◎収蔵品展009
紙のうえの仕事 ─ 寺田コレクションより

2001.10.6[土] ─ 12.24[月・祝]



わたしたちが初めて"絵を描いた"のは、おそらく紙のうえでしょう。収蔵品展009でご紹介しているさまざまな「紙のうえの仕事」にも、子供の頃のお絵描きに通じる内発的な衝動や素直な感情の現れをみることができます。当コレクションを蒐集した寺田小太郎氏は、紙の作品について「キャンバスに描かれた作品ほど画面と格闘している感じがせず、作家の本音や本質が出ている気がする」と語っていますが、実際、寺田氏がコレクションの核に難波田龍起を据える契機となったのも、水彩画50点から成る「石窟の時間」と題されたシリーズでした。繊細な線描と湿度のある透明な絵の具の重なりに人影や形象が浮かびあがる作品群には、難波田らしい細かなストロークの軌跡が見られますが、《童女がひとり旅をする》、《妖精がいなくなった森》など油彩作品よりも物語的なタイトルは、わたしたちを透明なおとぎ話の世界へ誘っているようでもあります。



難波田龍起《石窟の時間》
水彩、インク、紙
48.0×64.0 cm
1988



展示作品のなかから、何人かをご紹介しましょう。
山口長男(1902-83)は、単純な幾何学的形態をモチーフに使いつつ、有機性の残る形と自然を意識した色彩で、難波田龍起と同時代の抽象絵画を探求した作家ですが、その水彩は独自性を追求する厳しさよりもむしろ、紙のうえを滑る潔く軽やかな筆の動きが印象的です。杉全直(1914-94)もまた、平面から立体作品まで多様な試みをした作家ですが、紫や緑系の絵の具が水分をたっぷり含んで滲み合う輪郭や色彩の重なりには、開放感が感じられます。山田正亮(1930-)の1980年代の水彩は、パステルや鉛筆の筆致と紙のうえで融合し、高い完成度を見せている一方で、近作の水彩にはそれまでにない奥行きが見られます。堂本右美(1960-)、野田裕示(1952-)らによる紙作品は、キャンバス作品の習作的要素が強いですが、抽象的なイメージが想像力のエキスのように直截的に表現され、限られた画面のなかで沸き立つような情感をたたえています。



山口長男《作品》
水彩、紙
38.0×26.7 cm
1970年代
堂本右美《Untitled YD-D9720》
水彩、アクリル絵具、紙
29.0×20.6 cm
1997



また、大竹伸朗(1955-)のグアッシュには、見る人を夢の世界へ誘うような幽遠さがあります。奈良美智(1957-)は、ドローイングから油彩、立体作品まで幅広く制作をしていますが、なかでもドローイングには、泉から涌き出るかのように自然な感情が表出しているように思われます。大竹や奈良はかなり多作な作家ですが、内部に留めきれない感情を手先から紙へと伝えるその感覚は、「何十枚もの紙を重ねて一日中部屋にこもって絵を描いていた」という難波田史男(1941-74)の、習慣的ともいえる制作姿勢を思い起こさせるものがあります。



難波田史男《夕やけ 4》
水彩、インク、紙
20.8×32.0 cm
1971



一方、郭仁植(1914-94)の色墨による繭型のフォルムは、まるで舞い落ちる花弁のように柔らかく空気を包み込み、素材としての紙の特徴を活かした画面に静謐さと美しさをもたらしています。また、グラデーションによる色彩を追求する百瀬寿(1944-)は、手漉き和紙の特性を利用したムラや滲みによって画面に表情を与えつつ、その紙片をキャンバスに貼ることで個々の色面の自律性を保っています。吉永裕(1948-)は和紙の特徴を活かしつつ、顔料やパステルなどパウダー状の色素を紙繊維と一体化させ、柔和で素材感のある画面を生み出しています。
"描くこと"の原点のような「紙のうえの仕事」。その多様さにみる個々の美しさや素直さに、見る側も構えることなく、自然に心を開放してみてはいかがでしょうか。



郭仁植《Work》
彩墨、和紙
69.5×47.0 cm
1985
百瀬寿《Nine Stripe:Green Black to Silver》
アクリル絵具、和紙、キャンバス
90.5×90.5 cm
1989



出品作家
ギャラリー3:難波田史男(NAMBATA Fumio)、難波田龍起(NAMBATA Tatsuoki)
ギャラリー4:崔恩景(CHOI Eun Kyong)、ニコラ・デ・マリア(DE MARIA Nicola)、堂本尚郎(DOMOTO Hisao)、堂本右美(DOMOTO Yuumi)、榎本和子(ENOMOTO Kazuko)、はい島伸彦(HAIJIMA Nobuhiko)、平野充(HIRANO Mitsuru)、加納光於(KANO Mitsuo)、児玉靖枝(KODAMA Yasue)、小杉小二郎(KOSUGI Kojiro)、李禹煥(LEE Ufan)、前田昌良(MAEDA Masayoshi)、ミズ・テツオ(MIZU Tetsuo)、百瀬寿(MOMOSE Hisashi)、村上友晴(MURAKAMI Tomoharu)、中西夏之(NAKANISHI Natsuyuki)、奈良美智(NARA Yoshitomo)、野田裕示(NODA Hiroji)、野坂徹夫(NOSAKA Tetsuo)、額田宣彦(NUKATA Nobuhiko)、大竹伸郎(OTAKE Shinro)、郭仁植(QUAC Insik)、坂本善三(SAKAMOTO Zenzo)、杉全直(SUGIMATA Tadashi)、山田正亮(YAMADA Masaaki)、山口長男(YAMAGUCHI Takeo)、吉永裕(YOSHINAGA Yutaka)、吉仲太造(YOSHINAKA Taizo)



インフォメーション
期間:2001.10.6[土]─ 12.24[月・祝]
開館時間:12:00 ─ 20:00(金・土は21:00まで、最終入場は閉館30分前まで)
休館日:月曜日(祝日の場合は翌火曜日)

料金:一般\300(\200)、大高生\200(\150)、中小生\100(\50)
※( )内は15名以上の団体料金、その他割引制度あり
※企画展「エゴフーガル:イスタンブールビエンナーレ東京」のチケットでもご覧いただけます。

主催:(財)東京オペラシティ文化財団
協賛:日本生命/ NTT都市開発/小田急電鉄

お問い合わせ:東京オペラシティアートギャラリー Tel.03-5353-0756