収蔵品展059
静かなひとびと

2017.7.8[土]─ 9.3[日]

五味文彦《白い器のある静物》油彩,キャンバス 53.0 x 45.5 cm 2000 photo: 斉藤新
五味文彦《白い器のある静物》
油彩,キャンバス
53.0 x 45.5 cm 2000
photo: 斉藤新

収集家の寺田小太郎氏は、永年造園の仕事に携わってきました。オペラシティ街区の植栽についても、およそ20年にわたり監修を手がけています。寺田氏の樹木に対する考え方は独特で、むやみに枝をつめ、かたちづくるようなやり方とは対極にあります。つまり木の健康状態に合わせて剪定の度合いを決め、木がどう伸びていきたいのか、木の命の深いところにまで降りていってその声を聞くといった具合なのです。たとえ葉に虫がついて弱ろうとも、その木に与えられた運命だからと極力農薬は使いません。自然にまかせ、命のゆくえを見守るのです。
桂、ミモザアカシヤ、花梨、山桃、スモークツリー、夾竹桃、栃の木、フェイジョア、酔芙蓉、ナンキンハゼ ── 日本で馴染み深い木や、アジアや南米やヨーロッパ原産の珍しい植物が混然となって、それぞれのテリトリーを拡大していきます。うまく場所を得られればそこで花を咲かせ、実を結び、あるときは淘汰されて、この20年ものあいだに他のオフィスビルにはみられないような、特徴ある景観をかたちづくってきました。この都心の一角の庭には、樹木とともに歩んできた一人の人間の思想が反映されているといってよいでしょう。
自然とは、私たちが向きあう対象なのではなく、私たちがその一部として生かされている全体である。寺田氏は、そのことを理屈ではなく自らの体験をもって心身に刻んできたのです。そして氏が永年自身に向けて発してきたという問い「人はなぜ生きるのか」── は、木々や生きものや、目に見えない生命の循環を意識するとともに深まり、研ぎ澄まされてきたに違いありません。
「静かなひと」とは寺田小太郎氏その人であり、本展で取り上げられる作家一人ひとりのことなのです。


長谷川潔《裸婦》
エングレーヴィング,紙
26.5 x 17.5cm 1936
photo: 斉藤新

版画家長谷川潔は生涯にわたり、自然を観察しつづけました。野の花のみずみずしさや、その無限の多様性を愛した長谷川にとって、観察とは対象の内部に深く入り込み、生命の神秘にふれることでした。自著『白昼に神を視る』の中で長谷川は「木、花、草ひとつひとつの声が聞こえ、考えがわかるようにまでなった」と語っています。
寺田コレクションには長谷川の裸婦や女神など、人物像のみ約30点が収蔵されています。簡潔で優美な人体の線もまた、たゆみないデッサンから始まり、ドライポイントやエングレーヴィングといった銅版画の技法の探究とともに獲得されていきました。


奥山民枝 《手のなかのいのち》
鉛筆,紙
12.5 x 15.5cm 1987
photo: 早川宏一

かたちあるものをつぶさに見つめ、対象に没入した長谷川に対し、奥山民枝は、見えるもののかたちを手掛かりにしながら、その奥にある生命そのものを独自のイマジネーションによって描き出そうとします。連作《手のなかのいのち》におけるぐにゃりと曲がった身体、人間の手をした犬、溶け出す大根(すべて、のようなもの)――わずかに違和感を引き起こさせる表現は、どんなに奇異に見えても画家が知識や先入観なしに対象を見つめた結果にほかなりません。



河原朝生 《時間の部屋》
油彩,キャンバス
129.3 x 160.9cm 2004
photo: 早川宏一

ところで「あるがまま」という意味をもつ自然は、「素朴さ」と親密な関係にあるのではないでしょうか。ピエロ・デッラ・フランチェスカをはじめイタリア・ルネサンス絵画の影響が色濃く見られる有元利夫、丸みをおびたかたちと穏やかな色彩が西欧のおとぎ話の一場面を思わせる小杉小二郎、シンプルな構図と温かみのある色づかいで、そこに人の気配を感じさせるような河原朝生、彼らの作品に「素朴」という言葉が思い浮かぶのは、自然にひそむ甘美さへの憧れが表出する、その素直な表現ゆえでしょう。
版画家清宮質文の作品にも同様の素朴さが感じられますが、そこには郷愁や、はかないものへの愛おしさが入り混じります。水や土や湿り気をおびた空気など、どこか日本の風土を思わせる鈍い色づかいには不思議な透明感があり、地上に生きるものが放つ一瞬のきらめきをとどめるかのようです。
本展は自然と生きる寺田小太郎氏の、個々の作家への深い共感が核となっています。作家の自然へのまなざしと制作への姿勢は分かちがたいものであり、コレクションの中に拡散しながらも重要な要素となっているのです。

ギャラリー展示風景 ギャラリー展示風景
ギャラリー展示風景 ギャラリー展示風景
展示風景

■インフォメーション

会場:ギャラリー3&4(東京オペラシティ アートギャラリー 4F)
期間:2017.7.8[土]─ 9.3[日]
開館時間:11:00 ─ 19:00(金・土は11:00 ─ 20:00/いずれも最終入場は閉館30分前まで)


休館日:月曜日(祝日の場合は翌火曜日)、8月6日[日](全館休館日)
収蔵品展入場料:200円
(企画展「荒木経惟 写狂老人A」のチケットでもご覧いただけます)

 

主催:公益財団法人 東京オペラシティ文化財団
協賛:ジャパンリアルエステイト投資法人
協力:相互物産株式会社


お問い合わせ:03-5777-8600(ハローダイヤル)

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  • 2017年7月27日[木]
    本日の開館時間 11:00 - 19:00
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