エッセイ シベリウスが作品に託したメッセージを語りつくすラハティ響

フィンランド・ラハティ響が開催する「シベリウス音楽祭」がスタートした2000年にラハティに留学、以来、音楽祭を毎年体験している指揮者・新田ユリ氏に、ラハティ響のシベリウス演奏についてご寄稿いただきました。

文・写真 新田ユリ(指揮者)

  • 2000年9月、シベリウス音楽祭は生まれたてのシベリウスホールで始まった。

    私は2000年10月から始まる文化庁在外研修生としての1年間の留学準備のため、この第1回シベリウス音楽祭の時期に初めてラハティの地を踏んだ。新たな拠点を得たラハティ響、ホールとともに精緻な音作りはさらに磨かれ、楽員それぞれに鋭い耳でホールの照明が発する音を探しながら録音セッションを積み「シベリウス全集録音」が完成した。15年間で楽員は少しずつ入れ替わり今回の来日公演ではコンサートマスターが前回の2006年の来日と全員交代している。

    2000〜2007年オスモ・ヴァンスカ、2008〜2010年ユッカ=ペッカ・サラステ、2011年〜オッコ・カム ── この3人のフィンランド人指揮者の連携の中にはシベリウス演奏へのフィンランド人の多面的な解釈が見えていた。ヴァンスカ氏が粘り強く丁寧に育て、フィンランド人らしい寡黙な国際派サラステ氏が新たな空気を送り込み、そして現在のカム氏により熟成されたラハティ響。3名の指揮者によってラハティ響の音楽の表現の幅がとても広がった。弦楽器のサイズも一回り大きくなったが、それにもまして世界各地のホールで演奏を重ねてきた経験は、ラハティ響のシベリウス演奏の響きの幅を変えた。ヴァンスカ氏の時代、「オスモのpp」という呼び方で楽員も非常に神経を使って演奏した極上の弱音。弱音の美しさが優れば、表現の幅が広がるというヴァンスカ氏の持論だった。

    当時ヴァンスカ氏とラハティ響の様子は大きな家族のようだった。分奏の日も設けてセクションごとに丁寧に音作りを完成させていった。コントラバスから順に静かにチューニングをする。音色、音程の追及はマエストロからの一方通行ではなかった。シベリウス独特の細かな音粒、弦楽器がそれを奏でる時には「本当にこの人数が一緒に演奏しているのか」と思うほどの同質性。爪弾くピツィカートは一人のギター奏者のように語り、ハーモニーは透明にホールの空間を浸す。金管セクションの柔らかなフォルテは限りなく伸びてゆき、抜群のアンサンブル力を持つホルンセクションは、シベリウスの作品の柱となっていた。素朴な温かさを持つ木管セクションは本当に仲良しだった。そしてシベリウス作品で重要な意味を持つティンパニは、寡黙ながら奥深いつぶやきを思わせ、コントラバスとの緊密な連携を聞かせていた。


    オッコ・カム氏と筆者

    フィンランド人は日本人と似てシャイな性格を持つ人が多い。派手なパフォーマンスを好まず、実直で作品に真摯に向き合う。その姿勢はシベリウスという作曲家が作品に託したメッセージを余すところなく語りつくし、シベリウスホールの木造の壁に描きつくしていった。

    今回来日公演を率いるオッコ・カム氏はヴァイオリン奏者としても知られている。現在でもラハティ響の若手メンバーと音楽祭最終日の室内楽公演に登場することもある。弦楽器を知り尽くしているマエストロならではの音作りが就任当初から顕著だった。マエストロの持つロマンティックな歌心は、すぐにラハティ響の弦楽器セクションに反映した。芳醇で厚みを増した弦楽器の響きが描くシベリウスの作品は、ある意味懐かしい響きとも聞こえ、また未来への力強い勢いを感じるものだった。弦楽器の厚みが増したことで、のびやかな管楽器セクションはさらに強弱のレンジが広がった。シベリウスの楽譜では強弱の意味は大きい。

    マエストロはリハーサルであまり細部まで徹底させるタイプではない。カム氏は大きな方向性を描き、その中で楽員が自主的にアンサンブルをし、マエストロの描くデッサンを共に色付けしてゆく。

    ラハティ響は来季の首席指揮者兼音楽祭監督も決定したばかり。モスクワ生まれのディーマ・スロボジェニュク氏が2016年秋より、オッコ・カム氏の後を引き継ぐ。そのカム氏との最後の1年での来日公演。熟成したコンビはシベリウスの魅力を余すところなく表現してくれることを確信する。

【筆者プロフィール】

新田ユリ Yuri Nitta
1991東京国際音楽コンクール<指揮>第2位受賞。愛知室内オーケストラ常任指揮者、日本シベリウス協会会長。2000年よりフィンランドと日本を拠点として活動。音楽祭への招聘、クオピオ響、ヨエンスー市管、フィンランド国防軍吹奏楽団等へ客演。

東京オペラシティArts友の会会報誌「tree」Vol.112(2015年10月号)より

■公演情報

オッコ・カム指揮
フィンランド・ラハティ交響楽団
生誕150年記念 シベリウス交響曲サイクル

会場:コンサートホール

[出演]

指揮:オッコ・カム
ヴァイオリン:ペッテリ・イーヴォネン
フィンランド・ラハティ交響楽団

2015年11月26日[木]19:00
・交響曲第1番 ホ短調 op.39
・交響曲第2番 ニ長調 op.43

2015年11月27日[金]19:00
・交響曲第3番 ハ長調 op.52
・ヴァイオリン協奏曲 ニ短調 op.47(ヴァイオリン:ペッテリ・イーヴォネン)
・交響曲第4番 イ短調 op.63

2015年11月29日[日]15:00
・交響曲第5番 変ホ長調 op.82
・交響曲第6番 ニ短調 op.104
・交響曲第7番 ハ長調 op.105

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[料金](全席指定・税込)

【1回券】各日 S:¥8,000 A:¥6,000 B:¥4,000(11/29は予定枚数終了)
【3公演セット券】S:¥18,000(予定枚数終了)
(Arts 友の会特典:10%割引)

[チケットのお申し込み]

東京オペラシティチケットセンター
03-5353-9999(電話 10:00〜18:00/店頭 11:00〜19:00/月曜定休)

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コンサート情報

オッコ・カム指揮
フィンランド・ラハティ交響楽団
生誕150年記念
シベリウス交響曲サイクル


2015年
11月26日[木]19:00
11月27日[金]19:00
11月29日[日]15:00
コンサートホール

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