スティーヴ・ライヒ 80th ANNIVERSARY エッセイ「永遠の音楽賛歌《テヒリーム》ライヒが“最高傑作”と呼ぶ作品とともに東京オペラシティに!」

前島秀国(サウンド&ヴィジュアル・ライター)

1970年代、スティーヴ・ライヒが《ドラミング》と《18人の音楽家のための音楽》を発表した時、当時の若者たちはそれを「トリップ感満載の音楽」と表現し、夢中になった。それから20年以上が経過した1999年、今度は気鋭のDJたちがライヒの楽曲をリミックスしたアルバム『ライヒ:リミックス』が日本発の企画としてリリースされ、それをきっかけに新たな世代のファンが生まれた。現在ではテクノ、エレクトロ、クラブ・ミュージックのアーティストのほとんどが、日常的にライヒへのリスペクトを口にしている。

なぜ、ライヒの音楽はそこまで人々を熱狂させるのか? 視覚芸術におけるミニマル・アート、ファッションにおけるミニマル・モード、ライフスタイルにおけるミニマル・ライフなど、シンプルで無駄のない最小限(ミニマル)を求める潮流が、彼の音楽を受け入れる素地を作っているのは確かだろう。しかし、それだけが理由ではないと思う。

ライヒの作品では、複数の演奏者(またはパート)が同じパターンをユニゾンで繰り返し、ある奏者(たち)がそのパターンを徐々にズラしていくことで、元のパターンと、ズレたパターンが複雑に重なり合い、その結果、音楽に広がりが生まれてくることが多い。そうしたズレの技法を、ライヒの用語で「フェイジング」と呼ぶ。実のところ、「フェイジング」の技法は、ルネサンスの時代からバッハの時代にかけて盛んに用いられた、伝統的な「カノン」(ある演奏者が別の演奏者の旋律を遅れて模倣すること)の技法と、本質的に変わるところがない。「フェイジング」という技法自体が「カノン」の技法からズレていった、ひとつの派生型ということもできるだろう。

ライヒの作品においてズレていくのは、曲の中で繰り返されるパターンだけではない。日本でも約20年前に上演されたオペラ《ザ・ケイヴ》は、もともと同じ神ヤハウェを信仰していたユダヤ文化圏とイスラーム文化圏が、いつの間にかズレを起こし、対立を起こすようになってしまった現状をテーマにしている。同じ源流から枝分かれした、似た物(者)同士が生み出すズレ。詰まるところ、ライヒは音楽を通じて、「あなたとわたしは、どこが同じで、どこが違うのか」という本質的な問題を我々に問いかけている。だから、彼は「フェイジング」や「カノン」といった技法にこだわり続けるのだ。

今回演奏される《テヒリーム(詩編)》は、バッハ以前の音楽、とりわけ中世のポリフォニー音楽を強く意識して作曲された声楽つきのアンサンブル曲。「フェイジング」の技法の代わりに、より伝統的な「カノン」の技法が用いられている。「カノン」によって何度も何度も繰り返される、「太鼓と踊りによって主を称えよ/弦と笛によって主を称えよ」という詩編の歌詞。それは聖書時代から現在に至るまで、音楽の喜びが形を変えながら綿々と受け継がれているという事実を示している。つまり、昔も今も変わらない音楽賛歌だ。その賛歌が、聖書時代はおろか、ミニマル以前の音楽でもあり得なかった複雑なリズムを伴って歌われるところに、《テヒリーム》という作品のズレの魅力、面白さが存在する。ライヒ自身の言葉を借りれば、「同時に伝統的にも現代的にも聴こえる」作品なのだ。

そんな《テヒリーム》をライヒは「自分の最高傑作」と呼び、かねてから東京オペラシティでの演奏を切望してきた。タケミツメモリアルの大空間に《テヒリーム》のコーラスが響き渡る時、聴き手は太古から変わらぬ音楽賛歌の素晴らしさを再認識しながら、同時に「ライヒ=ミニマル」の既成概念がズレていく、不思議な感覚を覚えるだろう。ライヒ生誕80年記念に相応しい、必見のコンサートである。

東京オペラシティArts友の会会報誌「tree」Vol.119(2016年12月号)より

2012年《ドラミング》公演のカーテンコール
ライヒ、コリン・カリー・グループ、シナジー・ヴォーカルズ
© 大窪道治

■公演情報

スティーヴ・ライヒ 80th ANNIVERSARY
《テヒリーム》

2017年3月1日[水]19:00
2017年3月2日[木]19:00
会場:コンサートホール

[出演]

パーカッション/指揮:コリン・カリー
コリン・カリー・グループ
シナジー・ヴォーカルズ
ゲスト:スティーヴ・ライヒ

[曲目]

ライヒ:
・クラッピング・ミュージック(1972)
・マレット・カルテット(2009)
・カルテット(2013)
・テヒリーム(1981)

(2日間同一プログラム)

公演詳細情報へ

[チケット情報]

予定枚数終了

コンサート情報

スティーヴ・ライヒ
80th ANNIVERSARY
《テヒリーム》


2017年3月1日[水]19:00
2017年3月2日[木]19:00
コンサートホール

公演詳細情報へ


ページトップ

東京オペラシティ コンサートホール/リサイタルホール


閉じる