プロジェクトN

project N 75
衣真一郎 KOROMO Shinichiro

2019.4.20[土] ─ 6.23[日]

《横たわる風景》
《横たわる風景》
油彩,キャンバス
91.0 x 116.7 cm
2017
photo: KATO Ken
courtesy: Arts Maebashi
「在る」ことへの問い 衣真一郎の絵画

初めて衣真一郎の作品を見たのは2015年だったでしょうか。有り体な言い方ですが、なんとも自由な絵画だな、と感じたことを覚えています。タイトルの多くが「風景」とされているとおり、画面には山や川、家並みや道など、どことは知れないけれど誰もが共有可能な風景的要素が散りばめられていて、それらは細部を省いた単色の塊、あるいは輪郭であらわされています。
モチーフを順に見ていくと、あるものは水平、あるものは垂直、と視点が混在していることがわかります。古代エジプトの人物像を思わせる多視点は、決まりに頓着することなく興味のままに対象を見、表現するおおらかさを象徴しているように感じられました。この風景の捉え方は衣が生まれ育った場所の地形によるところが大きいようで、群馬県伊香保の榛名山中腹での日常は、山から見下ろす俯瞰、彼方に別の山を見渡すパノラマ、近所の森や畑の近景といった具合に、視点のヴァリエーションを意識するには最適な環境だったようです。

衣の絵画のもうひとつの特徴として、散在するモチーフのそれぞれに重力が働いていないように見えたことも印象的でした。画面の多くを占める白の部分は各要素に動きの自由を担保しているようで、モチーフは次の瞬間にはどこか別の位置に動いていたとしてもおかしくないと思われました。くり返しあらわれる古墳も同様で、実際にはあり得ないけれど、意志を持って動き出しそうな気配をただよわせています。大きいのか小さいのか、生きているのかいないのか、画面に向かって思わず問いかけたくなります。すべてがなんとも落ちつきなく、そして作家自身がそれを楽しんでいる、というのがこれまで私が衣の絵画に抱いていた印象でした。

《木のある風景》

《木のある風景》
油彩,キャンバス
227.3 x 162.0 cm
2017
photo: KIGURE Shinya

ところが本展の準備をするなかで、その印象はだいぶ変わりました。おそらく、画面の木や古墳は動かないでしょう。少なくともしばらくの間は。絵画に気持ちがあるとして、鑑賞者がそれを代弁しようとするのはあまりに無謀ですが、あえてその危険を冒してみると、要素のそれぞれは居心地が良いからそこにいるのです。さらに踏み込んで言うならば、衣はモチーフのひとつひとつとmutual understanding(意志疎通、合意)を図りながら、それぞれを個別に存在させ、全体として統合させてもいます。なにを今さら、画家は皆そうやって画面を構成しているのではないか。そう問われるのは当然かもしれません。しかし衣の作品についてことにそれを強調したいのは、作家と画面の関係において主従が希薄、あるいは逆転を繰り返しているように見えるからかもしれません。ゆっくりと手を動かしながら時間をかけて画面とやりとりをするなかで、衣は積極的に画面の提案を受け入れます。たとえば、古墳のモチーフはある日自然に手を動かしていたらその形になっていたことがきっかけで、その後意識的に登場させるようになりました。それはときに、人の形としてあらわれることもあります。

あなたはどこに、どういたいのか。私はここで、こうがいいと思う。はじめはドローイングで個々の形や量感、もの同士の関係、全体としての在りようを問い、キャンバスに移行してからもためつすがめつ絵具を乗せていきます。ほとんど混色されないまま単色で塗り分けられるモチーフに奥行きはありませんが、あるものはもったりと厚塗りされ、あるものはかすれを帯び、と、ひとつずつの塊にタッチの重さ/軽さが付与されています。しかしそれによってヒエラルキーが生じることもありません。ときに画面の大半を占める地あるいは余白と見える部分を含め、すべてが等価で、それぞれが自由に心地よく振る舞い、それでいて秩序立った画面なのです。それを、尊厳を認められた絵画、といったら大仰でしょうか。「風景」と並んで多くの作品のタイトルにもちいられる語”Lying” の第一義が「横たわる」だとしても、衣の絵画制作とは、この語が持つもうひとつの意「存在する/在る」に対する問いと実践と考えてもよいのではないでしょうか。

《横たわる風景》

《横たわる風景》
油彩,キャンバス
97.0 x 130.3 cm
2018
photo: KATO Ken




ギャラリー展示風景 ギャラリー展示風景
ギャラリー展示風景 ギャラリー展示風景
ギャラリー展示風景 ギャラリー展示風景
展示風景
photo: KATO Ken

衣真一郎 KOROMO Shinichiro
1987 群馬県生まれ
2013 東京造形大学造形学部美術学科絵画専攻卒業
2014-15 パリ国立高等美術学校交換留学
2016 東京藝術大学大学院美術研究科絵画専攻修了
   
主な個展
2014 「田園風景」,現代HEIGHTS Gallery DEN &.ST,東京
「TWS-Emerging 214 風景と静物」,トーキョーワンダーサイト渋谷,東京(事業リポート)
2016 「Town」,switch point,東京
2018 「山と畑」,ya-gins,群馬
   
主なグループ展
2010 「東京造形大学絵画棟クロージング展 camaboco」,東京造形大学
2011 「Switchers 3 x 3」,藍画廊,東京
2013 「トーキョーワンダーウォール 2013」,東京都現代美術館
2015 「Choque Parisien」,パリ国際大学都市日本館
2016 「corner」,See Saw gallery+hibit,愛知
「アートアワードトーキョー丸の内 2016」,丸ビル1階マルキューブ,東京 (2013)
2017 「群馬青年ビエンナーレ 2017」,群馬県立近代美術館
「BankARTLifeV Bank U35 2017」,BankART Studio NYK,神奈川(リーフレット)
2018 「つまずく石の縁—地域に生まれるアートの現場—」,前橋中心市街地周辺,群馬
「para nature」,EUKARYOTE,東京
「The rising generation 16 衣真一郎 高橋敬子」,渋川市美術館・桑原巨守彫刻美術館,群馬(リーフレット)
   
アーティスト・イン・レジデンス
2017 「群馬県ゆかりのアーティストによる滞在制作事業」,アーツ前橋,群馬(リーフレット)
2019 トーキョーアーツアンドスペース「二国間交流事業プログラム(派遣)」,センター・クラーク,ケベック


■インフォメーション

会場:東京オペラシティ アートギャラリー 4Fコリドール
期間:2019.4.20[土] ─ 6.23[日]
開館時間:11:00 ─ 19:00(金・土は11:00 ─ 20:00/いずれも最終入場は閉館30分前まで)


休館日:月曜日(祝日の場合は翌火曜日、ただし4月30日は開館)
入場料:企画展「トム・サックス ティーセレモニー」、収蔵品展066「コレクター頌 寺田小太郎氏を偲んで」の入場料に含まれます。

 

主催:公益財団法人 東京オペラシティ文化財団

 

お問い合わせ:03-5777-8600(ハローダイヤル)

開館日時

  • 2019年5月27日[月]
    休館日
  • 2019年5月28日[火]
    11:00 - 19:00
  • 2019年5月29日[水]
    11:00 - 19:00
  • 2019年5月30日[木]
    11:00 - 19:00
  • 2019年5月31日[金]
    11:00 - 20:00
  • 2019年6月1日[土]
    11:00 - 20:00
  • 2019年6月2日[日]
    11:00 - 19:00

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