山中千尋 クリスマス・ジャズ・コンサート エッセイ「いま注目のジャズ・ピアニストによる、オリジナル新作、スタンダード・ナンバー、そして20世紀作品のアレンジ」

小沼純一(音楽・文芸批評家)

今年8月、N響JAZZに出演した山中千尋を聴いたばかりだ。曲はガーシュインの《アイ・ガット・リズム変奏曲》と《ラプソディ・イン・ブルー》。オーケストラとピアノの共演、と予告されていたのだったが、当日ステージにはオケはもちろん、ピアノ・トリオが!いま、特に《ラプソディ・イン・ブルー》はクラシック系であろうとジャズ系であろうと、演奏するピアニストは多い。そこをさらに進めて、山中千尋はトリオで、しかもオリジナル曲を生かすところは生かし、だがときに大きく逸脱した演奏で、喝采を浴びたのである。

山中千尋、群馬県桐生の出身、桐朋学園大学のピアノ専攻を経てバークリー音楽院に留学し、2001年にアルバム・デビュー。ニューヨークを拠点に内外で活発に演奏をおこない、アルバムでも1作ごとに趣向を凝らす。DECCAレーベルとはこの列島で初の契約を交わしたミュージシャン。ステージでソロをとれば聴き手の耳は、眼は、一気にその姿に釘づけになる。ジャズに馴染んでいるとか詳しいとかではない。ただそこでたちあげられる音楽の熱量に呑みこまれてしまうのだ。

シンガポールで山中千尋と一緒にしごとをする機会が、たまたま、昨年あった。ピアノにむかい、からだをならしているとき、指さきからでる音楽にわたしは身動きができなかった。ジャズのスタンダードや自作曲はもちろん、あいまあいまに、ショパンが、ラヴェルが、スクリャービンがとびだしてくる。そうか、こんなふうに、このミュージシャンのなかではいろんな音楽が共存しているのかと納得したのである。そして、先のコンサート、《ラプソディ・イン・ブルー》のソロ・カデンツァにはクラシック系の曲の断片あるいはそれらしき雰囲気の曲調が織りまぜられたばかりか、今度の東京オペラシティでのコンサートに含まれるジェフスキー《「不屈の民」変奏曲》がさらりと登場、自身のからだに曲をいれこんでいると同時にプロモーションまでもとおもわず笑ってしまった。

さて、今回東京オペラシティ コンサートホールに登場する山中千尋。一筋縄ではいかない曲がならぶ、とでも言ったらいいか。ニューヨーク・ジャズ・カルテットのメンバーとして知られるローランド・ハナの曲、自作曲、このあたりなら「ジャズ」と呼んでしまっていいだろう。よくみるとクレジットには20世紀に書かれた曲の「ジャズ・アレンジ」、とあるではないか。ジャズ・ピアニストがクラシック系の名曲をアレンジした演奏は数多い。ヴィヴァルディからバッハ、モーツァルト、ショパン、サティ。そのあたりなら想定内。だが、ここにならんでいる曲はどうだ。ベルクの高名な《ピアノ・ソナタ》、武満徹が谷川俊太郎の詩につけたソング、そして、カーデューとジェフスキー。

武満、カーデュー、ジェフスキー、いずれも社会的な場において歌われたメロディーが基本になった曲だ。《死んだ男の残したものは》はヴェトナム戦争の時期。《ブラヴォーグ》(*)は18世紀末、アイルランドの対イングランド蜂起の勝利を祝って。《不屈の民》は南米チリのアジェンデ政権の応援。時代はそれぞれ違っているけれども、どれも20世紀の作曲家が多くの人たちと声をあわせて歌える曲、親しみやすいメロディーをもとにした作品である。タイトルだけではわからないかもしれないが、曲を耳にすれば、どこかで聞いたことがあるかもしれない。たとえ知らなくても、すっとからだにはいってくる。20-21世紀の、現代作曲家の手でこうした曲が書かれ、しかもジャズ・アレンジによってべつの表情をもってあらわれる。それがはたしてどんなふうに「べつの表情」なのかは、当日のおたのしみ。

わたしとしては、山中千尋が、ジャズのライヴでみせてくれるのとは異なった、もっとこのミュージシャンの脳や記憶や心身の奥にあるものが、これらの楽曲とアレンジのなか、どんなふうにあらわれてくるのかとても気になっている。作曲家=演奏家としてのみならず、自らの糧としてきた多くの音楽を山中千尋がどう料理してくれるのか。どきどき、である。

*山中千尋はアルバム『ブラヴォーグ』(2008)をリリースしているが、こちらは造語「bravouge」。カーデューの曲は2台のピアノのための《Boolavogue》。カーデューは交通事故で1981年に亡くなり、この作品は未完のまま残されたものとして知られる。

■公演情報

山中千尋 クリスマス・ジャズ・コンサート
─ 2台のピアノによるコンテンポラリー・ジャズ ─

2016年12月21日[水]19:00
会場:コンサートホール

[出演]

ピアノ:山中千尋
ピアノ:ラズロ・ガードニー

[曲目]

・山中千尋:コート・イン・ザ・レイン
・山中千尋:アット・ドーン
・山中千尋:モーメント・オブ・イナーシャ
・サー・ローランド・ハナ:シーズンズ
・アルバン・ベルク:ピアノ・ソナタ op.1 より *
・武満 徹:死んだ男の残したものは *
・コーネリアス・カーデュー:ブラヴォーグ より *
・フレデリック・ジェフスキー:《不屈の民》変奏曲 より *

*山中千尋によるジャズ・アレンジ

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[料金](全席指定・税込)

S:¥5,000 A:¥3,000

[チケットのお申し込み]

東京オペラシティチケットセンター
03-5353-9999(電話 10:00〜18:00/店頭 11:00〜19:00/月曜定休)

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コンサート情報

山中千尋 クリスマス・ジャズ・コンサート ─ 2台のピアノによるコンテンポラリー・ジャズ ─


2016年
12月21日[水]19:00
コンサートホール

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東京オペラシティ コンサートホール/リサイタルホール


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