projectN 17 :東亭順 AZUMATEI Jun

2004.5.26[水]─ 7.11[日]



雲の彼方に ─ 東亭順の作品
東亭順の作品と同じく雲を描いた作品としては、黒田清輝の《雲》(東京文化財研究所蔵)があります。1913(大正2)年に描かれた6点組の連作で、いずれも、縦26センチ、横34センチほどの大きさの板に、形態的な特徴のはっきりとした雲を描いています。
さながら雲の図鑑でも見ている印象を与える黒田の作品に対して、東亭順が描くのは、薄っすらと垂れ込めるような雲ばかりで、形態的な変化はきわめて乏しいといえます。制作過程において東亭は、空や雲を撮影した写真やデジタル画像を利用しますが、それでも、油彩画による再現的表現力を誇示し、対象の迫真的描写に迫るのは、東亭ではなく、むしろ黒田の方です。
《Float》
アクリル絵具、インクジェット、パネル 18.2 × 25.7 cm
2002
Photo: 早川宏一


自ら撮影した写真や画像の上に、染み込ませるように、絵具を幾層にも重ねては磨きあげる。これが東亭の制作方法です。こうして光沢感のある独特の絵肌をもつ画面が出来上がります。塗り重ねられた絵具が画面上に偶然もたらす滲みは、東亭の作品にとって大きな要素です。それは日々その表情を変え、二度と同じかたちを繰り返さないものですが、作家はこれに現実の大気の千変万化を重ね合わせます。空模様の記憶や痕跡に、人間と同じ息遣い、温もり、鼓動を感じ、それらを融合させながらひとつの作品にまで昇華させていくのです。だからこそ、写真を使用しているものの、東亭の作品は、フォトリアリズムというよりも、むしろ抽象絵画のような表情を帯びているのです。
《Float》
アクリル絵具、インクジェット、パネル
18.2 × 25.7 cm(各)
2004
Photo: 早川宏一


もうひとつ注目しておきたいのは、その視線の方向、角度です。これも黒田の作品と比較するとわかりやすいのですが、見上げる視線の黒田の《雲》とは異なり、東亭の作品のほとんどは水平方向の視点によっています。水平方向の視点では、より厚い大気の層の影響を受けることになります。東亭の作品がどんよりとした印象を与えるのはこのためです。
《記憶へのカーブ》
アクリル絵具、インクジェット、パネル
72.0 × 50.5 cm
2004
Photo: 早川宏一


東亭順はあえて、大空に浮かぶ雲ではなく、垂れ込めるように漂う雲を凝視します。彼の作品から看取されるのは、のびやかな浮遊感ではなく、あてもない漂泊感です。とはいえ、このあてもない漂泊感こそが、彼の作品がまぎれもなく示す現代性だといったらいい過ぎでしょう。逆説的に聞こえるかも知れませんが、東亭の作品では、垂れ込める雲の彼方に、何ものかが確かに存在し息づいています。その不確実な何ものかを形象化し、実感しようと希求することが、東亭順の絵画制作といえるでしょう。



東亭順 AZUMATEI Jun
1973 東京都生まれ
1999 多摩美術大学美術学部デザイン科グラフィックデザイン専攻卒業
現在、東京都在住

個展
1998 アートギャラリー環、東京
2001 西瓜糖、東京
「透明な時間」、マキイマサルファインアーツ、東京
「透明な時間」、アートギャラリー環、東京
「透明な時間」、NCアートギャラリー、東京
2002 「近作展」、センチュリー・ギャラリー、ロンドン
2003 「雨のような匂い」、マキイマサルファインアーツ、東京
2004 「ア・フェイス」、西瓜糖、東京

グループ展
1996 「レヴェル2」、ギャラリー青山、東京
2000 「リキテックス・ビエンナーレ」、スパイラル・ガーデン、東京
「素描展」、アートギャラリー環、東京
「ひとつぼ展」、ガーディアン・ガーデン、東京
2001 「ウォモ・ディ・ガラージュB」、ガラージュB、東京
2003 「セレクト4」、アートギャラリー環、東京


インフォメーション
場所:東京オペラシティ アートギャラリー 4Fコリドール
期間:2004.5.26[水]─ 7.11[日]
開館時間:12:00 ─ 20:00(金・土は12:00 ─ 21:00/いずれも最終入場は閉館30分前まで)
休館日:月曜日

入場料:企画展:「アートがあれば ─ Why not live for Art?」展の入場料に含まれます。

主催:(財)東京オペラシティ文化財団

お問い合わせ:東京オペラシティアートギャラリー Tel.03-5353-0756