武満徹作曲賞 審査結果・受賞者の紹介

2004年度

マグヌス・リンドベルイ

【審査員】
マグヌス・リンドベルイ(フィンランド)
Magnus Lindberg (Finland)

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指揮:飯森範親、東京フィルハーモニー交響楽団

【受賞者】

左より、マリウス・バラナウスカス、植田彰、ポール・スタンホープ、マグヌス・リンドベルイ、ナローン・プランチャルーン、ソー・スンジョンの各氏 photo © 東京オペラシティ文化財団

左より、マリウス・バラナウスカス、植田彰、ポール・スタンホープ、
マグヌス・リンドベルイ、ナローン・プランチャルーン、
ソー・スンジョンの各氏 photo © 東京オペラシティ文化財団

より創造的な音楽文化の可能性を育むため、東京オペラシティ文化財団が世界の次代を担う若い世代に新しい音楽作品の創造を呼び掛ける「武満徹作曲賞」。2004年度審査員は、現代フィンランドをリードする作曲家マグヌス・リンドベルイ氏です。
今回は世界40カ国129作品から、2003年11月末の譜面審査で5作品を選び、本選演奏会で下記受賞者が決定いたしました。

審査員:マグヌス・リンドベルイ 講評

まず心から東京オペラシティ文化財団の皆様にお礼申し上げます。素晴らしい理想的な環境の中でこのコンクールができたこと、プロフェッショナルな姿勢を持った皆さんに支えられたことを改めて感謝します。さらに本日演奏してくださった東京フィル、指揮の飯森さん、5つの作品どれもが本当に素晴らしく美しい演奏でした。本当にありがとうございました。

そして今日ここに参加して下さった作曲家の方々にお礼を申し上げたいと思います。129作品にもおよぶ膨大な数からの選曲は決して簡単な作業ではありませんでした。昨年秋に日本で4日間缶詰状態になり、ずっと一人で作品と対峙し、選びました。その過程で、数々の素晴らしい作品と巡りあいましたが、最終的にこの5作品を選ぶことができたことは、全部の中から見て、この5作品が明らかに素晴らしかったこと、そしてこの5作品が私がそれぞれ違う観点ながらも、とても好きな作品だったということが最後に明らかになりました。

作品それぞれの質にも大変感心致しました。さらに演奏されるにあたってオーケストラとのリハーサルで作曲家がオーケストラと様々な関わりを持たれた事と思います。同じ作曲家の仲間としてあなたがたに申し上げたいのは、このような環境でオーケストラとともに仕事ができることがいかに恵まれたことかという事です。このような素晴らしい環境で仕事ができたこと、作曲家というのは概して厳しい批評にさらされるのが常です。しかし、今日のような恵まれた環境で、素晴らしい音響のコンサートホールで仕事ができたことを皆さんは素晴らしい経験だとして、受けとめて頂きたく思います。

個々の作品について、私の評を簡単に申し上げます。

■ ソー・スンジョンさん
フル・シンフォニーの作品を書くことに対して、しっかりとした知識を持った方だとわかりました。いい意味での伝統を受け継いでいらっしゃる。つまりショスタコーヴィチやドビュッシーほかたくさんの作曲家などの伝統を受け継ぎ、それをごく自然に自分の才能の中に取り入れて書かれていた。特にそのなかでも非常に激しいエネルギーからとても柔らかなパッセージへ転換するその移り方に私は強く印象を受けました。この作品においては、素材と形式、そういったものが非常に有機的に働いていました。

■ マリウス・バラナウスカスさん
非常に美しい作品でした。数少ない素材を使いながらも大きく展開していく、これは私も好きな手法なのですが、素晴らしい壮大なオープニングから大きく展開していき、そこへまったく異なる鐘の響きのような柔らかい音へと展開して移っていく。そしてこのオーケストレーションの持つ素晴らしい色彩感といったものでしょうか、それもよかったと思います。それにぴったりついていく音色。さらに思ったのは素材と形式のバランス、確かに用いた素材は最低限のものでしたが、そこから成されたものは素晴らしいものがありました。そして非常に説得力がありました。

■ ナローン・プランチャルーンさん
これはとても面白い作品でした。私自身とても楽しませて頂きました。非常にエネルギッシュで大きな音が出ながら、決してオーバーになることはなく、かなり説得力あるものとなり、ある意味でロックの音色との共通点を感じ、オーケストラからロック的なものを上手く引き出していたと感じました。そしてユニゾン的な書き方、つまり大きなオーケストラを一斉に響かせる手法も素晴らしく、個性も感じました。同時にラヴェルの《マ・メール・ロア》のようなものも何か連想させられました。これは決して真似をしているという意味ではなく、そこから自分の作品へと大きく展開させていった点に感心しました。

■ 植田 彰さん
非常に野性的なそのノイズ、音は私がすごく大好きな音でした。聴衆のなかに楽器を位置させる試み、私は2F席に座っていたので、また違った音の世界を垣間見ることができたと思います。非常に複雑で、音符のそれぞれがまるで分子のようにたくさん出てきました。その素材、音の扱い方は素晴らしく、非常に個性的だったと思います。そして現代音楽と深く関わりをもっている姿勢に感銘を受けました。その美的な感覚というよりも音色的な観点からみたとき、クセナキスやルイジ・ノーノを私は連想しました。これらの作曲家は私も大好きなのですが、そういった伝統を良い意味で受け継ぎながら、そこに個性をきちっと打ち出している作品だと思いました。

■ ポール・スタンホープさん
とても面白く聴かせてもらいました。そこに繰り広げられた美的な世界。今まで私が遭遇したことのないような、色々なものがそこに組み合わされ、私にとっては全く新しい世界でした。その形式、ドラマトゥルギー、非常にオーソドックスな和声の世界から始まったかと思うと、調性の世界に入り、そして更に展開してあっという間にジャズのような世界が出てくる。そしてまた飾り気のない調性の世界に戻っていく、非常に個性的で素晴らしい作品でした。

私がそれぞれの作品をどう受け取ったか、聴衆の皆様にお分かり頂けたでしょうか。私自身、今夜の作品を全て聴けて幸せに思っております。5つの作品がひとつの素晴らしいプログラムのようになっていると思えたからです。私がこの5作品を選んだ時は決して、プログラム構成を考えてのことではありませんでしたが、出来上がったものは非常にドラマトゥルギーで説得力のある、素晴らしいものになっていたのではないでしょうか。そして今日の5つの作品、主観的に申し上げれば5曲とも違う個性をもった、5曲とも全く異なる美的世界を持った作品だと思います。限定された狭い考え方、狭い美的世界から選ばれたものではないことを感じていただけたかと思います。皆さん、個性的でありながら、非常にプロフェッショナルな作品を書き上げたと思います。

全129作品のなかから、この5つだけしか選ばれなかったことを考えれば、5人は山の頂上に位置するにふさわしい方々だと思っております。この中から賞を決めるのは決して簡単ではありませんでした。私は5作品とも好きですし、5作品とも良い印象を受けました。そこで、5人全員に賞を差し上げたいという結論に達しました。

受賞者のプロフィール

第1位
ポール・スタンホープ(オーストラリア)
ヴォーン・ウィリアムズの主題による幻想曲

1969年11月25日生まれ。ウーロンゴン大学修士課程を経て、1995年よりシドニー大学博士課程にて作曲をピーター・スカルソープに師事し2000年に修了。同年、ロンドンのギルドホール音楽院にて研鑽を積んだ。委嘱作品も多く、その作品はオーストラリアの気鋭のアンサンブルやオーケストラにより演奏、録音されている。現在はシドニーMLSスクール、ならびにシドニー音楽院にて教えている。

【受賞の言葉】
まず最初に日本でオーストラリア出身と言えば、イアン・ソープが非常に有名かと思いますが、彼よりも有名になれればなあ・・・と思いました(笑)。私にとって今回の日本訪問は特別な意味を持っていました。私の師であるピーター・スカルソープは武満徹さんと非常に仲の良い友人でした。そういう意味で、私の師と武満さんとの友情、オーストラリアと日本との友情、そういった意味でもとても大きな意味のあるものでした。東京オペラシティ文化財団の皆様、今日素晴らしい演奏をして下さった指揮者の飯森さん、今回共にこのステージに立つことができた、素晴らしい作曲家である仲間にもおめでとうと言わせて下さい。そして、リンドベルイさん。彼の音楽そのものが音楽界への素晴らしい貢献だと思っております。本当にありがとうございました。

第2位
ナローン・プランチャルーン(タイ)
オーケストラのためのフェノメノン ─ 不可思議なそして未解明の

1973年7月23日生まれ。96年バンコクのシーナカリンウィロット大学で音楽の学位を修め、アメリカに留学。2002年イリノイ州立大学にて作曲専攻、修士課程修了後、現在はカンザス・シティのミズーリ大学博士課程に在籍して作曲と指揮を学ぶかたわら、02年より同大学にて作曲とensemble for composerの助手をしている。これまでに数々の作品がタイやアメリカなどで演奏されており、ミズーリ大学より学長賞をはじめ数々の奨学金を受ける。04年9月には、委嘱作品が Lyrique Quintet とタイ国立交響楽団により初演予定。

【受賞の言葉】
まず最初に私を常に励まし、支えてくれた家族、友人、師に深くお礼を申し上げたいと思います。そしてこのような素晴らしい機会を与えて下さった東京オペラシティ文化財団、オーケストラの皆様、本当にありがとうございました。若い作曲家として、これほど素晴らしい経験はそうあるものではないと思っております。特にこの東京では色々な経験をし、とても楽しく過ごしました。作曲家の友人もできましたし、色々な情報交換もできました。最後に素晴らしい演奏をして下さった東京フィルハーモニー交響楽団の皆さん、どうもありがとうございました。

第2位
植田 彰(日本)
フォーカル・ディスタンス II

1973年11月25日清水市生まれ(現・静岡市)。2000年3月、東京音楽大学大学院を修了。2000年度武満徹作曲賞第3位。第11回芥川作曲賞ノミネート。2001年、第17回名古屋文化振興賞受賞。2002年、第2回JFC作曲コンクール佳作。同年、ガウデアムス国際音楽週間入選。

【受賞の言葉】
今日演奏をして下さったオーケストラの皆さん、指揮者の飯森先生、どうもありがとうございました。大変勉強になりました。人生いろいろですけれども、私のような者でも、いろいろ自分の信じている音楽があり、これからもそういう音楽を書いていけたらいいなと思います。

第3位
徐 淳正 ソー・スンジョン(韓国)
幽玄 ─ オーケストラのための

1971年10月27日生まれ。ソウル出身。彼の作品は釜山フィルハーモニック、ソウル交響楽団などにより演奏され、韓国内で放送されている。ハンヤン大学卒業後、マンハッタン音楽院修士課程を経て、現在は同校の博士課程在学中。大邸音楽連盟コンクール、KBSコンクールをはじめ、受賞歴多数。97年には釜山現代音楽フェスティバルにて優勝し、作品が釜山フィルハーモニックにて初演される。2001年にはニューヨークにてマンハッタン賞を受賞し、弦楽四重奏曲がヴェガ・カルテットにより、ロックポート、ボストンやロサンゼルスにて演奏された。2003年秋のシーズンには、The MacDowell Colonyのレジデンス・アーティストとして招待された。

【受賞の言葉】
今、ここに立っていて非常に深く感動しております。ここにいられる事をとても嬉しく思っております。私が書いたこの作品に対して素晴らしいコメントを頂けただけでなく、オーケストラと指揮者の方がここで実際に演奏して下さったという事にとても感動いたしました。作曲家冥利につきます。審査員のリンドベルイさん、本当にどうもありがとうございました。

第3位
マリウス・バラナウスカス(リトアニア)
トーキング ─ シンフォニー・オーケストラのための

1978年2月23日生まれ。96年より2002年までリトアニア音楽院作曲科修士課程に学び、現在、同音楽院博士課程在学中。これまでにドイツ、フィンランド、フランス、ラトヴィア、オランダ、ポーランドなどの国際的な作曲ワークショップなどに参加し、作品は主にラトヴィア、リトアニア、オランダなどの音楽祭で演奏されている。

【受賞の言葉】
本当に今日はありがとうございました。私にとっては初めての日本でしたが、非常に楽しく、興味深く過ごすことができました。
オーケストラの皆さん、審査をして下さったリンドベルイさん、そして皆様ありがとうございました。


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東京オペラシティ コンサートホール/リサイタルホール


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