収蔵品展023 こことそこの間 川口起美雄 《ヒヤシンス》
川口起美雄 《ヒヤシンス》
テンペラ、油彩、板
40.9 x 31.5cm 1999
photo: 斉藤新



「こことそこの間」と聞いて、あなたはどこを思い浮かべるでしょうか。「あいだ」とは、複数の距離、時間、空間、次元と、それらの関係性。本展では当館のコレクションのなかから、「ここ」と「そこ」が隔たれた地点にある別々の存在ではなく、交差し、重なり、融合するかのような世界観を持った作品を紹介します。それは目前の作品とその作り手の関係性、そして作品とあなたの間の話でもあるのです。

ギャラリー3展示風景
ギャラリー3展示風景

今回ギャラリー3には、川口起美雄の絵画がずらりと一面に並びます。
当館では1980年から99年までの作品を収蔵していて、緩やかな編年体でその約20年間の仕事を追うことができます。といっても何年かごとに画面に劇的な変化がある訳ではありません。宙に浮かぶ岩や柘榴、石造りの西欧風の建造物、小人たちと動物がいる大地の風景、窓からの眺めといった幾つかの鍵となる象徴的なモチーフが淡々と繰り返され、静謐で深遠な世界が描かれています。その光景は現実のものではなく、岩やパイプが中空に浮かぶマグリットのように超現実的とか幻想的と形容したくなるかもしれませんが、川口の「こことそこ」は現代とルネサンス、そして日本とウィーンです。

1974年から77年まで留学したウィーンで培ったルネサンス期の混合技法に以後の画業の糸口を見出した川口にとっては、テンペラと油彩の色層の重なりによって描き出される画面と、自身の内的世界の表現を合致させることに画家としてのリアルな実践があります。様々なルーツのモチーフが個人的なテーマの下に融合されるという飛躍は、異なる文化を受容するときの特徴でもあります。それがまさしく全作品に通底する川口の基調を醸成しています。

ギャラリー3展示風景
ギャラリー3展示風景(野又穫)

対壁の野又穫は、実在しそうだけれども実際にはどこにも存在しない、未完の建築物を描く独自の路線を歩む画家です。古代遺跡のような風貌の建造物から、より近未来的なメカニカルな構造体へと、ここ10年程で描かれる建築物が少しずつ変化してきました。どの作品も都市文明に対する警鐘の眼差しに貫かれていますが、具体的には何も語りません。野又の無言の建築は、今「ここ」で起こりつつあることなのか「そこ」のことなのか、時間と場の概念を超越して私たちを魅了します。




続いて加藤清美、落田洋子の人物と風景が一体化した光景が展開します。加藤清美の壁から人がずるずると出現するさまや落田洋子の和やかな箱庭的風景は、確かにあり得ない不思議な光景ですが、「ここ」から全くかけ離れた絵空事というより、「窓からふと外に目を向けたら偶然見えてしまった」かのような日常的な非現実という矛盾が感じられます。

ギャラリー4展示風景 ギャラリー4展示風景
加藤清美 《出現 I》
油彩、キャンバス 40.9 x 31.8cm, 1981
photo: 斉藤新
落田洋子 《エイプリル・パーティー》
油彩、キャンバス 72.7 x 91.0cm 1980
photo: 斉藤新


ギャラリー4の前半は、「予兆」と「眠り」に関連した作品によって、意識下の世界を横断します。小杉小二郎の風景画、矢吹申彦、河原朝生の室内画、山本麻友香の子供の絵画は、表面上は何の変哲もありませんが、どちらかと言うと少し不穏なものを予感させる「気配」に満ちた作品です。伊庭靖子の枕やシーツも、写真を再現したフォト・リアリズム絵画というより質感や触感など感覚の再現を喚起するものです。大竹伸朗の夢の連作(1984-91年)は、夢を見た後の記憶から浮かんだイメージを描いたもので、捨てられていたポラロイド・フィルムのイメージから生まれた「網膜」シリーズ(88-92年)の時期と並行しています。大竹は無意識に関心を寄せていますが、夢や偶然性に依拠するのではなく、私たちはそれを、全てを吸引し吐き出す爆発的なエネルギーを持つ大竹が向き合う、意識の余剰の渦として見ることができるでしょう。

ギャラリー4展示風景 ギャラリー4展示風景
ギャラリー4展示風景



ギャラリー4展示風景
ギャラリー4展示風景(奥山民枝)

そして最後は、さらに抽象的な表現へと昇華された「ここ」と「そこ」の関係性についての作品です。奥山民枝が谷川俊太郎との対談で、「"今ここ"というのが、過去も未来もあっちもそっちもすべて共有してわたり合う、時間的にも空間的にもダブり合っている」感覚があると述べています。
さてここから先は、あなたと作品の間の話です。展示空間のなかで実際に作品との静かな対話をお楽しみください。


■インフォメーション

会場:ギャラリー3&4(東京オペラシティ アートギャラリー 4F)
期間:2007.4.14[土]─ 7.1[日]
開館時間:11:00 ─ 19:00(金・土は11:00 ─ 20:00/いずれも最終入場は閉館30分前まで)

休館日:月曜日(ただし4.30[月]は開館)
入場料:企画展「藤森建築と路上観察 ─ 第10回ヴェネチア・ビエンナーレ建築展帰国展」の入場料に含まれます

主催:財団法人東京オペラシティ文化財団
協賛:日本生命保険相互会社、NTT都市開発株式会社

お問い合わせ:東京オペラシティアートギャラリー Tel. 03-5353-0756