プロジェクトN

project N 67
田中彰 TANAKA Sho

2017.4.8[土]─ 6.25[日]

《木に人を接ぐ》(部分)木版、油性インク、雁皮紙、茶袋、コーヒー豆 サイズ可変 2017 photo: 安田暁
《木に人を接ぐ》(部分)
木版、油性インク、雁皮紙、茶袋、コーヒー豆
サイズ可変
2017
photo: 安田暁
田中彰 木に人を接ぐ

木版画を中心に制作する田中彰は、木という身近な存在と、それを利用する木版画がはらむ意味や機能を過去・現在・未来の人間の生活との関わりから考察しようとしています。田中は、文化的、歴史的な関心から世界中を旅し、さまざまな人々と交流し、現地で得た素材によって制作します。今回のproject Nの展示では、主に世界を旅して出合ったコーヒー豆と、アトリエ近くの浜辺に世界中から流れつく漂着物、とりわけ流木にインスピレーションを得ながら、さまざまな制作を行いました。田中にとって、コーヒーノキの種子であるコーヒー豆は、日々の生活にとけ込んだ極めて身近な「木」であると同時に、それぞれの土地の風土、社会、歴史をバックグラウンドとして背負った存在にほかなりません。流木は、観察するとなにかしら人間の営みの痕跡が見てとれることが多く、木と人間との関わりについて多くを語ってくれるといいます。木が本来生育していた地域を離れ、世界中を移動し、いわば旅することで文化を伝播し、様々な地域を結びつけて来たことにつねに思いを馳せる田中にとって、コーヒーも流木もきわめて興味深い存在なのです。

今回の展示を構成する各パートについて、順路に沿って見ていくことにしましょう。



《木に人を接ぐ》(部分)
木版、油性インク、雁皮紙、茶袋、コーヒー豆
サイズ可変
2017
photo: 安田暁

まず進行方向右側の長い壁面に、アトリエからほど近い那珂川の河口で見つけた主に流木をモチーフにした無数の不定形の木版画群が散りばめられています(《木に人を接ぐ》)。個々の大きさは約5センチから40センチほどで、その数は300点を超えます。これらの配置は、はじめはランダムですが、徐々に結合しあい、やがて「木」をかたどっていきます。いわば死んだ木である流木が集積して、新たな木を生みだすという、木の再生の物語が浮かびあがってきます。これらの版木の制作で、田中は電熱ペンを用いています。電熱ペンの鋭い先端で版木を焦がし、微細な穴を穿つことで、独特の光をはらむ点描的な表現が可能となっています。また、個々の作品が膨らんでいるのは、雁皮紙に刷って出来た木版画を裏打ちする素材が袋状になっており、そこに田中が世界各地から生豆で入手し、自ら焙煎したコーヒー豆を詰めているからです。いわば流木の旅にコーヒー豆の旅が重ね合わせられているわけですが、ここで興味深いのは、版木を焦がすことも、コーヒー豆の焙煎も、熱エネルギーで対象を変容させる行為であり、それは人間が生きる営みの原点を確認する行為にほかならないという点です。そうした行為が着火点となり、田中の独特なイマジネーションが発動し、コーヒー豆と流木をめぐる壮大な物語が紡ぎ出されてゆきます。

左側の窓の手前の壁にある《コーヒー豆生産国のためのラベル》は、田中が木版で創案した世界のコーヒー生産国のラベル群です。田中はそれらを、各国ごとの暮らしや雰囲気を自分なりに想像しながら、おなじく電熱ペンによって制作しています。そこには各国の歴史や自然、ときに社会情勢と繋がりのあるモチーフが表現されており、見る者の興味をかきたてずにはおかないでしょう。田中自身、それらのラベルを通して、人々に各国への関心を深めてもらいたいし、コーヒーをきっかけにした対話を通して、時間や場を共有してもらいたいといいます。つまり田中は、ある種のコミュニケーションへの働きかけを企図しているのです。たとえば銅版画のように特別な施設を必要とせず、いつでも、どこでも制作できる木版画は、日常的なコミュニケーションとの親和性が高いメディアといえます。田中はそうした木版画の特性を充分意識しているといえるでしょう。



《樹木の航海》
木版、流木、虫眼鏡、太陽光、油性インク、ロクタ紙
サイズ可変
2016-17
photo: 安田暁

左側の窓を過ぎた壁にある《樹木の航海》は、流木そのものを版木に用いた作品群です。那珂川の河口で入手した流木に、それが流れ着くまでの経緯や経路を思い描きつつ、様々な文様を刻んでいくのですが、田中はそれを、レンズで集めた太陽光を流木に当てて焦がすという、より原初的な方法で行っています。この流木版画は、ネパールで生産されるロクタという植物を使った素朴な手漉き紙に刷られています。すでに流木に刻まれていた凹凸と、田中が太陽光で加えた凹凸とがない交ぜとなって刷りとられるそのイメージは、電熱ペンによる作品の細密ともいえる表現とは対照的に、茫洋として抽象的であり、ある種プリミティブな表情をたたえています。田中はそれを、人間の営みについて語る未来に向けた暗号のようなものだと語ってくれました。

展示のしめくくりは、田中が那珂川の河口でメモがわりに描きためたドローイングをモチーフごとに分類して提示する作品(《海岸と川辺での採集》)と、田中自身がブレンドしたコーヒー豆のラベル(《接木人ブレンド》)です。前者では、制作行為の始原への遡行がはかられています。後者では、ラベルの裏打ちの袋に田中自身がブレンドして焙煎した豆が詰められており、木と人間の関わりが集約的に示されています。人間の暮らしと切り離すことのできない「木」の旅の物語は、豊かなポエジーにつつまれつつ、ここでいったん閉じられるのです。

木の移動(旅)、その果ての再生、熱エネルギーを介した人間とのかかわり・・・。これらを主題化する田中の制作がはらむポエジーは、火や水といったエレメントをも含み込んだ、なにか大きな循環へのまなざしによって支えられているように思われます。田中の制作行為は、目的化した自己表現としてのイメージを生みだすというより、むしろ木と人間との関わりの根底的な部分を自ら実践しなおそうという意識によって主導されているといってよいでしょう。見る者を活発なコミュニケーションへと誘う木版画ならではの働きかけに満ちたその作品群は、離れた人と人、文明と文明を木が関係づけているように、自らの制作を、時空をこえた人と人、文明と文明を結びつける営みとして位置づけようとする意志に貫かれているのです。



ギャラリー展示風景 ギャラリー展示風景
ギャラリー展示風景 ギャラリー展示風景
展示風景

田中彰 TANAKA Sho
1988 岐阜県生まれ
2013 武蔵野美術大学造形学部油絵学科版画専攻卒業
2015 武蔵野美術大学大学院造形研究科修士課程美術専攻版画コース修了
茨城県在住
   
主な個展
2016 「樹について」, 三菱一号館歴史資料室, 三菱一号館美術館, 東京
   
主なグループ展
2011 「Oaxaca Magica」, CASAサン・アグスティン芸術センター, サン・アグスティン・エトラ, メキシコ
2014 「International Live Performance Art 2014」, ネパール美術アカデミー, カトマンズ, ネパール
「Entre Dois Mundos」, アフロブラジル博物館, サンパウロ, ブラジル
「紙と伝 田中彰と五人の伝」, 小国芸術村会館, 新潟
「落石計画第7期 Cape Watershed/残響」, 旧落石無線局跡, 北海道
「Yogyakarta Open Studio 2014」, 栗林隆スタジオ, ジョグジャカルタ, インドネシア
2015 「第14回 南島原市セミナリヨ現代版画展」, ありえコレジヨホール, 長崎
「アートアワードトーキョー丸の内2015」,丸ビル1階マルキューブ,東京
「みなとメディアミュージアム2015」, ひたちなか海浜鉄道湊線沿線地域, 茨城
「IMPACT9 International Printmaking Conference」, 中国美術学院, 杭州, 中華人民共和国
2016 「Carving the Floating World」, ミケーコガレリー, ミュンヘン, ドイツ
   
受賞
2013 武蔵野美術大学 前田常作賞
2015 第14回南島原市セミナリヨ現代版画展 南島原市長賞
アートアワードトーキョー丸の内2015 今村有策賞, 三菱地所賞
みなとメディアミュージアム2015 大賞


■インフォメーション

会場:東京オペラシティ アートギャラリー 4Fコリドール
期間:2017.4.8[土]─ 6.25[日]
開館時間:11:00 ─ 19:00(金・土は11:00 ─ 20:00/いずれも最終入場は閉館30分前まで)


休館日:月曜日
入場料:企画展「片山正通的百科全書 Life is hard…Let’s go shopping.」、収蔵品展058「ブラック&ホワイト ─ 色いろいろ」の入場料に含まれます。

 

主催:公益財団法人 東京オペラシティ文化財団

 

お問い合わせ:03-5777-8600(ハローダイヤル)

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  • 2017年4月26日[水]
    本日の開館時間 11:00 - 19:00
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