プロジェクトN

project N 27 山内崇嗣 YAMAUCHI Takashi 2006.10.7[土] ─ 12.24[日]
727×606 mm 2006/06/30
《727×606 mm 2006/06/30》
油彩、キャンバス
72.7×60.6 cm 2006
photo: 早川宏一
懐かしい未来の絵画

今から16年前、人面魚が大きな話題になり、テレビのワイドショーなどでも盛んに取り上げられました。といっても、本当に人の顔をした魚がいたわけではなく、コイの頭部の模様がそう見えただけのことでした。「幽霊の正体見たり枯れ尾花」という有名な川柳もあるように、人は心理状態によって、実在しないものでも現実に存在すると思い込んでしまうもののようです。 だまし絵とかトロンプ=ルイユと呼ばれる絵画は、こうした錯視を積極的に応用したものですが、考えてみれば、絵画の本質は錯覚と不可分な関係にあります。キャンバスという二次元の虚構の世界に、眼の前にある三次元の現実を表現するのが絵画だとすれば、当然のことながら、描かれたものは現実のたんなる視覚情報にすぎず、けっして現実存在そのものではありません。描かれた幻影の世界 ─ これが絵画の始原の姿だといえるでしょう。

727×727 mm 2004/11/21
《727×727 mm 2004/11/21》
油彩、キャンバス
72.7×72.7 cm 2004
photo: 早川宏一

727×727 mm 2005/09/27
《727×727 mm 2005/09/27》
油彩、キャンバス
72.7×72.7 cm 2005
photo: 早川宏一
山内崇嗣が新作で描くオニグルミは、冬に葉が落ちた痕がヒツジやサルの顔を思わせます。もっとも、山内の作品は、幻影性(イリュージョニズム)を執拗に探求する現代絵画のさまざまな企図とは一線を画しています。画家の関心が、たんに大脳生理学的な知覚情報の混乱でないことは、ほかの作品を見れば明らかでしょう。 たとえば、折衷様式と呼ばれる旧三重県庁舎、旧小笠原伯爵邸、一橋大学などの戦前の擬洋風建築や、リアリズムを追求した高橋由一《左官》(1973-76年、金刀比羅宮蔵)や岸田劉生《壺の上に林檎が載って在る》(1916年、東京国立近代美術館蔵)の近代日本洋画、あるいは心霊写真を描く絵画があります。モティーフのキッチュさに大きく依存するこれらの絵は、幻影性の創出に代わって、忘れられつつある「美」の再発見を促しているかのようです。


独創的な美の創造を放棄して、山内が目指すのは、近代主義(モダニズム)が打ち捨てて顧みなかった美的価値だといってもあながち見当はずれではないでしょう。『知られざる傑作』に登場する幻の傑作《美しき諍い女》に着想をえた、女性の足元だけを描いた作品がそのことを示唆してくれます。バルザックのこの短篇小説に関して、美術史家のドーレ・アシュトンは、独創性こそをもっとも重要な命題とする架空の天才画家フレンホーフェルの言説に近代主義がはっきりと予見されていることを論証しています。だから、山内が着想をえて描く戦前の建築や絵画が、どこかしら過去へのノスタルジーを喚起させるのも当然かも知れません。


けれども、山内崇嗣の回帰が単純な懐古趣味でないことはその展示構成に充分に表れています。出品リストの番号は61までですが、じっさいに展示されているのは52点で、しかもそのうちの1点は何も描かれていない無地のキャンバスです。また、題名がすべてサイズと制作年月日を示す数字と記号の組合せになっている出品作は、横幅こそ異なるものの、縦幅が均一に揃った4種類のキャンバスに描かれています。欠番があるのは、廃墟と化した100年後の美術館をイメージしたためですが、シリコンで絵具を意図的に剥ぎ取る彼独特の技法ともうまくマッチしています。 整然と並んだ作品を見廻せば、リアリズムからミニマリズム、コンセプチュアリズムにいたる、現代絵画の多様な実験をまるでサンプル化したみたいです。こうした展示構成が、ほのかなノスタルジーを漂わせつつ、現代絵画の新たな可能性を垣間見せてくれるのです。幻影性の追求でもその安易な否定でもない地平で、山内崇嗣は自らの絵画の進むべき道程を模索しているのです。


展示風景

展示風景


山内崇嗣 YAMAUCHI Takashi
1975 石川県生まれ
1998 武蔵野美術大学造形学部油絵学科卒業
昭和シェル現代美術賞展入選
現在、東京都在住
   
主な個展
1996 「灰塚アースワークプロジェクト」, 総領町, 広島 ('98, '99, '00)
2000 「山内崇嗣展」, 伊藤忠ギャラリー, 東京
2001 「山内崇嗣・絵画展」, メゾンリベラール103, 東京
   
主なグループ展
2001 「セゾンアートプログラム東京 2001」, 東京(カタログ)
「What's the difference between...?」, クンストビューロ, ウィーン(カタログ)

参考文献
  • 布施知範 「山内崇嗣の絵画作品を巡るメモ書き」, 1998
    http://omolo.com/yamauchi/archives/review/j/fuse1.html
    Fuse, Tomonori "PAINTING," , 1998
    http://omolo.com/yamauchi/archives/review/e/
  • 中村麗 「この布地は、この布地ではありません。」, 『JAMA〈日本語版〉』,毎日新聞社・日本医師会 共同編集, 2000年8月, 表紙, p.52
  • 深瀬鋭一郎「山内崇嗣」, 『てんぴょう』, アートヴィレッジ, no.5, 2000年10月, p.153
  • 山内崇嗣「「崇」と「祟」」, 『prints21』, プリンツ21, 2001 winter, p.110
  • ウェブサイト http://omolo.com/

 

■インフォメーション

会場:東京オペラシティ アートギャラリー 4Fコリドール
期間:2006.10.7[土]─ 12.24[月・祝]
開館時間:11:00 ─ 19:00(金・土は11:00 ─ 20:00/いずれも最終入場は閉館30分前まで)

休館日 :月曜日(ただし10/9は開館)、10/10[火](振替え休館)
入場料 :企画展「伊東豊雄 建築|新しいリアル」の入場料に含まれます。

主催:財団法人東京オペラシティ文化財団
協賛:NTT都市開発株式会社、日本生命保険相互会社

お問い合わせ:東京オペラシティアートギャラリー Tel. 03-5353-0756