いま一番人気のカウンターテナー、フィリップ・ジャルスキーの真髄を聴く!

新世代のカウンターテナーを代表するフィリップ・ジャルスキー。ヨーロッパでは今や大人気で、しかも愛好家だけではなく音楽家仲間からも高く尊敬されている逸材です。声域はメゾソプラノで、透明度の高い伸びやかな高音と驚異的な技巧を持ち、その真摯な歌いぶりと天賦の舞台プレゼンスで聴衆をたちまち虜にしてしまう。
今回、東京オペラシティ コンサートホールでの公演では、彼がここ数年力を注いできた、ファリネッリとカレスティーニという18世紀の名カストラート歌手たちのレパートリーを再現させるプロジェクトを特別プログラムで実現。昨秋のヨーロッパ・ツアーの合間にお話をうかがい、公演にかける熱い思いを語っていただきました。

取材・文:後藤菜穂子(音楽ジャーナリスト・在ロンドン)

  • ■ジャルスキーさんはもともとヴァイオリンを学んでいたそうですね。どういったきっかけでカウンターテナーに転向されたのでしょうか。
  • ジャルスキー(以下J):ヴァイオリンを始めたのは11歳で、音楽学校ではつねに遅すぎると言われてきました。ところが18歳の時に歌のレッスンを受け始めたら歌手としては全然遅くないということがわかり、自分の道を見出したのです。もとから自然なソプラノの歌声を持っていたのでカウンターテナーをめざしましたが、初めは特にバロック音楽に興味があったわけではありません。僕自身はどんな形でもよいから音楽に携わっていたかったのです。
  • ■これまでどんな歌手たちから影響を受けてきましたか?
  • J:カウンターテナーではジェラール・レーヌ、アンドレアス・ショル、デイヴィッド・ダニエルズらから影響を受けましたが、僕がもっとも尊敬しているのはチェチーリア・バルトリです。その音楽性はもちろん、知られざるレパートリーに光を当てようという彼女の姿勢には強く感服します。
  • ■今回の公演では、18世紀のロンドンでライバルとして活躍した二人の伝説的なカストラート歌手、ファリネッリとカレスティーニがテーマです。ジャルスキーさんはここ数年、彼らのレパートリーの発掘に力を注いできました。
  • J:映画『カストラート』の影響もあって一般にはファリネッリのほうが有名ですが、カレスティーニは18世紀においてもっとも美しい声の持ち主だったと言われています。実は僕は映画で描かれているような、技巧偏重のモンスター歌手としてのファリネッリ像が好きではなく、いわばその反発から彼の影に隠れてしまった歌手を取り上げたいと思い、2007年にカレスティーニのアルバムを発表したのです。
  • ■昨年はファリネッリのアルバムもリリースされましたね。
  • J:あるコンサートのために、1730年代ロンドンでのカレスティーニとファリネッリのライバル関係を調べる中で、作曲家ニコーラ・ポルポラがファリネッリのために書いた音楽と出会い、ようやくこの歌手に親しみを感じられるようになりました。ポルポラは著名な声楽教師でもあり、ファリネッリは彼の愛弟子だったのです。そのためポルポラの作品には、ファリネッリの驚異的な技巧だけではなく、その深い音楽性への敬意がこめられているように感じます。僕としてはファリネッリのためのアリアを通じて、多くの人にポルポラの美しい音楽を知ってもらいたいと思っています。
  • ■カレスティーニとファリネッリの歌声の特色について教えてください。
  • J:ロンドン時代のファリネッリは豊かなコントラルトの声を持っていたと言われています。カストラート歌手は息継ぎをせずに声を長く保持できることで有名でしたが、ファリネッリは人一倍保持することができ、ロンドンの観客を熱狂させました。他方、カレスティーニはきわめて美しいメゾソプラノの声を持ち、演技力ではファリネッリより秀でていました。ヘンデルの傑作オペラ『アリオダンテ』の主役はカレスティーニのために書かれ、その中の名曲「戯れるがよい、不実な女め Scherza infida」を聴けばいかに魅力的な声だったかがわかるでしょう。今回のプログラムでは、この二人の世紀の歌手のためにヘンデルとポルポラが腕によりをかけて作曲した珠玉のアリアを選びました。
  • ■ジャルスキーさんのカウンターテナーとしての声は、どんなタイプといえるのでしょうか。
  • J:声域としてはメゾソプラノに相当し、高い方は2点イ音(a2)まで歌いますが、低い方の声はそれほど強さはありません。僕自身は地声はバリトンなのですが、たとえば同じ高い声域を持つカウンターテナーのフランコ・ファジョーリやマックス・エマヌエル・ツェンチッチは地声がテノールなので、低い方の声が出やすいのだと思います。でも昨年、半年間コンサート活動から休みを取って、低い音域の発声も強化し、また中音域の声の響きも増してきたと思うので、今後はもっとアルトのレパートリーも歌っていきたいと思っています。
  • ■バロック・オペラのアリアの多くはダ・カーポ形式で書かれており、最初のメロディーを繰り返す際には装飾を加えて歌うことが求められます。ジャルスキーさんはそうした装飾をご自分で創っていらっしゃいますか?
  • J:はい、アリアのダ・カーポ部分やカデンツァの装飾はすべて自分で創っていますし、またコンサートごとに少しずつ変えています。テンポの速いアリアの装飾はそれほど変える余地はないのですが、カデンツァでは自由にできるので、毎回違うことをしています。またダ・カーポの際には装飾だけではなく、音色を変えたり、強弱を変えたりもします。
    共演のヴェニス・バロック・オーケストラとは、多くの公演を重ねる中で信頼関係が強まり、今ではいわば歌手とピアニストのように敏感に反応し合えるようになりました。たとえば僕があるフレーズをいつもと違う風に歌い始めてもぴたりと反応してくれます。
    バロック音楽にはこうした自由さがあるので、それをうまく生かすことによって、つねに新鮮な音楽を生み出すことができるのです。

■公演情報

2014年4月25日[金]19:00
コンサートホール

フィリップ・ジャルスキー& ヴェニス・バロック・オーケストラ

[チケットのお申し込み]

東京オペラシティチケットセンター
03-5353-9999(電話 10:00〜18:00/店頭 11:00〜19:00/月曜定休)

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コンサート情報

2014年4月25日[金]19:00
コンサートホール

フィリップ・ジャルスキー&
ヴェニス・バロック・オーケストラ

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フィリップ・ジャルスキー(カウンターテナー)
Philippe Jaroussky, countertenor

フィリップ・ジャルスキー(カウンターテナー)

30代にして、今や世界を代表するオペラ歌手としての地位を確立しており、フランス国内で最も権威のある音楽賞ヴィクトワール・ドゥ・ラ・ミュージック新人オペラ・アーティスト賞を2004年に受賞したのを皮切りに、これまで国内外において数多くの受賞歴を誇っている。2010年には自身4度目となる年間最優秀オペラ・アーティスト賞にもノミネートされた。モンテヴェルディ、サンチェスといったセイチェントの高尚な音楽から、奇才ヘンデルやヴィヴァルディの楽曲まで、バロック時代における膨大なレパートリーを誇り、その完璧な超絶技巧は表現力に富み、独創的であり、また華やかさを兼ね備えている。近現代における楽曲もレパートリーにしており世界中で披露している。数多くの著名な指揮者、オーケストラとも共演しており、今後も世界中の主要ホールで公演が予定されている。これまでのアルバムも「グラモフォン賞」をはじめ数々の賞を受賞、世界的なヒットを記録。最新アルバムは伝説のカストラート歌手ファリネッリと彼の師ポルポラをテーマとした『ポルポラ:ファリネッリのためのアリア集』を2013年9月にリリースし、好評を博している。

オフィシャルサイト(仏/英)
http://www.philippejaroussky.fr/


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東京オペラシティ コンサートホール/リサイタルホール


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