プロジェクトN

projectN 34 近藤恵介 KONDO Keisuke
《色が反射する/色が連続する》

《色が反射する/色が連続する》
岩絵具, 水干, 膠, 透明水彩絵具, アクリル絵具, 新鳥の子紙 53.0 x 53.0cm 2007
photo: 早川宏一
 
都会の鉢植えは森へと成長する

鉢植えの植物、アナログレコーダー、ネオン管、アルプスの山なみ、会議する人々、スライム、蛍光ピンク・・・・・・近藤恵介の制作の基盤となるのはイメージの「サンプリング」です。ふと目に留まったものを写真に収め、コンピュータを使って背景を取り除いてから部屋の壁に貼って眺めたり、言葉によるメモ、スケッチ、フィールドレコーディングなど様々な方法でイメージはストックされます。一旦放置されたイメージはゆったりとした時間の流れの中で磨かれてゆき、独特の余白を残してていねいに画面に配置されます。

ここに並ぶ断片は、すべて近藤の日常にまつわる「物」と「事」です。このきわめて私的な場に、一瞬第三者が入り込む余地はないように思えるかもしれません。けれども記号化したイメージを眺めるうちに、私たちはその間あいだを想像したり、自分なりのピースをはめ込んで幾通りもの物語を思い浮かべるようになってゆきます。筋書きが提示されず、ストーリーの核を持たないゆるい空気が近藤の作品全体に流れています。

絵画の制作とともに近藤は音楽の制作も行います。MMR(マウンテン・ミュージック・レコード)という名の音楽レーベルを作り、音楽家のCDジャケットのアートワークも手がける近藤にとって、絵画と音楽は制作の根幹のところで密接に関わりあうものです。

大学在学中、多くの学生が日本画の伝統的なモチーフを描き続ける中、何を描くかは近藤の抱える大きな課題でした。2004年には当時よく聞いていた音楽を描いてみることで、自在に表現できる喜びを味わいますが、いわばこれが近藤にとっての出発点で、この後近藤がサンプリングの手法を絵画に採り入れてゆくのは自然の成り行きに思われます。もとより絵画に内的感情を投影させることに違和感を覚えていた近藤は、サンプリングによって意識をイメージから切り離し、描く行為のうちに没入することで自己を解放してゆくのです。

《NEW GREEN》
《NEW GREEN》
岩絵具, 水干, 膠, アクリル絵具, 新鳥の子紙 65.2 x 200.0cm
2007
Gallery Countach蔵

はじめに暮らしありきで「絵画は生活を補完するもの」だと言ってはばからない近藤は、おそらく平均的な同世代男子の中で比較すれば珍しいほど、衣食住の生活全般に強く執着する正しい生活者といえましょう。近藤にとっては満たされた暮らしの中で目の前のものに思考を巡らせる時間や、それを描く間の充足感を持続させることと制作がイコールなのです。自己の100パーセントを制作に支配されないように周囲との均衡を保つことで、近藤特有のゆるさは生まれてくるのかもしれません。

変わりゆく日常とともに、近藤の作品も変化します。自らの作品を暮らしの「染みの延長としての絵画」と呼ぶ近藤にとって、絵画とは、描くことと一体になった日々の営みの痕跡であり、日常の中の愛おしむべき「今」を封じ込めたものにほかなりません。子供の頃親しんだ絵本『星座を見つけよう』(H.A.レイ著)の、染みのできた裏表紙に描かれた作品には、近藤が絵本とともに成長した年月と、画家として思考を重ねてきた数年間の時間が充溢しています。

静かで平穏で心地良く、しかしどこか不安をはらんだ淡々とした日々の連続こそ、近藤にとってのリアルな日常なのです。そこにドラマチックな出来事は起こりそうにありません。けれども日常を凝視し続ければ「鉢植えの植物が緑の森へと成長」したり、「石ころを起点に時空を超えた旅に出る」ような非日常へ、誰もが移行することができるでしょう。きわめて私的な出来事は、私たちそれぞれの想像の世界とリンクしはじめます。

ゆるやかにつながって行くもの。近藤はいつもこのイメージ思い描きながら、外界とつながりたいと願っています。作品について、思いもよらぬ感じ方をしてくれる誰かと。未知の世界と。今いる場所から今日もその取っ掛かりを探っているのです。

展示風景 展示風景
展示風景  
展示風景 展示風景


近藤恵介 KONDO Keisuke
1981 福岡県生まれ
2005 「トーキョーワンダーウォール公募2005, トーキョーワンダーウォール賞」受賞
2007 東京芸術大学美術学部絵画科日本画専攻卒業
現在, 東京都在住
   
個展
2005 RICE+, 東京
2006 「トーキョーワンダーウォール都庁2005」, 東京都庁第一本庁舎
「毎朝歩く道について寝る前に考える」, トーキョーワンダーサイト本郷, 東京
2008 「いい地図」, Gallery Countach, 東京
   
主なグループ展
2005 「トーキョーワンダーウォール公募2005」, 東京都現代美術館
2006 「東京 ─ サンフランシスコアートフェスティバル'06」, 国営昭和記念公園みどりの文化ゾーン, 東京/the LAB, サンフランシスコ
2007 「東京画 ─ ささやかなワタシのニチジョウのフーケイ」, トーキョーワンダーサイト渋谷, 東京(カタログ)
   
アートワーク
  • 蓮沼執太|Shuta Hasunuma, 『OK Bamboo』, Western Vinyl, 2007年(CDアートワーク)
  • anonymass, 『anonymoss』, ミディ, 2008年(CDアートワーク)
  • 蓮沼執太|Shuta Hasunuma, 『POP OOGA』, HEADZ, 2008年(CDアートワーク)
主な参考文献
  • 今村有策「インティメイトな心象風景としての東京画」, 飯田志保子「薄曇りの空に ─ 『東京画』概観」, 『東京画 ─ ささやかなワタシのニチジョウのフーケイ』, トーキョーワンダーサイト, 2007年, pp.4, 6/Imamura, Yusaku. "TOKYO-GA: intimate inner landscapes of Tokyo," Iida, Shihoko, " Under a pallid sky," pp.5, 8
  • 宮村周子「マッピング・ザ・ワールド」(Gallery Countach個展プレスリリース), 2008年 (http://gallery-countach.com/)
  • 兼平彦太郎「[Art Review]近藤恵介『いい地図』at Gallery Countach」, 『Dazed&Confused Japan』, カエルム株式会社, 65号, 2008年3月, p.123

 

■インフォメーション

会場:東京オペラシティ アートギャラリー 4Fコリドール
期間:2008.7.19[土]─ 10.13[月・祝]
開館時間:11:00 ─ 19:00(金・土は11:00 ─ 20:00/いずれも最終入場は閉館30分前まで)

休館日 :月曜日(祝日の場合は翌火曜日)、8月3日[日](全館休館日)
入場料 :企画展「トレース・エレメンツ ─ 日豪の写真メディアにおける精神と記憶」の入場料に含まれます

主催:財団法人東京オペラシティ文化財団

お問い合わせ:東京オペラシティアートギャラリー Tel. 03-5353-0756