インタビュー オッコ・カム シベリウス交響曲サイクルを語る「ラハティ響はシベリウス演奏に必要なすべてを身につけています」

内なる情熱、澄んだ孤独 ─ シベリウスの交響曲に溢れる豊かな抒情を、冴えた眼差しが磨く。北欧の偉大なる孤高が遺した傑作交響曲・全7曲を、フィンランド・ラハティ交響楽団を迎えて味わい尽くす〈シベリウス交響曲サイクル〉は、今年が生誕150周年にあたる作曲家の音宇宙を熟知するオーケストラが贈る最高の経験になるだろう。首席指揮者に迎えた名匠オッコ・カムと共に、吟味された響きから生まれる深い透明感と精緻な厚み……その秘密を伺った。

2015年2月 京都にて
取材・文・撮影:山野雄大(音楽評論家)
取材協力:ホテル日航プリンセス京都

  • ©Julia Bayer
  • ■ラハティ交響楽団は勇将ヴァンスカさんが首席指揮者を務めた時代、世界に新たな刺激を与えた〈シベリウス交響曲全集録音〉をはじめ、シベリウス演奏を軸に大きな飛躍を遂げましたが、サラステさんの時代を経ていま、カムさんとの時代を迎えています。楽団にも豊かな変化がありましたね。
  • オッコ:ええ。まずオスモ・ヴァンスカは実に素晴らしい仕事を成し遂げたと思います。本拠地ラハティに新しいホールが出来たということも大変重要な成果で、そうした環境のうえにいま、私が私なりの審美眼をもって共演しているわけです。世界には技術的に凄いオーケストラはままあるわけですが、〈シベリウス独特の音色を出せるオーケストラ〉という点では、ラハティ交響楽団は誠に代え難い存在です。
  • ■やはり独特の語法がシベリウス演奏の難しさに繋がっていますね。
  • オッコ:初期の交響曲はそれほど難しいわけではないですけれども、交響曲第4番と第7番は解決し難いところがありますね。特に第4番はとても複雑で……でもシベリウスで最も美しい、他とは異なった美を表現している作品だと思います。シベリウスは〈自然の呼吸〉よりも息長いフレーズを書きませんでした。その呼吸を生かすためには、微妙なテンポのニュアンスやセンスがとても重要なのです。ラハティ響は数限りなくシベリウスを演奏してきましたから、技術的にも作品に向き合う精神においても、必要な全てを身につけています。我々は世界の卓越したオーケストラにも無いもの ─ シベリウス独特の音色を生む多彩可変なサウンドを持っているからこそ、自然な呼吸も生きるのです。
  • ■〈自然の呼吸〉よりも息長いフレーズがない、というあたりは重要ですね。
  • オッコ:たとえば、交響曲第5番の第1楽章。途中でファゴットのとても息長い独奏がありますよね。しかしこれも実は〈長すぎない自然なフレーズ〉なんです。むしろ演奏上で解決が難しいのは、そのソロの下で弾いている、虫がかさこそいってるような弦楽器の刻み(笑)。その前に出て来る弦楽器のリズムの重なりかたも非常に難しい。シベリウスの場合、こうしたポイントをきっちり精密に合わせないといけないんですが、あるいはまた、フレーズの細部に至るまで、どのようなタイミングで表現するかも難しい。たとえば交響曲第4番でゆっくりと自由に弾かれるチェロの独奏がありますね(歌う)。このフレーズのどの拍、どの瞬間でも、タイミングを停めたり先へ動かしたりもできる。これはテンポ設定の問題ではなく、タイミングのセンスの問題なんです。
  • ■世界で最もシベリウスの演奏経験が豊富な楽団と、この作曲家を熟知し尽くしたカムさんとのコンビならではの、理解し合う者同士の演奏が聴けますね。
  • オッコ:でも私はオーケストラに無理に演らせるようなことはしたくないんですよ。もちろん指揮者は誰でも自分の望むサウンドを出してほしいと願うものですし、楽団の持つスタイルとは違いはあるものです。しかし私は自分の考えに合わせるために楽団をぎゅぎゅっと絞り上げたいわけじゃなくて(笑)、室内楽を演奏するようにありたい。オーケストラの考えていることを受け容れつつ、自分の考えも皆さんに提供する、という具合にね。やはりそれが音楽の生きて動くプロセスというものじゃないでしょうか。
  • ©Ixi Chen
  • ■今回はシベリウスの交響曲を、第1番から番号順に演奏されますね。
  • オッコ:書かれた順番に演奏することで、作曲家の創作がいかに進展していったかを知ることができますね。初期の第1番と第2番はスラヴ音楽の影響を受けつつナショナリズムの要素が強い作品ですが、これらは独立心の昂揚をイメージして書かれたわけではありません。音楽の解釈はジャーナリスティックに作られてゆくものでもありますからね。
  • ■第2番には作曲家がイタリア旅行で受けた印象が反映されていたり、近しい人が亡くなった衝撃が織り込まれていたり、個人的な要素も強いですね。
  • オッコ:まったくその通り。しかしシベリウスにとって何よりも大切だったのは心から欲する音楽であり、彼独自の音楽言語は、外的な要素に左右される種類のものではありません。政治情勢もイタリアの印象も、過剰な解釈は無用でしょうね。
    そして第3番。私はこの曲が大好きなんです。初期モダニズムとでも言いますか、ある意味でシベリウスっぽくないでしょ(笑)。私が自分で最初に買ったレコードはこの曲、コリンズ指揮ロンドン響による名演でした。私はシベリウスに真正面じゃなくて脇から入ってる(笑)。
  • ■第4番はシベリウスの内面を深く表現した作品でもあります。
  • オッコ:困難な時期に書かれた作品です。手術のため好きな飲酒も長く禁じられ……ちなみに私の父はシベリウスも指揮したオーケストラでコントラバスを弾いていました。指揮するシベリウスはフェルマータのところになると[酒のせいで]震える手を自分で押さえていたとか(笑)いろいろな逸話をききました。
    シベリウスは指揮もしたおかげで、オーケストラの能力もよく承知していました。当時の楽団の技術的な未熟が彼の管弦楽法にも制約をもたらしている。楽譜には、彼の時代の楽団はオーボエがホルンやサクソフォンのような音色を出していたのかという書き方がみえます(笑)。楽譜をそのまま鵜呑みにして演奏してはいけないのです。
  • ■次の第5番は祝祭的な広がりも感じる作品ですね。
  • オッコ:この曲は決定稿に先立つ初期稿もありますが、比べるとシベリウスの天才を思い知ります。彼は自分の発想に囚われず、弱点もより良きものへと変えていった。決定稿では、素材の使い方にも全く迷いない域に達している。スケルツォ部分への移行など、目覚ましい素晴らしさですよね。
    次の第6番も大好きです。大聖堂でパレストリーナを演奏しているようで(歌う)とても美しい……。分奏が多い弦楽器がオルガンのような響きを生む[日本語で]〈天の音楽〉です!
    最後の第7番は史上稀な作品です。一音たりとも無駄な音が無い。素材を生かす凝縮された筆致といい管弦楽法といい、完璧です。……最後、和音のなかで弦楽器だけ音を上げて終わるでしょ。私にはこれが〈アデュー(さよなら)〉だと思えるんですよ。
  • ■人気のヴァイオリン協奏曲も演奏してくださいますね。
  • オッコ:シベリウス自身の演奏技量を反映してか、スタッカートが少ない(笑)。彼の作品はやはり、歌ってゆく要素が強いと思います。第1楽章の総奏で力強く弾くメロディなど、ドイツの楽団のように「タッ・タッ・ターッ!/タカタッ・タッ・ター!」と切って弾かずもっと朗々と歌わなきゃ。そういう細かいところの積み重ねで、作曲家の意図へ近づいていくのです。
  • ■カムさんとラハティ響は、既に素晴らしいシベリウス録音も発表されていますが‥‥
  • オッコ:私はレコーディングが大好きってわけじゃないんですが(笑)同じBISレーベルから、新たに録音した〈シベリウス交響曲全集〉がまもなく発売されますよ[2015年9月発売・詳細はこちら]。
  • ■新しく素晴らしい音宇宙の広がりを楽しみにしていますし、その全曲を東京で体験できるのは幸せです!
  • オッコ:私は東京オペラシティ コンサートホールでも何度も演奏してきましたが、とても大好きな空間です。ちょうど本拠地ラハティと同じく木のホールですし、まさにそれ自体が楽器のようですよ!

東京オペラシティArts友の会会報誌「tree」Vol.111&112(2015年8月、10月号)より

■公演情報

オッコ・カム指揮
フィンランド・ラハティ交響楽団
生誕150年記念 シベリウス交響曲サイクル

会場:コンサートホール

[出演]

指揮:オッコ・カム
ヴァイオリン:ペッテリ・イーヴォネン
フィンランド・ラハティ交響楽団

2015年11月26日[木]19:00
・交響曲第1番 ホ短調 op.39
・交響曲第2番 ニ長調 op.43

2015年11月27日[金]19:00
・交響曲第3番 ハ長調 op.52
・ヴァイオリン協奏曲 ニ短調 op.47(ヴァイオリン:ペッテリ・イーヴォネン)
・交響曲第4番 イ短調 op.63

2015年11月29日[日]15:00
・交響曲第5番 変ホ長調 op.82
・交響曲第6番 ニ短調 op.104
・交響曲第7番 ハ長調 op.105

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[料金](全席指定・税込)

【1回券】各日 S:¥8,000 A:¥6,000 B:¥4,000(11/29は予定枚数終了)
【3公演セット券】S:¥18,000(予定枚数終了)
(Arts 友の会特典:10%割引)

[チケットのお申し込み]

東京オペラシティチケットセンター
03-5353-9999(電話 10:00〜18:00/店頭 11:00〜19:00/月曜定休)

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コンサート情報

オッコ・カム指揮
フィンランド・ラハティ交響楽団
生誕150年記念
シベリウス交響曲サイクル


2015年
11月26日[木]19:00
11月27日[金]19:00
11月29日[日]15:00
コンサートホール

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