています。メキシコでは、革命後(1920年代)の政治変革の際、文化の重要性が強調されました。それは国家としてのアイデンティティを確立する必要があったためです。政治論争だけでなく、芸術、文化においても論争が起こりました。特に、文学、美術、そして音楽において。それらはメスティソ(混血)のメキシコと呼ぶことができるかもしれません。インディヘナ(メキシコ土着的なもの)とスペイン(ヨーロッパ的なもの)が対立としてではなく、調和・融合を生み出したのです。征服という行為は、ただの暴力行為として見られるだけでなく、新しい文化を生み出す行為であると見られるようになっていきました。新しいメキシコ民族の芸術・文化の誕生です。このことは大変重要なことでした。なぜなら、メスティソとしての音楽の創造が始まったのですから。

    チャベスは知的な人物でした。思想家であり、外国の社会的な出来事にも関心がありました。ストラヴィンスキー、コープランド、ガーシュインの友人であり、指揮者のクーセヴィツキーなどの著名人との友好関係から、アメリカに長年住むことになります。しかし、彼の表現する音楽はメキシコ的なものです。メキシコの民謡などを実際に再現しようとしたのではなく、それらを取り込んで自らの音楽を表現しています。

    レブエルタスの作品を特徴づけるものは、アイロニー、風刺など、非常に真面目な笑いであり、嘲笑的な気質です。また、彼は、過去の音楽だけでなく、村から聞こえてくる様々な音楽を自分の作品に取り込もうと試みています。民俗楽団のマリアッチや吹奏楽など、村や道端で演奏されていた音楽を取り入れることで、複数のリズムが同時に刻まれる複雑なリズムになります。これはストラヴィンスキーの影響だと思います。楽器についてもメキシコの伝統的な音楽によく使用されるトランペットを自分の作品にも多用することでメキシコ的な響きとなっています。

    これら三人の人物、ポンセ、レブエルタス、チャベスは、19世紀終わりから20世紀前半にかけてのメキシコの魂を表現した見事な「壁画」*を表していると思います。

    *メキシコ壁画運動は1920年代から1930年代にかけて起こった絵画運動です。革命の意義やメキシコ人としてのアイデンティティーを民衆に伝えることが目的であり、そのため誰でもいつでも見ることのできる壁画が主な媒体に選ばれました。主な作家にディエゴ・リベラ(1886-1957)、ダビッド・アルファロ・シケイロス(1896-1974)、ホセ・クレメンテ・オロスコ(1883-1949)らがいます。

  • ■今回、3/30「オーケストラ・コンサート」で演奏する曲はそれぞれどのような作品ですか?
  • まず、レブエルタスとストラヴィンスキーの関係について。 ストラヴィンスキーの《春の祭典》は1913年初演ですが、この曲がメキシコで初演されたのはずっと後のことです。レブエルタスは《春の祭典》を聴いて、音楽において新しい時代が始まったことに気づきました。そしてレブエルタスは自身の音楽語法において、メキシコのリズムを効果的に使うことを決心しました。 とりわけ彼が作曲した《センセマヤ》は、メキシコ特有のリズムがとても強烈に打ち出された作品です。反復を土台にするところは、ラヴェルの《ボレロ》に通じるアイデアです。最初はとても小さな音量から次第に大きく、内容も濃く密度を高め、リズムを繰り返すたびに音楽が少しずつ変化していき、最後は巨大な機械へと変貌していきます。旋律はメキシコ固有のインディヘナの言語の抑揚を保ちながら、ストラヴィンスキーの《春の祭典》のような大地の力強さを伴っています。

    次のポンセの《ヴァイオリン協奏曲》は全く対照的な作品です。先ほど申し上げたようにヨーロッパ的な要素を持つメキシコのロマン派とも呼べます。ヴァイオリンを声楽的な楽器と捉え、旋律を極めてよく歌わせています。19世紀のスタイルという意味では伝統的ですが、声楽的な旋律を含めたその音楽語法はメキシコ的です。

    ポンセ:ヴァイオリン協奏曲 より第1楽章(3/30公演と同じ指揮者、ソリストによる演奏の様子)

    それに対するのが、チャベスの《ピアノ協奏曲》です。とても革新的な作品で、ピアニストやオーケストラに反人間的とも言える凄まじい技術と体力を要求します。ヴィルトゥオジティを要求する上、ソリストが途中で休むことが許されません。すべての瞬間に置いて全力疾走をつづけなくてはならない「ツール・ド・フランス」のような作品です(笑)。このような作品はラテン・アメリカのクラシック音楽のレパートリーの中でも極めて希少です。チャベスは、19世紀までのクラシック音楽で使い古された変奏を含む反復という形式や対比を一切排し、ひたすら前へ前へと推進力を持って休むことなく曲を進めることで新しい世界を拓こうと考えたのです。1950年代頃までのストラヴィンスキーの作品同様、私はこの協奏曲は新古典主義の作品と呼びたいです。

    レブエルタスは小品をいくつも作曲しましたが、《マヤ族の夜》は大作です。メキシコの国民楽派の作曲家は、ほとんどが「アステカ文明」をテーマとして取り上げましたが、この作品は「マヤ文明」をテーマにした数少ない作品です。マヤが実際どうであったかは、まだまだ研究が十分ではありませんが、遠い過去をテーマとし、レブエルタスの湧き出す想像力によって、とても詩的で旋法的なフレーズを創作し、マヤ族の音響世界を現代に蘇らせました。

    これらのメキシコ音楽によって私たちの国「メキシコ」を知って、どうか楽しんでください。

■公演情報

2014年3月28日[金]19:00
リサイタルホール
─ 室内楽の夕べ ─

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[料金](税込)
全席自由:¥3,000 (Arts 友の会特典:10%割引)

2014年3月30日[日]14:00
コンサートホール
─ オーケストラ・コンサート ─

・レブエルタス:センセマヤ
・ポンセ:ヴァイオリン協奏曲
・チャベス:ピアノ協奏曲[日本初演]
・レブエルタス:マヤ族の夜

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[料金](全席指定・税込)

S:¥5,000 A:¥4,000 B:¥3,000(Arts 友の会特典:10%割引)

[チケットのお申し込み]

東京オペラシティチケットセンター
03-5353-9999(電話 10:00〜18:00/店頭 11:00〜19:00/月曜定休)

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コンサート情報

2014年3月28日[金]19:00
リサイタルホール

メキシコ音楽の祭典
─ 室内楽の夕べ ─

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2014年3月30日[日]14:00
コンサートホール

メキシコ音楽の祭典
─ オーケストラ・コンサート ─

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[チケットのお申し込み]

東京オペラシティチケットセンター
03-5353-9999
(電話 10:00〜18:00/店頭 11:00〜19:00/月曜定休)

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ホセ・アレアン(指揮)
José Areán, conductor

ジャン=ギアン・ケラス

1966年メキシコシティ生まれ。現在、最も活躍しているメキシコ人指揮者の一人で、活動範囲は、オペラ、バレエ、管弦楽、映画音楽、音楽制作、アートマネジメントなど多岐にわたる。6歳から音楽の勉強をはじめ、メキシコ国立音楽学校でピアノとコントラバスを専攻。その後、ウィーン音楽院で指揮を学び、1995年に卒業。テノール歌手、ロランド・ヴィラゾンがメキシコ国立歌劇場でデビューしたオペラや、カルロス・チャベスの唯一のオペラ『訪問者』など、数々のオペラ公演で成功、世界初演も積極的に行っている。また、ラモン・ヴァルガス、フランシスコ・アライサ、フィリップ・クィント、サラ・チャン、ジオラ・ファイドマン、パブロ・シーグレルら国際的なソリストと共演、アルゼンチン、オーストリア、ブラジル、フランス、チェコ、オランダ、ルーマニア、スイスのオーケストラを指揮した。2005年にミネリア交響楽団の指揮者に、2013年1月よりメキシコシティ・フィルハーモニー管弦楽団の芸術監督に就任。また、ラテンアメリカの最も重要な舞台芸術祭であるメキシコ国際芸術祭の理事(2002〜2007年は芸術監督)、メキシコ国立歌劇場の芸術総監督の経験もあり、毎週、クラシック音楽のテレビ番組の司会も務めている。


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