収蔵品展058
ブラック&ホワイト
色いろいろ

2017.4.8[土]─ 6.25[日]

松谷武判《OBRIQUE-5-86》ミクストメディア,紙 162.0 x 130.0cm 1986 photo: 斉藤新
松谷武判《OBRIQUE-5-86》
ミクストメディア,紙
162.0 x 130.0cm 1986
photo: 斉藤新

あわいに満ちる色 寺田コレクションの黒、白、赤、青

しらじらと夜が明けて、黒々とそびえる山を眺める。あかあかと灯りのともった食卓で、青々とした菜っ葉をいただく。ある光景をなにげなく描写したところ、いずれも正確な色はそれぞれ白、黒、赤、青ではないことに気付きます。遠い昔、日本の人は色とりどりの世界をこの四色に大別して表していて、言葉にはその認識の名残が残っているのだそうです。元来中国の五行思想にもとづいたこの分類は、方角を表すものとなったり(東=青、西=白、南=赤、北=黒)、季節と結びついたり(春=青、夏=朱、秋=白、冬=玄)しますが、日本にも早々に定着して人々の暮らしに行き渡りました。また、この四色は色を表すのみならず、黒=暗い、白=明るい、赤=はっきりとした、青=ぼんやりとした、といった状況を説明する語としても使われるなど、人々の精神にも関わりのある、より広い意味を持つ語となったのです。


大竹伸朗《夢 #1(調律用くさび1)》
グアッシュ,紙
30.0 x 22.8cm 1991
photo: 早川宏一

大竹伸朗《夢 #2(火を起こす)》
グアッシュ,紙
30.0 x 22.0cm 1991
photo: 早川宏一

今回の収蔵品展は、「ブラック&ホワイト」というこれまで繰り返し採り上げてきた寺田コレクションの核を、もうひとつのテーマ「色」と組み合わせて掘り下げようとする試みです。冒頭の日本の古来色は、寺田氏の「日本的なるもの」を探る手掛かりとして長く意識されてきました。氏がとりわけ黒と白の作品に惹かれたのは、限られた色のなかに生まれる運動ゆえでした。戦後、高度成長期と急激な変化を遂げる中で暮らしに色彩があふれていくさまを見てきた氏は、「表現手段が豊かになれば、即表現が豊かになるとはとても思えない。表現を究極まで推し進めていくと非表現に辿り着いてしまうという考えが私にはあって、その非表現の一歩手前で留まったような作品や、表現の世界から非表現の世界を振り返ったような作品、またその逆の作品というのにひじょうに惹かれる。表現と非表現が照応しあっているその動きにです」と語っています(*1)。本展前半に出品した黒と白の作品群の、表現と非表現のあわいの拮抗は、作家それぞれの格闘の現れです。李禹煥の身振りそのものと言える絵具の痕跡、松谷武判のどろりと落ちるメディウムの質感、絵具をぐりぐりと押しつけるように形を探った赤塚祐二のキャンバス、ロープにぶら下がりながら足で絵具を塗りつけた白髪一雄の画面はいずれも、必然を描きながら状況の偶然を許容する多義性に富み、コレクションの本質を表す作品と言えるでしょう。


小山穂太郎《Cavern》
ゼラチンシルバープリント
81.5 x 81.5cm 2005
photo: 早川宏一

展示の後半は、多彩な色の世界へと誘います。とりどりの色が揃った展示室はさながら万華鏡のようですが、いずれも抽象の作品の並びを見て感じるのは、どこか湿り気のある薄暗いその色調です。たとえば内間安瑆、加納光於や野見山暁治の赤には、古来色の赤が示す「はっきりとした」という意には回収できないニュアンスが見られます。「赤」でありながら、ぼんやりとした「青」でもあるようなその色彩の好みも、寺田コレクションの特徴と言えるでしょう。もう一つの際立った特徴が、その「青」の作品の豊富さです。コレクションの主要作家である難波田龍起は終生青にこだわった作家でしたし、新版画の川瀬巴水が好んで使った夜の静寂の青、清宮質文の灰がかった鈍い青など、青の作品は枚挙にいとまがありません。寺田氏の青に対する憧憬は民俗学的な観点に拠るところがあって、古代日本の死生観への関心へとつながります。民俗学者・谷川健一と仲松弥秀によると、古く南方では、死者を無人の小島の海岸にできた洞窟に風葬する葬法が採られていました(*2)。奥武(おう)の島、すなわち青の島と呼ばれた島は各地に存在し、「青の世界は暗黒でもなければ、赤・白をもってあらわす明るい世界でもない。むしろそれは、明るい世界に通ずる淡い世界、古事記の黄の世界(黄泉の国の黄色)と類似の世界である」(*3)とあるとおり、青は古来色になかった黄色のぼんやりとしたうす明かりを含んで、現世と死者の世界の間に満ちる色なのだといいます。死が完全なる彼岸=他界になる以前の、生と死が隣り合わせに混じり合っていたいにしえの死生観を表すものとして、寺田コレクションの青は深く私たちに訴えかけます。世界の区切りをはっきりとつけることなく、その間をぼんやりとつなぐ青の色は、多義性を肯定する日本の精神性に関心を寄せた、コレクションを象徴する色と言えるでしょう。



難波田龍起《青い夜》
油彩,エナメル,キャンバス
73.0 x 90.5cm 1966
photo: 斉藤新

[*1]寺田小太郎,大島清次「コレクションにおける「私」性」(対談),『東京オペラシティアートギャラリー収蔵品選』,東京オペラシティ文化財団,1999年,pp.136-137

[*2]谷川健一「第十二章 青の島とあろう島」,『日本人の魂のゆくえ 古代日本と琉球の死生観』,冨山房インターナショナル,2012年,pp.194-195

[*3]筒井功 「1. 仲松弥秀著『神と村』」,「第一章 南島からの指摘」,『青の民俗学 地名と葬制』,河出書房新社,2015年,pp.16-17

ギャラリー展示風景 ギャラリー展示風景
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展示風景

■インフォメーション

会場:ギャラリー3&4(東京オペラシティ アートギャラリー 4F)
期間:2017.4.8[土]─ 6.25[日]
開館時間:11:00 ─ 19:00(金・土は11:00 ─ 20:00/いずれも最終入場は閉館30分前まで)


休館日:月曜日
収蔵品展入場料:200円
(企画展「片山正通的百科全書 Life is hard…Let’s go shopping.」のチケットでもご覧いただけます)

 

主催:公益財団法人 東京オペラシティ文化財団
協賛:NTT都市開発株式会社


お問い合わせ:03-5777-8600(ハローダイヤル)

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  • 2017年5月24日[水]
    本日の開館時間 11:00 - 19:00
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