プロジェクトN

project N 30 田尾創樹 TOMIKURA Takashi
メリーゴーラウンド

《Guitar》
アクリル絵具、キャンバス
190.0×160.0 cm 2005
photo: 早川宏一
内気な革新者

田尾創樹は、表現活動を行うためのさまざまな"名前"をもっています。
芸能プロダクション「オカメプロ」(http://plaza.rakuten.co.jp/okamehachimoku/)のブログを見れば、社長兼アーティストとしてのオカメハチモクをはじめ、パーフェクトダンサー、クチビル、レディオタイガー、太頭丸山(たづまやま)など、複数のアーティストが所属するのがわかります。なかには活動実態のない架空のアーティスト名も含まれますが、ロック系、ヒップホップ系、元関取の歌手など、アーティストの多様なプロフィールの設定のために、ほかならぬ田尾創樹の"素顔"はどこかにかき消されています。 小品であれば一日のうちに数点を描くという多作な絵画制作でも同様です。ふつう、ひとりの作家が描いた数枚の絵を前にすれば、その作家がどのような作家なのか、ある程度容易に想像がつくものです。しかし、彼の場合、複数の作品を同時に見せられると、その作品相互の脈絡の希薄さによって、作家に関する情報がかえって曖昧模糊としたものになってしまいます。作品はどれも、唐突で、とりとめのない、中途半端な断片のように思われ、絵画としての自立性を自ら拒んでいるかのようです。それにもかかわらず、それらの雑多な作品群をひとつに結びつけるものがあるとすれば、それこそ田尾創樹というひとりの創造的個性にほかならないでしょう。

scene
《オカメプロ所属アーティスト詩集》 ミクストメディア 各118.9×84.1 cm(全86点) 2007

田尾の作品を見てすぐに連想される言葉に「ヘタウマ」があります。1980年代のイラストレーションの隆盛時に生み出された造語で、"ニュー・ペインティング"と呼ばれた、同時代の表現主義的な傾向の絵画について言及する際にもよくもちいられました。確かに彼の絵画は、イラストのように奥行きがないものが多く、また、思わず人を惹きつけてしまうような素人風の未熟さに似た外見をもっています。もっとも、田尾の作品を特徴づける塗り絵のような平板性は、その特異な制作方法と深く関連しています。
田尾は、過去に描いたイメージを新しい作品の一部に流用、転用して制作を行います。以前描いたイメージをコピーして、そのうえに別のイメージを描き加えて新しい作品が制作されることはめずらしくありません。その結果、何がオリジナルで、何がコピーなのかはっきりしません。おそらくこうした作業の過程を通じて、イメージは、使い古されステレオタイプ化したようなキッチュなものにおのずと変容してゆくのでしょう。つけ加えておけば、彼の作品を突飛で陳腐なものに思わせる大きな要因のひとつである背景の省略も、こうした制作方法に由来するものです。

オリジナルなきコピーの連続、あるいは、「延々と続く未完の状態」ともいうべき彼の制作方法は、必然的に、「作者」という概念を大きく揺さ振るものです。その"素顔"がわからないと感じるほど、「作者」のアイデンティティは突き崩されてしまっています。まるで分裂病患者のように、複数のアイデンティティが田尾創樹の描き出す作品それぞれから覗き見えています。もっとも、その姿勢は、決してオタクやひきこもりのようなネガティヴなものでも病的なものでもなく、じつに健康的で、他者に対して広く開放されたものです。同一不変のアイデンティティの観念を無化する可能性を、彼の創作方法と表現活動は内包しているのです。閉じられた自我から開かれた自我へ。単独の自己から複数の自己へ ─ そうした大胆で革新的な創造行為を、いともしなやかに淡々と成し遂げてしまうのが、田尾創樹という作家のもっとも大きな魅力といえるでしょう。

展示風景
展示風景  




田尾創樹 Tao Soju
1977 栃木県生まれ
2002 チェルシー・カレッジ・オブ・アート・アンド・デザイン,美術課程(絵画)卒業,ロンドン(BA)
2003 スレイド・スクール・オブ・ファイン・アート,修士プログラム(絵画)中退,ロンドン
現在 京都府在住(京都/栃木で制作)
   
個展
2006 「オカメプロ展」,TAKEFLOOR 404&502,東京
   
グループ展
2003 「ペーターバラ賞」展,ペーターバラ・ミュージアム・アンド・アートギャラリー,ケンブリッジシャー州,イギリス
2006 「田尾創樹/徳重道朗」,takefloor(現TAKEFLOOR 404&502),東京
「百花繚乱」,BOICE PLANNING,神奈川
「Whispers Behind the Wall(壁裏からの囁き)」,メーア・ギャラリー(ミッドタウン),ニューヨーク
2007 「Not only A, but also B(・・・だけでなく~もまた)」,トランスフォーマー・ギャラリー,ワシントン
参考文献

 

■インフォメーション

会場:東京オペラシティ アートギャラリー 4Fコリドール
期間:2007.7.21[土]─ 10.14[日]
開館時間:11:00 ─ 19:00(金・土は11:00 ─ 20:00/いずれも最終入場は閉館30分前まで)

休館日 :月曜日(ただし祝日の場合は翌火曜日)、8月5日(全館休館日)
入場料 :企画展「メルティング・ポイント」の入場料に含まれます。

主催:財団法人東京オペラシティ文化財団
協賛:日本生命保険相互会社
協力:相互物産株式会社

お問い合わせ:東京オペラシティアートギャラリー Tel. 03-5353-0756