収蔵品展057 人間 この未知なるもの 2016.12.10[土]─ 2017.3.12[日] 坂部隆芳《夢》油彩,キャンバス 159.0 x 79.0cm 1988 photo: 斉藤新
坂部隆芳《夢》
油彩,キャンバス
159.0 x 79.0cm 1988
photo: 斉藤新

本展は3500点を超えるコレクションの中から人物をモティーフにした作品を抽出し、類別化することで人間の存在そのものについて考察してみようという試みです。
人のかたちは見る者の内部に何らかの共鳴をもたらすことがあります。他者へ向けられたまなざしは同時に自分自身を見つめる眼になることもあるでしょう。一堂に集められた人物像を俯瞰的に見ることで浮かんでくるのは、収集家寺田小太郎氏の中で繰り返されてきた根源的な問いかけです。「人間とは何か」─。140点を超える作品は氏の問いの集積といえるでしょう。


神との歩み


長谷川潔《裸婦》
ドライポイント,紙
26.5 x 17.5cm 1936
photo: 斉藤新

イエスに従った女性《聖マリア・マグダレナ》、島原の乱で殉教したキリシタン武士の亡霊《原の城 エスキース》など、舟越保武はカトリックの信仰に根ざした作品を多く残しました。舟越の制作はモデルなしに進められましたが、自らの心の中を見つめ、その先に結ばれる像をかたちにすること、それ自体が祈りの行為ではないでしょうか。一方で長谷川潔による《裸婦》や《水浴の少女と魚》などの女性像は神秘的な美の象徴として描き出されます。長谷川にとって神は日常の中に存在しました。「現代は、神性の観念よりはいって絵にいたる。私は、物よりはいってその神にいたる。」[*1]という言葉通り、自然をつぶさに観察することから宇宙の摂理へ到達しようとするものでした。


表層と本質

白塗り、だらりの帯、花かんざし。京都で磨かれた伝統美をまとう舞妓は、花街の習わしを身につけ、芸に精進します。大野俊明の《彩》では舞妓の凛とした佇まいに様式の中の美の奥行きが描かれる一方で、室井東志生の《刻》の舞妓はくつろいでポーズをとり、生身の人間の存在感を感じさせます。相笠昌義の《舞妓三態》に描かれるのは、あくまでも舞妓として粧う若い女性たちです。丸みを帯びたかたちによって、人物の可憐さが印象づけられます。


動物と植物の間

奥山民枝が「自身の意識が皮膚の外側に溶け出す感覚」[*2]を味わったのは1979年から81年にかけての南米大陸一周の旅先でした。人間が自然の一部であるならば、奥山民枝にとっての人間は花や山や動物と等価な存在です。《恬》では岩山を背景にアクロバティックなポーズをとる人間が浮かび上がります。奥山の描く生命体は時に過剰なほど自然の法則からはみ出して見えますが、旅に磨かれ鋭敏になった感覚から、独自のかたちは生まれ出るのでしょう。


奥山民枝《恬》
油彩,キャンバス
24.0 x 37.8cm 1986
photo: 早川宏一

時代の中の顔

内田あぐりの《女人群図 -Ⅰ》は、福生市にある米軍ハウス「ジャパマハイツ」に住んでいた女性たちをモデルに描かれました。70年代サブカルチャーの聖地といわれた場所で、若者たちの間には権力への抵抗や自由への希求が広まっていたと内田は振り返ります。女性たちの祈るような仕草と表情には時代の精神が色濃く反映しますが、それは時代のただ中で画家を志した、内田自身の内面そのものといえるでしょう。


それぞれの孤独

「日常生活」の連作で知られる相笠昌義の《駅にて:夜》や《地下鉄を待つ人》には社会の中でそれぞれの孤独を携えて生きる人々が描き出されます。《人生四季Ⅰ》は、80年近くを歩んできた画家が拾い上げた、さまざまな人生の一こまです。画家自身も登場する画面は、哀愁を帯びながらも温かく感じられます。


相笠昌義《駅にて:夜》
油彩,キャンバス
96.5 x 145.5cm 1993

子供時代


奈良美智《Study-2》
水彩,紙
18.0 x 18.0cm 1997

奈良美智にとって、子供の爆発的な感情は創造の起点となります。反抗心、怒り、パンクの精神。それは大人が作りあげた「子供らしさ」とは異なる、人間の内に眠る魂の原石のようなものではないでしょうか。《Study-2》では不機嫌そうな女の子の顔のみが描かれています。自らの感情の振幅を記す日記のように。奈良は繰り返し子供の顔を描くのです。



人間は人間とは何かを考えずにいられません。生命現象についてのさまざまなことが解明されつつある現代においても、精神がその存在を決定づける以上、人間は未知なる生物であり続けるでしょう。そして問い続けるでしょう。問う自分を認識すること、それ自体が生きることなのですから。

[*1]「Ⅰ 断章、折りにふれて」、長谷川潔『白昼に神を視る』、1982年、p.13

[*2]「談 ─ 聞き手・谷川俊太郎」、奥山民枝『ゆらぐ/わたる(山へんに及/しんにょうに世)』、2000年、p.41

ギャラリー展示風景 ギャラリー展示風景
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展示風景

■インフォメーション

会場:ギャラリー3&4(東京オペラシティ アートギャラリー 4F)
期間:2016.12.10[土]─ 2017.3.12[日]
開館時間:11:00 ─ 19:00(金・土は11:00 ─ 20:00/いずれも最終入場は閉館30分前まで)


休館日:月曜日(祝日の場合は翌火曜日)、12月26日[月]─ 2017年1月3日[火](年末年始)、2月12日[日](全館休館日)
収蔵品展入場料:200円
(企画展「画と機 山本耀司・朝倉優佳」のチケットでもご覧いただけます)

 

主催:公益財団法人 東京オペラシティ文化財団
協賛:日本生命保険相互会社
協力:相互物産株式会社


お問い合わせ:03-5777-8600(ハローダイヤル)

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