収蔵品展020 抽象の世界-色・かたち・空間 期間2006年1月14日-3月26日 堂本右美《背中》
堂本右美《背中》
油彩、キャンバス
229.0 x 178.0cm 1998
photo:斉藤新


20世紀前半、抽象絵画の出現により、絵画は現実世界の対象を再現することに意味を失ってゆきました。絵画が絵画として存在しうる自律性をもつこと、それは画家たちに自由な創造の世界を広げたと同時に、絵画にいかにリアリティを表出させるか、という永遠のテーマを提起したともいえます。本展ではコレクションの中から、日常の視覚で経験することのないものに目を向け、描く作家の作品を紹介します。

赤塚祐二《Untitled 6698》

赤塚祐二《Untitled 6698》
油彩、キャンバス
65.5 x 53.0cm 1998
photo:斉藤新
ギャラリー3では、コレクションの中から3人の画家をとりあげました。
赤塚祐二の絵画には、いわばテーマというものが存在しません。描く行為それ自体によって内なるイメージを探りながら、曖昧なかたちとして画面に定着させてゆくのです。感覚と手が直結して生まれるその作品は、予測不能な流体の動きを思わせます。《Canary》は、枠の中に取り込まれる形象そのものを、鳥かごから出たり入ったりするカナリアに喩えてつけられたタイトルのシリーズです。
堂本右美はダイナミックなストロークによってキャンバス上に自由な世界を表現してゆきます。軽さと重さ、スピードと停滞といった、相反する要素の重なりが、空間に奥行きを生み出していますが、瞬時に生み出されるように見えるこれらの奔放なイメージは、日々繰り返される膨大なスケッチやドローイングによって獲得されたものなのです。
素朴な形態を凹凸のある画面に表現する野田裕示は、絵画にとっての画面のあり方を追求する画家であるといえます。木枠と布からなる素材としてのキャンバスに着目し、キャンバスを縫い重ねたり、内側に木片を貼り付けて擦り込み、フロッタージュ的な効果を出すなどといった試みにより、平面という制約の中での表現の可能性を探っています。画面のしわや絵具の滴りなど、非人為的な結果までをも作品に取り込んでゆく手法には、絵画における平面としてのリアリティを追求する姿勢があらわれています。

ギャラリー4では難波田龍起と同時代、およびそれ以降の時代の作品を紹介しています。具体美術協会を主宰した吉原治良の、簡潔にしてすべてを包括するような円や、白髪一雄の身体による激しいアクション・ペインティング、1950年代にパリに渡り、勃興しつつあったアンフォルメルの中心的画家となった堂本尚郎の《作品》(1961)、菅井汲の日本古来の紋章や記号のパターンから生み出される力強い形態などには、戦後美術を取り巻く時代のエネルギーが感じとれるでしょう。
薄いフィルムによって絵具を瞬時に刷(ルビ:は)くことで生まれる加納光於の作品は、自然物としての色の物質性を際立たせ、絵画という枠を超えて見る者の感覚を心地よく刺激します。艾沢詳子の有機的な形象は、風にゆらぐ生命体のように三次元性をもって立ち現れ、青木野枝の彫刻作品にも通じる軽やかなフォルムは、周囲の空気と一体になって増殖するかのようであり、いずれも自然の中にある目に見えぬもの存在に想像を巡らせ、視覚化するような作品であるといえましょう。
難波田龍起《私のパレット》

難波田龍起《私のパレット》
油彩、キャンバス
37.5 x 45.0cm 1953
photo:斉藤新

李禹煥《With Winds:風と共に》
李禹煥《With Winds:風と共に》
岩絵具、油彩, キャンバス
194.2 x 259.0cm 1989
photo:斉藤新

また、当コレクションに複数含まれている、韓国をルーツとする作家にも自然への独自のアプローチが見てとれます。モノトーンの点と余白の中に無限の世界の広がりを感じさせる李禹煥(リ・ウファン)、水や空気など自然のあるがままを画面に写しとったような崔恩景(チェ・ウンギョン)、金属や石などの素材に最少限の手を加え、ものと人との関係を探った前衛美術家、郭仁植(カク・インシク)のミニマルで奥行きのある画面などには、作品から自己を消して他者を大きく引き入れる、あるいは自然と一体化しようとする、求道者的精神が垣間見られます。

吉澤美香の、アクリル板に描かれたスピード感溢れる線。ここでは鮮明な黄色であるにもかかわらず支持体の存在感が消え、鮮烈な線の動きだけが見る者の記憶に焼き付けられるようです。
大竹伸朗にとって制作はまったくゼロの地点から何かを生み出すことではなく、「既にそこにあるものとの共同作業」であり、その結果が自分にとっての作品だといいます。たとえば夢を見たあとに沈殿する映像や会話の断片、それらを辿って行くことで、画家にとってのきらめく宝物は姿を現してくるのです。

描くとは、自ら引いた線やかたちにインスピレーションを受けながら、色や空間を探し当ててゆく旅なのでしょうか。予期せぬ画面との出会い、その可能性と魅力に取り憑かれ、画家は時に苦しみながらも描き続けるのでしょう。その苦しみにもまさる悦びを、本展で共有していただければ幸いです。


■インフォメーション

会場:ギャラリー3&4(東京オペラシティ アートギャラリー 4F)
期間:2006.1.14[土]─ 3.26[日]
開館時間:11:00 ─ 19:00(金・土は11:00 ─ 20:00/いずれも最終入場は閉館30分前まで)

休館日 :月曜日(ただし2月20日[月]は開館)、全館休館日 2月12日[日]
入場料 :企画展「アートと話す/アートを話す」の入場料に含まれます。

主催:(財)東京オペラシティ文化財団
協賛:日本生命保険相互会社
協力:山大鉄商株式会社、相互物産株式会社

お問い合わせ:東京オペラシティアートギャラリー Tel. 03-5353-0756