武満徹作曲賞 審査結果・受賞者の紹介

2007年度

西村 朗

【審査員】
西村 朗(日本)
Akira Nishimura (Japan)

講評を読む

指揮:岩村力、東京フィルハーモニー交響楽団

【受賞者】

左より、ファン・マン、植田彰、西村朗、アンドレア・ポルテラ、ヨーナス・ヴァールフリードソン、ウー・イーミンの各氏 photo © 東京オペラシティ文化財団

左より、ファン・マン、植田彰、西村朗、アンドレア・ポルテラ、
ヨーナス・ヴァールフリードソン、ウー・イーミンの各氏 photo © 東京オペラシティ文化財団

より創造的な音楽文化の可能性を育むため、東京オペラシティ文化財団が世界の次代を担う若い世代に新しい音楽作品の創造を呼び掛ける「武満徹作曲賞」。2007年度審査員は、現代日本を代表する作曲家・西村朗氏です。
今回は世界42カ国156作品から、2006年11月の譜面審査で5作品が選ばれ、本選演奏会で下記受賞者が決定いたしました。

審査員:西村朗 講評

審査員を務めさせていただきました、西村朗です。世界的にも非常に注目度の高い「武満徹作曲賞」の単独審査を仰せつかりまして、誠に大役で緊張いたしましたと同時に大変名誉にも感じております。私も思い返せば二十歳の頃、こうしたコンクールの本選会のファイナリストとして客席にいて、ステージ上で講評を述べられるのを聞いた経験がございます。その時の審査員は3名いらっしゃいまして、「3人の会」というコンクールでした。團伊玖磨さんと芥川也寸志さんと黛敏郎さんで仰ぎ見るような先輩方でしたが、舞台上で言いたい放題の審査で、私は客席にいて緊張しすぎておりましたが、そのときの言葉の一つ一つ、一挙手一投足とでもいうのでしょうか、全部覚えています。ということは、今日私も相当慎重に言葉を選び、立ち居振る舞いに気をつけなければ生涯恨みを買う恐れもあるので、ますます緊張しているところですが(笑)。
それでは講評と審査結果を発表させていただきます。講評は演奏曲順に行います。
この「武満徹作曲賞」はただ一つの作品に作曲賞を差し上げて終わっても良いということですが、今までは順位が付いてきましたので、私も今回順位を付けさせていただきました。ただし、1位がいるかどうかは限りません。同じ順位で複数の方が並ぶ場合もあります。5名のファイナリストですから、4位、5位という順位もありえます。それを前提としてお聞きください。

■ ファン・マンさん 《アクア~武満徹の追憶に》
この作品は、変化を続ける音の波が光と水の風景を織り上げていく、統一感をもった書法が光る優れた作品だと思いました。特に“アクア”と名づけられた第2楽章に魅力を感じました。また、短いですけれどポエティックな感情表現が現れる第3楽章も非常に印象的だと思いました。この作品の順位は第3位です。

■ ウー・イーミンさん 《夢の回想》
これはまさに夢見るような美しい作品だと思いました。オーケストレーションが大変巧みで、豊かな音色とニュアンスと一種官能的なモティーフが次々と現れて、聴く者を甘く酔わせる力のある作品だと思いました。この作品に一番共感を持たれた、一番惹かれたとお感じになられる方も多かったのではないでしょうか。この作品の順位は同じく第3位です。

■ ヨーナス・ヴァールフリードソンさん 《戦場に美しき蝶が舞いのぼる》
タイトルからして大変魅力的な作品ですが、これは極めてデリケートで個性的なスタイルを持った作品だと思いました。一種ミステリアスな詩情と心理的ドラマを大胆かつユニーク、かつ簡潔に描いて、見事な作品だと思いました。この作品の順位は第3位です。

このままいくと、全ての作品が3位ではないかという疑念が生じたかもしれませんが(会場笑)、そうとは限りません。

■ アンドレア・ポルテラさん 《キューブ》
これは極めてイマジネーション豊かな作品だと思いました。新鮮な音楽的効果に富んでおり、オーケストラの扱いが大変緻密かつ入念で、ノーテーションも見事だと思いました。第2楽章が特に素晴らしいと思いました。そして全体の構成もよく考えられていて、第5、第6楽章という極めて印象的かつ魅惑的な結末へと誘われました。この作品の順位は第2位です。

■ 植田 彰さん 《ネバー・スタンド・ビハインド・ミー》
植田さんはすでにこの「武満徹作曲賞」のファイナリストに2度なっておられます。2000年度と2004年度です。今回が3度目ということになります。私はそれら2作も聴いておりますが、今回の作品は音楽的な内容と言葉がそれらに比べていっそう強烈で、様々なコントラストに富んだものになっていると思いました。極めて大胆なオーケストラの扱いに驚き、時にエフェクトに走りすぎているかとも思えましたが、不思議に空疎さがなく、作者の内的ドラマの生々しい表現として説得力を持っていると感じました。荒々しさの中に、もの悲しいペーソスを感じさせるものもございまして、これは作者の人生を反映しているのかもしれません。このような時折凶暴な響きと斬新過激なスタイルを持つ、いわばモンスター的作品を武満徹さんはどのように思われるでしょうか? しかし、この審査をしている私の曲も時々いろいろございまして・・・、武満徹さんには「西村くん、もっと音を削れ。うるさい」と言われておりましたが、「これ以上削れません。必要最低限です」と言っておりましたら、武満さんは笑って「しょうがないね」と許して下さっておりました。従って、この植田さんの作品も、武満さんは案外積極的に楽しまれて、その才能を評価されたかもしれないとも思いました。
若い世代の作家として、植田さんはオーケストラのパレットの拡張に挑まれました。このことは有意義だと思います。しかし、いずれにせよ、このような問題作には賛否がつきまとって、大嫌いと言う方もおられるでしょうし、本当に大好きと思われた方もいらっしゃるでしょう。というわけで、私の中でもやや分裂状態で、こうなった場合2位と3位があるので、1位か4位ということで、皆さんの挙手で決めようかとも思いましたが、それではあんまりなので・・・、異論が生じることも覚悟の上で、もし気に入らなければ私にトマトを投げて頂いても良いですが・・・、結果を申し上げます。植田さんの作品を今回第1位とします。

最後に賞金の額について申し上げます。総額300万をどのように割っても良いということなので、なるべく端数が出るように割って、端数を頂こうかと思ったのですが、ダメだということなので細かく割りました。第1位の植田さんは120万円です。第2位75万円。第3位はそれぞれ35万円。合計で300万円となります。
世界から156作品もお寄せくださったこと、そのいずれもが極めて質の高いものであったこと、そして本日ファイナリストとしてこちらへいらしてくださった方々。お聴きいただいたように、いずれも素晴らしい作品で審査をさせて頂いて、本当に幸せに感じております。また同時に演奏困難な作品もありましたが、素晴らしい演奏を東京フィルハーモニー交響楽団の皆さん、指揮者の岩村力さんが聴かせてくださいました。この場をお借りして、それにも御礼申し上げたいと思います。どうもありがとうございました。

受賞者のプロフィール

第1位
植田 彰(日本)
ネバー・スタンド・ビハインド・ミー

1973年11月25日、清水市生まれ(現・静岡市)。2000年に東京音楽大学大学院修士課程修了。近藤 譲、成田勝行、坪能克裕、池野成、有馬礼子、藤原 豊の各氏に師事。2000年度武満徹作曲賞第3位。2001年、第11回芥川作曲賞ノミネート。同年、第17回名古屋文化振興賞受賞。2002年、第2回JFC作曲コンクール佳作。同年、ガウデアムス国際音楽週間入選。2004年度武満徹作曲賞第2位。2005年、第15回芥川作曲賞ノミネート。

【受賞の言葉】
まず今回、賞を頂きまして、西村先生に本当に感謝しております。ありがとうございました。そして良い演奏をしてくださいました、オーケストラの皆さん、指揮の岩村さん、本当にありがとうございました。僕はいつも自分の曲は賑やかしでワーワーやって、後はメインの人にまかせるつもりで曲を書いているものですから、僕が頂いちゃって良いのかな・・と考えたら胃が痛くなってきたのですが、それなりに頑張っていくつもりでおりますので、よろしくお願いいたします。ありがとうございました。

第2位
アンドレア・ポルテラ(イタリア)
キューブ

1973年12月16日、トスカーナ州グロセット生まれ。フィエゾーレ音楽院にて作曲を学び始め、G.マンゾーニ、ルイス・デ・パブロの各氏に師事。その後、ケルビーニ音楽院で作曲をS.ブゾッティなどに師事。イタリア国内外の作曲コンクールで数々の賞を受賞しており、2002年ヴァレンティノ・ブッキ国際作曲コンクール第1位、2004年ローマ・エヴァンゲリスティ作曲コンクール第1位、2006年、エストニアで開催されたレポ・スメラ国際作曲コンクール第3位などがある。現在、イタリアの音楽雑誌「Chitarre and Percussioni」に従事。フィエゾーレ音楽院ではアナリーゼなどを教えている。

【受賞の言葉】
武満徹作曲賞のために私もこの場にいられて本当に幸せに思います。若手の作曲家達にとって、このような大規模な作品を演奏する機会が得られるということ自体、難しいことです。本当に幸せに思っております。しかも、このように素晴らしいオーケストラに演奏して頂いて、私も夢のような気持ちでおります。本当にありがとうございます。指揮者の岩村さん、東京フィルハーモニー交響楽団の皆さん、本当にありがとうございます。そして審査員の西村朗さん、ありがとうございます。今日は本当にうれしい日です。

第3位
ファン・マン(中国)
アクア ~ 武満徹の追憶に

1977年11月11日、中国江西省九江市生まれ。5歳よりピアノを、12歳より作曲を始め、14歳で広州・星海音楽院に入学。1995年、北京中央音楽院に首席入学。2000年に卒業後は2002年までアメリカ・ボルダーのコロラド大学にて研鑽を積み、同年秋からコーネル大学博士課程に在学中。コンクール受賞歴、フェローシップ受賞多数。これまでにミネソタ管弦楽団やロレーヌ国立管弦楽団などにより作品が演奏される。2006年から1年間、IRCAM作曲プログラムの研究員に選ばれ、2007年9月に新たなテクノロジーを用いた作品を発表予定。アメリカン・コンポーザーズ・オーケストラより委嘱を受け、2008年にカーネギーホールで初演予定。

【受賞の言葉】
私は武満徹さんの曲がとても好きです。そして、私が彼の曲を聴いている時、涙を流すような思いになります。こう言ってよろしければ、武満さんのように、私も自然、色、水、樹木、花、鳥、このようなものを心から愛しております。そして武満さんは、自分の自然への愛、それを彼の愛情でもって表現されています。私も彼のような道を歩んで行きたいと思っております。それが私のゴールです。西村朗さん、東京オペラシティ文化財団の方々、東京を訪れる機会を与えてくださり、ありがとうございます。私は来日してから、日本の庭園であるとか寺院を見て歩きました。そしてようやく武満さんが何について書いているのかを理解した思いです。最後に私は岩村さんと東京フィルハーモニー交響楽団の皆さんに厚く感謝したいと思います。私の曲を本当に美しく解釈して、演奏してくださいました。本当にありがとうございました。

第3位
ウー・イーミン(中国)
夢の回想

1983年7月22日、中国江蘇省無錫市生まれ。幼少よりピアノを習い始め、1998年に北京戯曲芸術学院に入学し、2002年に優秀な成績で卒業。同年、北京中央音楽院へ入学し、現在在学中。2000年にエレクトロニクス作品《Forms of Shape》、2004年に室内アンサンブル作品《First Symphony》、2005年に12の中国笙のための《12 Swans》、2006年には《Freedom Imagination》を作曲。

【受賞の言葉】
みなさん、こんにちは。私は「武満徹作曲賞」のこの場にいることができて、本当にワクワクしております。私の日本への旅をスムーズで、楽しいものにしてくだった全ての方々に感謝申し上げます。私は東京フィルハーモニー交響楽団の方々、そして指揮者の岩村さん、その素晴らしいパフォーマンスについて感謝したいと思います。そしてまた、西村さんに彼の親切な心に感謝したいと思います。また私自身の作曲の師である、ドン・リーチャン教授の、広い心を持った私への支援に感謝したいと思います。私はもっと若い頃から武満さんの音楽を尊敬するようになっておりました。私は心から望んでおります。武満さんの心、精神が、今後とも私達が良い音楽を継続的に作れますよう、誘ってくださることを。ありがとうございました。

第3位
ヨーナス・ヴァールフリードソン(スウェーデン)
戦場に美しき蝶が舞いのぼる

1980年2月26日、スウェーデン・ヨンシェーピング生まれ。ジャズとロックに傾倒した後、現代クラシック音楽に興味をもち、1999年にゴットランド作曲音楽学校で作曲を学び始め、その後エーテボリ音楽院、エーテボリ大学でも学ぶ。2005年に同音楽院を卒業し、パリ国立音楽院でマルコ・ストロッパに師事。奨学金多数。現在、ストックホルム王立音楽院でパール・リンドグレンに師事。様々な音楽祭やワークショップで作品が選出、演奏されている。

【受賞の言葉】
今日聴いてくださった皆様、そして音楽家の皆様方、作曲家の皆様方、そして西村さん、本当にありがとうございます。私はこの「武満徹作曲賞」に参加できて、心からうれしく思っております。このような素晴らしいオーケストラに自分の曲を演奏してもらえる、そしてこのような名誉ある場所で、名誉ある機会をもつことができてうれしく思っております。特にこの場を借りて、深い謝意を表したいと思います。西村朗さんに、私の曲をファイナルに選んでくださったことに。そして東京オペラシティ文化財団の方に、このような大掛かりなフェスティバルを現代音楽のために継続的に行なって下さっていることに対して。感謝の言葉というのは、いくら述べても述べ足りないものですが、私は自分の国の言葉で、そして日本の言葉で謝意を表したいと思います。ありがとうございました。


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