武満徹作曲賞

審査結果・受賞者の紹介

2018年度

審査員

© Eric Richmond /
Arena PAL

本選演奏会

2018年5月27日[日] 東京オペラシティ コンサートホール
指揮:杉山洋一、東京フィルハーモニー交響楽団

受賞者

第1位

バーナビー・マーティン(イギリス)
量子
(賞金100万円)

パウロ・ブリトー(ブラジル/アメリカ)
STARING WEI JIE TO DEATH
~ シンフォニック・エヴォケーション、中国の故事による
(賞金80万円)

第2位

ルーカス・ヘーヴェルマン=ケーパー(ドイツ)
量子真空
(賞金60万円)

ボ・リ(中国)
SLEEPING IN THE WIND
(賞金60万円)

左より、ボ・リ、パウロ・ブリトー、ウンスク・チン、バーナビー・マーティン、
ルーカス・ヘーヴェルマン=ケーパーの各氏
photo © 大窪道治

審査員:ウンスク・チン 講評

皆様こんにちは。本日は2018年度武満徹作曲賞の授賞式にお越しいただき有難うございます。私の名前はウンスク・チンです。今年度の審査を仰せつかり、大変光栄に存じます。武満徹は20世紀音楽における偉大な巨人でした。彼の作品は今日でも世界中の作曲家、音楽家、そして聴衆の方々に認められております。武満氏は東と西の間にいまだかつてなかった橋をかけました。彼の音楽にはまさに境界線が存在しません。それだけにこの素晴らしい世界的なコンクールが彼の名を冠しているのは、とても象徴的かつ意義深いことです。武満徹作曲賞が創設されて以来、何人もの素晴らしい作曲家がここで見出され、若手作曲家に多大な影響を及ぼしただけでなく、今日の音楽の発展に大変大きな寄与を果たして参りました。今年度は40カ国より、143作品の応募があり、その多くは大変興味深いものでした。それだけにファイナリストの決定は容易なものではありませんでした。しかし、以下の事項が私にとっては大切な指針となりました。強烈でしっかりとした構成および構成力、技能、個性、他と一線を画するような発想、明快な様式、オーケストラ作品を書く上での技量です。最終的にこれらの要件を満たした創造性あふれる4作品が選ばれました。同時にこれらの4つの作品が皆互いに全く違うものであることにも留意し、コンサート・プログラムとしてもみなさんに興味深く聴いていただけるように考えました。

順位を発表する前に、それぞれの作品に対する短い総評を申し上げたいと思います。

■バーナビー・マーティン(イギリス):量子
これは一切の偏見を持たない作曲家による作品です。彼は自然科学と古楽を勉強し、異なる様々な作曲のアプローチをしていました。その結果として、そこには彼独自の世界が繰り広げられ、洗練された和声の使い方、複雑なストラクチャーを駆使し、発展させる能力、そしてオーケストラから引き出す豊かな色彩がとても印象的でした。

■ルーカス・ヘーヴェルマン=ケーパー(ドイツ):量子真空
新たな音楽世界を産み出したいとする強い意思と素晴らしい勇気を感じさせる作品です。個々の音が強い力を持ち、それぞれの世界を形成しながら、同時に個々の音がひとつになって濃密なテクスチャーを持った大きなエネルギーになっていきました。作曲家は伝統的な音楽のパラメーターにはとらわれず、その音楽は次元の異なる濃密さを持って形作られていました。

■ボ・リ(中国):SLEEPING IN THE WIND
こちらは音楽性に溢れ、鮮やかで、オーケストラ音楽の手法に則りながら、コントラストのはっきりした劇的旋律が発展した作品です。一瞬でヴィジュアルなインパクトを与えられ、作曲家自身は鋭い聴覚を持っていることが感じられます。そうでありながら自分の書いた音楽を完璧に手中に収めています。オーケストラの使い方には創造性に溢れ、ディテールに拘りながら巨視的な視点も失ってはいません。

■パウロ・ブリトー(ブラジル/アメリカ):STARING WEI JIE TO DEATH
この作品は4つの異なる楽章で構成されています。私はその簡潔さに驚かされました。不要なインフォメーション(情報)はひとつもありません。全てが見事なまでに整えられていました。しかし同時に、その音楽は表現に満ち、それぞれの楽章において何か新しいものがもたらされていました。非常に濃密なテクスチャーでありながら、シンフォニー・オーケストラが持つ可能性をフルに引き出していました。

では、これから2018年度武満徹作曲賞を発表します。第3位はございません。第2位はルーカス・へーヴェルマン=ケーパーさんの《量子真空》、そしてボ・リさんの《SLEEPING IN THE WIND》になります。それぞれの作曲家は60万円の賞金をお受けになります。そして第1位は、パウロ・ブリトーさん(《STARING WEI JIE TO DEATH》)、賞金80万円。もう一人第1位は、バーナビー・マーティンさん(《量子》)、賞金100万円となります。

この特筆すべきコンクール、そして受賞者の皆様の幸多き未来をお祈りすると共に、東京オペラシティ文化財団の皆様の素晴らしいご尽力に心より感謝申し上げます。

通訳:久野理恵子/文責:東京オペラシティ文化財団

受賞者のプロフィール

第1位
バーナビー・マーティン(イギリス) Barnaby Martin
量子

1991年ノーフォーク生まれ。ケンブリッジ大学を卒業。複数のコンクールに入賞し、作品はオペラ・ノース管弦楽団、セント・ポール大聖堂合唱団、バークレー・アンサンブル、プサッファ・アンサンブル、リゲティ・カルテットなど国内外のアマチュア及びプロの団体によって演奏されている。2017年、45分のカンタータ《キリストの誘惑》が、クリストファー・スタークの指揮、イルミナーレ合唱団とソリストによって初演された。この作品は2017年BASCA英国作曲家賞の合唱部門にノミネートされた。
https://www.barnabymartin.com/

受賞者の言葉
もうかなり舞い上がっていますので、どうぞお許しください。まず最初に東京オペラシティ文化財団、理事長をはじめとする皆様にお礼を申し上げます。ここに立っているだけで、私は大変光栄なチャンスをいただけたと思っております。若い作曲家としては、自らの作品を大変レベルの高い演奏で奏でていただくという機会はめったにございません。東京フィルハーモニー交響楽団の皆様と指揮者の杉山洋一氏に心よりその質の高い演奏に御礼を申し上げたく思います。そしてこのようなオーケストラ作品を作曲するには大変な時間と努力が必要となります。しかしながら、それが実際に演奏される機会というのはなかなかないだけでなく、このように素晴らしいホールで、素晴らしい方々に演奏していただけて、私としてはこの上ない幸せでございます。ウンスク・チンさん、私の作品を選んで下さっただけでなく、あなたは私にとって本当に尊敬してやまず、憧れの音楽家でございます。その大好きな方に選んで貰い、さらに洞察力溢れるコメントをいただきましたことを、御礼申し上げます。今日ここに一緒に並ぶことができたルーカス・へーヴェルマン=ケーパーさん、パウロ・ブリトーさん、ボ・リさん、3人の皆さんと出会えたことも、私にとっては大きなことでした。そして澤橋氏には改めて御礼を申し上げます。彼の助けなくしては、そしてこの素晴らしい組織がなければ、私の今日までがなかったと思います。
今週は私にとって最高の週でした。本当に皆様有難うございました。
通訳:久野理恵子
第1位
パウロ・ブリトー(ブラジル/アメリカ) Paulo Brito
STARING WEI JIE TO DEATH
~ シンフォニック・エヴォケーション、中国の故事による

1987年リオ・デ・ジャネイロ生まれの作曲家、ピアニスト。アメリカ、フランス、ウクライナで育ち、音楽と一般教養科目をキエフ、パリ、ニューヨーク、シカゴ、トロントで学んだ。コロンビア大学で古典文学学士号、シカゴ大学で比較文学修士号を取得し、現在はトロント大学で作曲の博士号を取得中。常に学際的に様々な分野を研究し、作曲家としてもオペラを最も複雑な総合芸術と捉えている。自身のプロジェクトでは、中国の音楽と演劇への関心から、異なる文化的伝統の統合だけでなく、異なる芸術分野の統合も目指している。

受賞者の言葉
こうなるとは思っていませんでしたので(笑)、もし支離滅裂で思いの方が先走っていたらお許しください。今これは本当に光栄なことですが、この感動は後になってより深いものとなってやって来るのではないかと思っています。今は謙虚に、本当に皆様への心からの深い感謝、審査を務めていただいたウンスク・チンさんをはじめとする東京オペラシティ文化財団の皆様に御礼を申し上げたいと思います。私の感謝を述べ始めたら本当にきりがなくなってしまうと思います。ですから、最低限の言葉にここではさせていただきます。
まずは審査員のウンスク・チンさんに心から御礼を申し上げます。ファイナルにまで私の作品を選んでくださり、他にも本当に素晴らしい作品の数々があったことは疑う余地もないでしょう。しかし、彼女によって深く作品を読み取ってもらい、彼女のような素晴らしい作曲家、プロフェッショナルな方に選んでいただけたということは、私にとって大変光栄なことです。続いて東京オペラシティ文化財団の皆様にも御礼を申し上げたく思います。若き作曲家達にとってこういった大きな作品をオーケストラに演奏してもらう形で皆さんに聴いていただける、これは世界でもなかなか類を見ない素晴らしいコンクールです。そういった中に参加させていただき、ありがたく思うとともに、大変なご努力、ご尽力に改めて御礼を申し上げたく思います。そして指揮者の杉山洋一氏に改めて御礼を申し上げます。リハーサルの初日から私は彼の献身的な姿勢に深く心を打たれました。表面的にはそんなに難しくないように見えながら、細かいディテールやあちこちに拘りがある、そんな作品を演奏して下さった東京フィルハーモニー交響楽団の皆様にも御礼申し上げます。最後にここに一緒に並んで受賞したファイナリストの友たちです。彼らを尊敬してやまないと同時に、リハーサル等を通して彼らからもどれだけ多くのことを学んだことでしょう。もう言いたいことは山とございますが(笑)、ただ一言、本当に心から有難うございました。
通訳:久野理恵子
第2位
ルーカス・ヘーヴェルマン=ケーパー(ドイツ) Lukas Hövelmann-Köper
量子真空

1989年カッセル生まれ。16歳から音楽活動をはじめ、2013年から独学で作曲を始めた。多くの受賞歴があり、最近では、初のオーケストラ作品《Aku Mau Hidup Siebu Tahun Lagi》がインドネシア・オーケストラ・アンサンブル賞を受賞。ピアノをウーヴェ・フォルクマー、ギターと作曲をユルゲン・フロムに師事。またブライス・パウセット、ディエゴ・ファインシュタイン、コルネリウス・シュベアの作曲講座に参加。2017年2月、ヴェニッヒセン修道院において、ベルトルト・ブレヒトの断片を元にした音楽劇『Hans im Gluck』が初演された。2017年3月、シンガポールのナンヤン芸術学院から、ダブル・ウィンド・クィンテットを委嘱され、2018年夏に初演予定。2017年4月、国際的に有名な上海のSWATCHアートピースホテルのレジデンス・アーティストに選ばれ、6ヶ月滞在した。
https://www.hoevelmann-koeper.com/

受賞者の言葉
ありがとうございます。こんにちは。私は本日自分の作品がこの素晴らしいコンサートホールで、素晴らしいオーケストラによって演奏されるのを聴く事が出来、大変光栄かつ幸運に思っております。そしてこの素晴らしい歴史の1ページの中に私が入ることができたこと、特に武満徹さんは現代音楽において、私にも大変強いインパクトを与えて下さった作曲家でいらっしゃいます。今日、このように素晴らしいオーケストラで私の作品を演奏していただけただけでなく、残念ながら、現代音楽が演奏される回数というのは日々減ってきているという現状のなかで、オーケストラによって大変素晴らしい演奏をして貰えたことは、私にとってとても大きなことでございました。
最後にもちろん今日審査を務めて下さいましたウンスク・チンさんは当然のことながら、東京オペラシティ文化財団の皆様のご尽力に心から感謝申し上げます。そしてファイナリストの一人になることを通して、他のファイナリスト、素晴らしい才能をもった作曲家の方々と知り合いになることができて大変幸せです。そして何と言っても、東京フィルハーモニー交響楽団、指揮者の杉山洋一氏には、私の音楽を実際にこのように生き生きと、演奏して下さったことに感謝申し上げます。最後に私が書いた多声部のスコアから読みやすいパート譜を作るためにご尽力くださった中島裕美さんに心より御礼申し上げます。
通訳:久野理恵子
第2位
ボ・リ(中国) Bo Li
SLEEPING IN THE WIND

1988年吉林省生まれ。複数の国際コンクールや音楽祭で成功を収めている作曲家。現在、アメリカのミズーリ大学カンザスシティ校の博士課程に在籍。2017年、北京の中国伝統楽器管弦楽ソサエティの執行役員の1人に任命された。2011年中国文化部主催のWen Huaコンクール第1位、2012年パウル・ヒンデミット賞、2012年Con Tempo国際作曲コンクール第1位、2017年ジェラルド・ケムナー・オーケストラ作曲コンクール第1位、2017年中国国際作曲賞から優秀賞に選ばれた。11の楽器のための室内楽《Mondlicht-Stadtmaur-Prosadichtung》はドイツのシコルスキー社から出版されている。

受賞者の言葉
こんばんは。今日ここに武満徹作曲賞を受賞でき大変光栄に思います。私が作曲を始めてから、武満徹作曲賞はひとつの夢でありました。東京オペラシティ文化財団の皆様とウンスク・チンさんには心より御礼を申し上げます。私にとってウンスク・チンさんの作品は、新しい音楽の世界への窓を開けて下さいました。そして、彼女のコメントや提案は私にとってとても大きな意味を持ちました。東京フィルハーモニー交響楽団の皆様、指揮者の杉山洋一氏、本当に彼らが素晴らしい演奏をして下さったことで、私自身大変多くのことを学ぶことができました。そして何と言っても、今日ここにいらっしゃる3人の仲間達、彼らと出会えたことは、本当にその作品の素晴らしさも当然ながら、私にとって素敵なことです。
私の作品《SLEEPING IN THE WIND》は足のない鳥について描写しました。この鳥は足がないので地面でも木の上でも休めません。私はこの物語を人間の本性についてじっくり考えるために使いたいです。
最後に私が作曲を学んできました北京大学およびミズーリ大学カンザスシティ校にも、御礼を申し上げたいと思います。そして私の作曲の師であるタンジェン・ピン教授、チェン・イー、ツァオ・ロンの各氏、私の家族、ここに集って下さった多くの皆様方、本当にありがとうございました。
通訳:久野理恵子
ON AIR

本選演奏会の模様はNHK-FMで放送される予定です。

番組名:NHK-FM「現代の音楽」
2018年6月17日[日]午前8:10 - 9:00/6月24日[日]午前8:10 - 9:00
(2回にわけての放送)
*放送日は変更になる場合があります。
NHKラジオ https://www.nhk.or.jp/radio/
番組ホームページ https://www4.nhk.or.jp/P446/

お問い合わせ

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