収蔵品展050 木を彫る 2015.1.17[土]─ 3.29[日]
磯見輝夫《水浴》木版画,和紙 72.0 x 120.7cm 1981 photo: 斎藤新

磯見輝夫《水浴》
木版画,和紙 72.0 x 120.7cm 1981
photo: 斎藤新

 

古来、森林資源に恵まれた日本において木は人々にとって身近な存在であり、芸術作品や建築の素材として重要な役割を果たしてきました。自然から伐りだした木材を彫ってつくる木彫の彫刻はもとより、木の板を彫った上にインクを載せ、イメージを紙に写す木版画まで、木をもちいた芸術作品にはさまざまな顔があります。

 

保田井智之《アイム・フロム・ザ・クラッド》楠,欅,ブロンズ 151.0 x 70.0 x 70.0cm 1990 photo: 黒川晃彦

保田井智之
《アイム・フロム・ザ・クラッド》
楠,欅,ブロンズ
151.0 x 70.0 x 70.0cm 1990
photo: 黒川晃彦

山中現《冬の日》木版画,和紙 30.5 x 22.5cm 1998 photo: 斎藤新

山中現《冬の日》
木版画,和紙 30.5 x 22.5cm 1998
photo: 斎藤新

大平弘《Untitled 2003-04》檜,彩色 44.0 x 12.0 x 11.5cm 2003 photo: 早川宏一

大平弘《Untitled 2003-04》
檜,彩色 44.0 x 12.0 x 11.5cm 2003
photo: 早川宏一

地面から養分を吸い上げ、太陽に向かって枝葉を伸ばし、落葉によって再び大地に還っていく樹木の姿からは、自然の大きな循環を感じずにはいられません。本展第一室に展示した磯見輝夫の木版画の人物像には大地といまだつながっているかのような印象を受けますが、それは人と自然が不可分だった遠い日の記憶が私たちの奥底で受け継がれているためかもしれません。身を横たえた女性の黒々とした姿は、そばを流れる水の表現との対比も相まって、まるで大地から生み出されたばかりのようです。隣り合う保田井智之の、荒削りの台座から立ち上るような女性像とともに、人と自然の分かちがたいつながりを意識させます。

 

柿崎兆の木版画では、水は流動性より水平を強調され、防波堤や水門といった人工の構造物の垂直線とともに画面にグラフィカルなリズムを与えています。しかしどの作品にも共通しているのが画面にただよう穏やかさです。鑿跡(のみあと)をほとんど感じさせない平面的な画面は、彩度の低い絵具が版木から紙に写される際のかすれによってわずかな表情を得て、幾何学的な画面にぬくもりを感じさせます。

 

ふたつの展示室を結ぶコリドールには、木口木版の林孝彦と柄澤齊の作品が並びます。通常木版画とは、木を縦に切った版木をもちいる板目木版を指しますが、木口木版は木を輪切りにした面を版材とする技法で、硬い木口面と銅版画に使われる刃物・ビュランを使うことで細密な線を彫り出せるのが特長です。林の連作「カムイユカラ」はアイヌ神謡、柄澤は宗教や歴史、文学から採られたテーマにもとづく作品ですが、極小の世界に無限の宇宙が広がるかのような画面は木口木版ならではのあじわいでしょう。

 

第二室には、浮世絵の流れを汲む黒崎彰の連作をまとめて展示しました。なかでも「近江八景」のシリーズは、歌川広重の著名な錦絵をはじめ多くの浮世絵師や画家によって採り上げられてきたこの主題に、戦時中の少年時代を近江に過ごした黒崎が長年の夢として挑んだ作品です。室町後期、公家の近衛政家が近江に滞在して詠んだとされる和歌八首は、琵琶湖湖南地方の自然の描写であるとともに、人々の生活や文化を織り込んだものでもありました。幼い日々を当地で過ごした黒崎にとって「近江八景」への挑戦は、自身の来し方、行く道を探る旅であったといえるでしょう。

 

展示の最後は、木の持つおおらかさをテーマに構成しました。大平弘の小さな彫刻は檜をカッターナイフで削って作られますが、その曲線や角度は手のひらで感触を確かめながら決めるといいます。グラフィックデザインの仕事の一方で行う大平の木彫の作品には、素材と親密な対話を重ねた末に生まれたかたちの初々しさ、いとおしさが満ちています。山中現、中西静香、服部知佳の一連の小品に見られるやわらかな表情は、それが絵筆で紙に直接置かれるのではなく、版木の木理(きめ)を介すというプロセスが生む、作家の「委ねる瞬間」がつくりだすものなのかもしれません。

 

木に向き合って作品をつくることとは、植物の生命を受け止め、作品としての新たな生命へつないでいくということです。自然の理(ことわり)と人間の創造力をこの上ない均衡で具現化させること、それが木を前にした作家の使命なのです。

 
ギャラリー展示風景 ギャラリー展示風景
ギャラリー展示風景 ギャラリー展示風景
展示風景

■インフォメーション

会場:ギャラリー3&4(東京オペラシティ アートギャラリー 4F)
2015年1月17日[土]─ 3月29日[日]
開館時間:11:00 ─ 19:00(金・土は11:00 ─ 20:00/いずれも最終入場は閉館30分前まで)


休館日:月曜日、2月8日[日](全館休館日)
収蔵品展入場料:200円
(企画展「スイスデザイン展」のチケットでもご覧いただけます)

 

主催:公益財団法人 東京オペラシティ文化財団
協賛:日本生命保険相互会社

 

お問い合わせ:03-5777-8600(ハローダイヤル)