projectN 07 :北浦信一郎 KITAURA Shinichiro

2001.7.1[日]― 9.16[日]



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例えば最近街中を闊歩している80年代ファッションの若者や、家具類に顕著な60〜70年代デザインのリバイバル、またはLPの復刻版やリミックス・バージョンのCDにみられるように、現代は各時代の特徴的な表現を取り入れながら、それをオリジナルなものとして再生させることが上手なリミックス文化の時代といえるでしょう。北浦は各時代の特徴が織り交ざった網のなかで、周囲に対して常に好奇心に満ちたアンテナを張り巡らし、表現の源を探求しています。
別れの言葉
《別れの言葉》
アクリル絵具、ラッカーペイント、キャンバス
91.0×72.7 cm
2001


彼の作品は明るく穏かで飾り気がなく、あっけらかんと周囲に対して開け放たれた空気が漂っていますが、そこにはいつも、小さいながらも分かりやすい落とし穴と、思わせぶりなタイトルが設定されています。そのわずかな穴から覗く「裏」の顔が見る者を作品に引き込む入口の役割を果たしています。鑑賞者は、ちょうどアリスがウサギにつられて木の根元の落とし穴から不思議の国へ足を踏み入れたように、作品の裏にある物語を読み解こうと誘導されるのです。
子供だまし
《子供だまし》
92.0×182.0 cm
2001
photo: 佐々木悦弘


落とし穴として北浦の作品でしばしば繰り返されるのは、人物と火の描写です。高所に立つ人物やジェット噴射する飛行機、もしくは火事の家や船などが、曇りのなかったはずの画面に不安を漂わせる毒気の象徴として用いられていることは、視線を集中させるようにその部分にのみ油絵具を厚塗りした作品があることからも明かです。またそれらがあえてアンバランスに画面に配置され、構図として不安定感を醸し出していることも作品形成の背景として欠かせないでしょう。
秘密兵器
《秘密兵器》
アクリル絵具、ラッカーペイント、キャンバス
97.0×130.3 cm
2001
photo: 佐々木悦弘


本展に出品している新作では、そうした毒気の象徴は具体的な描写ではなく、造形的に簡略化・抽象化されたものとなり、描かれるイメージも様々になってきています。
また、異なった要素を画面上に配置するというより、画面全体が均一化し、グラフィカルな色面構成に近づいています。そこでは象徴的な意味あいが抑えられ、逆に描かれたイメージの不規則性、ひいては無意味さが強調されることになるでしょう。そのことによって毒気が作品から完全に消えることはありませんが、物語性は薄まり、画面全体に「裏」の気配がかすかに漂う程度の表現になっています。
北浦の作品に見られる、どこかしら抑え気味であえて肩の力を抜いたような等身大の表現というのは、現代の作家に多く見られる傾向であるといえますが、彼は自分の表現を追究する際に、時代と照らし合わせ、柔軟に「現代性」をリミックスしているといえるでしょう。
処世術
《処世術》
アクリル絵具、ラッカーペイント、キャンバス
100.0×100.0 cm
2001


同時代に生きる作家の作品を見ることは、現代のリアリティについて考えることでもあります。北浦の作品に見られるちょっとしたシニカルさは、意識的にせよ無意識的にせよ、彼が「現代」に対してリアルに感じているものの反映であると同時に、私たちがどこかで感じているものでもあります。自己表現を追い求めるあまり、それが内向的に閉塞してゆく方向へ陥る危険性を孕んだ芸術の世界で、北浦の作品は、真摯に己の表現を追究することと、周囲の環境に視野を広く保ち、自分の生きる時代を柔軟に取り入れることが、「現代」の網目に同時に織り込まれていることを、改めて認識させる機会となるでしょう。


北浦信一郎 KITAURA Shinichiro
1966 福島県生まれ
1992 東京藝術大学美術学部絵画科油画専攻卒業
台東区長賞、サロン・ド・プランタン賞受賞、平山郁夫奨学金授与
1994 東京藝術大学大学院美術研究科修了
1997 第7回ART BOX大賞展」大賞受賞
1998 「第9回関口芸術基金賞展(矢口國夫の眼)」大賞受賞
関口芸術基金により6ヶ月間ニューヨークに滞在
第13回ホルべインスカラシップ奨学生
現在、東京都在住

主な個展
1993 ギャラリーアリエス、東京
1994 ギャラリーアリエス、東京
ギャラリー17、東京
1995 ギャラリーアリエス、東京
1996 ギャラリーアートサロン II、千葉
1998 ART BOXギャラリー、東京
ギャラリーアートサロン II、千葉
1999 なびす画廊、東京
2000 なびす画廊、東京
ギャラリーK、東京
2001 「トーキョーワンダーウォール」、東京都庁第一本庁舎3階南側空中歩廊、東京
なびす画廊、東京

主なグループ展
1993 「中日現代美術展」、中国美術館、北京(カタログ)
1995 「第3回合同展覧会」、ギャラリー17、東京(カタログ)
1997 「第2回昭和シェル石油現代美術賞展」、東京国際フォーラム、東京(カタログ)
「第8回関口芸術基金賞展」、柏市文化フォーラム104、千葉(カタログ)
「第7回ART BOX大賞展」、麻布美術工芸館、東京(カタログ)
1998 「第9回関口芸術基金賞展」、柏市文化フォーラム104、千葉(カタログ)
「第3回アート公募1998企画作家選出展」、SOKOギャラリー、東京
1999 「第4回昭和シェル石油現代美術賞展」、目黒区美術館区民ギャラリー、東京(カタログ)
「第4回アート公募1999企画作家選出展」、SOKOギャラリー、東京(カタログ)
2000 「第5回昭和シェル石油現代美術賞展」、目黒区美術館区民ギャラリー、東京(カタログ)
「第5回アート公募2000企画作家選出展」、SOKOギャラリー、東京
「フォー・エマージング・アーティスツ」、テアトル・デ・ソンス、東京
2001 「台東区コレクション展」、東京芸術大学大学美術館、東京(カタログ)

自筆文献
「ニューヨーク・ニューヨーク」(研修レポート)、『第10回関口芸術基金賞展カタログ』、柏市文化フォーラム104、1999年7月、pp.13-14
「二つの注意」(コメント)、『アクリラート別冊2000』、ホルベイン工業株式会社、2000年9月20日、pp.48-50


インフォメーション
場所:東京オペラシティ アートギャラリー 4Fコリドール
期間:2001.7.1[日]― 9.16[日]
開館時間:12:00 ― 20:00(金・土は21:00まで、入館は閉館30分前まで)
休館日:月曜日(祝日の場合は翌火曜日)、8月5日[日](全館休館日)

入場料:企画展「わたしの家はあなたの家、あなたの家はわたしの家」展、収蔵品展008「難波田龍起と難波田史男 1960─1974」の入場料に含まれます。

主催:(財)東京オペラシティ文化財団

お問い合わせ:東京オペラシティアートギャラリー Tel.03-5353-0756