プロジェクトN

プロジェクト N28 冨倉崇嗣 TOMIKURA Takashi 期間 2007年1月13日(土) -2007年3月25日(日)
メリーゴーラウンド

《メリーゴーラウンド》
アクリル絵具、キャンバス
112.2 × 145.6cm
2003
© Takashi Tomikura / O Gallery eyes
回転する木馬

具体的な何かの形にならないまま、次から次へとイメージの雪崩を起こし、流転する冨倉の画面。イメージが沸き起こっては流れるそのさまは、まさしくまわり続けるメリーゴーラウンド。まわる木馬は私たちの目の前を通り過ぎては去り、再び現れてはまた消え去る断片の連続です。

 

2003年の作品《メリーゴーラウンド》は、遊具や遊園地の風景を描いた絵ではなく、流れるような木馬の動きそのものと、まわっている時間を解体してみせた作品です。そこでは小屋の屋根や柱など固定したものの描写は省略され、動くもの、つまり回転と遠心力に身を任せるうちにほどけてしまったかのような木馬だけが断片的に描き出されています。

思い起こすに、私たちの「動き」に対する記憶は、こうした残像のような断片的なものではないでしょうか。断片の間にある思い出せない記憶の空白部分は、想像によって無意識のうちに整合性を持つように補完されるか、辻褄が合う記憶を探して空白のまま漂うか、あるいは無かったこととして記憶の彼方に封じ込められます。そうして「動き」のイメージは、記憶のなかで本来の動作を失いながら収まりの良いように変容され、やがて作られた二次記憶として定着していきます。ですが冨倉は、記憶が変容するときの断片的な残像をあえてそのまま散りばめ、不完全とされるイメージがいかに私たちの想像力を喚起するものであるかを示しています。

scene
《scene》
アクリル絵具、キャンバス
60.6 × 72.7cm
2006
© Takashi Tomikura / O Gallery eyes
《メリーゴーラウンド》を描いた頃から、冨倉の絵画に特徴的な5つの要素が徐々に顕著になってきます。イメージの流動性、反復性、浮遊感、画面の装飾性、そして遮蔽です。この5つはいずれもイメージが変容するプロセスにおいて出てくるもので、冨倉の「動き」に対する関心と即興的な描写方法の両方に関わっています。

例えば本展の作品のなかで「流動性」が顕著なのは、《滝にて》(2006)、《scene》(2006)、《緑の雪》(2006)。画面が流れ落ちていく描写で、空間の奥行きや場面の状況をとらえようとしても足元から流されていくようです。空間のなかに人が立てない絵というのはこういうものを指します。そうすると宙に浮くほかはありません。そこで必然的にモチーフを浮かせることで「浮遊感」が生じます。唐突に結び目が飛来する《コウモリ結び》(2003)、《指結び》(2005)、《白雨》(2005)、《羊毛のドレス》(2006)の4点は、この「浮遊感」と同時にモチーフの「反復性」にも当てはまります。


展示風景
展示風景
2004年の個展の際、冨倉は「線と線を結ぶとそこに空間が生まれ、イメージが広がる」というコメントを記しています。結び目は何かと何かを繋ぐ媒介のメタファーです。誰しも結ぶという行為の一連の動きを思い浮かべることができるし、逆にほどくことも連想させます。結ばれる線が変わり得ることが、そこに生まれる空間を流動的にします。



展示風景
展示風景
冨倉が描き出すイメージは、それが唯一ではなく、他のイメージにもなり得たかもしれない複数の可能性をもった種のようなものです。それは一種の偶然性と即興性に支えられていると言えるでしょう。実際に冨倉は、下絵を描かず直接キャンバスにアクリル絵具でドローイングをします。ある時点でのせた一筆が、その後の画面の方向性をがらっと変えて一気に完成まで導くこともよくあるといいます。動きに従うことは自らを流れに乗せて意図的に流されることでもあって、そうすることでイメージが向かうかもしれない複数の可能性を保つことができます。動きは決して一つではないので、その残像も常に可変で流動的になるのです。


雪解け
《雪解け》
アクリル絵具、レジン、キャンバス
130.3 × 162.1cm
2006
© Takashi Tomikura / O Gallery eyes
《雪解け》(2006)の画面上に、黒くて妙な生き物のような物体が横たわっています。部分的にであれ、それは雪景色を遮蔽して風景を完全に異空間にしています。他の作品にも見られますが、これらの不思議な異物が遮蔽しているものは一体何でしょう?それは、断片の間にあるものや、思い出せない記憶の空白です。 動きを映像で撮るのではなく絵画として描くからこそ、捉えきれなかった動きが遮蔽となって表出されます。それでも冨倉は木馬の回転を停めて描こうとはしません。なぜならそれが残像のような断片となり、不完全で美しいイメージを作り出すことを彼は知っているからでしょう。


展示風景
展示風景

冨倉崇嗣 TOMIKURA Takashi
1979 三重県生まれ
2002 成安造形大学造形学部造形美術科洋画クラス卒業
   
個展
2003 Oギャラリーeyes,大阪
Oギャラリーup・s,東京
2004 Oギャラリーeyes,大阪
2005 Oギャラリーeyes,大阪
2006 Oギャラリーeyes,大阪
   
グループ展
2001 「絵画の流れ展」,三重県立美術館 県民ギャラリー,三重
2002 「神戸アートアニュアル2002―ミルフィーユ」,神戸アートビレッジセンター,兵庫
2003 「ARTISTS BY ARTISTS」,森アーツセンター,東京
「現代美術小品展2003」,ギャラリーすずき,京都
2004 「bitter/sweet」,Oギャラリーeyes,大阪
「Unnatural II アンナチュラル 2」,Oギャラリーeyes,大阪/Oギャラリー,東京
2005 「群馬青年ビエンナーレ」,群馬県立近代美術館,群馬
「the garden of the ray」,Oギャラリー,東京
参考文献
  • 原久子「アクリリックス・ワールド17 冨倉崇嗣」,『美術手帖』,美術出版社2003年9月号,pp.185-189
  • 植木啓子「チョコレートの理由」(展評),『大阪人』,2004年4月号,p.93
  • 酒井千穂「冨倉崇嗣展」(展評),『美術手帖』,美術出版社,2006年9月号,p.191

 

■インフォメーション

会場:東京オペラシティ アートギャラリー 4Fコリドール
期間:2007.1.13[土]─ 3.25[日]
開館時間:11:00 ─ 19:00(金・土は11:00 ─ 20:00/いずれも最終入場は閉館30分前まで)

休館日 :月曜日(ただし2月12日[月]は開館)、2月11日[日](ビル全館休館日)、2月13日[火]
入場料 :企画展「土から生まれるもの:コレクションがむすぶ生命と大地」の入場料に含まれます。

主催:財団法人東京オペラシティ文化財団
協賛:ジャパンンリアルエステイト投資法人

お問い合わせ:東京オペラシティアートギャラリー Tel. 03-5353-0756