プロジェクトN

project N 55 大田黒衣美 OTAGURO Emi 2014.1.18[土]─ 3.30[日]
《Star Tales −white floating III》水彩,アクリル絵具,雁皮紙 サイズ可変 2013
《ある日の混乱 -ひげを剃る,口紅を塗る-》
鶉の卵,ワックスペーパー,包装紙
18.5 × 14.5 cm
2011
photo: WAKABAYASHI Hayato
courtesy of KAYOKOYUKI
直感と衝動の画材

《ある日の混乱 ‐ひげを剃る,口紅を塗る‐》という奇妙なタイトルがついた作品があります。作者の大田黒衣美によると、ある朝会社に行こうと身支度をしていたら、自分が口紅を塗るのか、それとも髭を剃るのか、わからなくなってしまった人間を表現したものだといいます。この人物の表現に使われているのは、絵具ではなく、ウズラの卵の殻です。髪や眉の表現には殻の黒い部分がもちいられ、身体には淡い褐色の部分、大きな唇には濃い茶褐色の部分、髭を剃った顔には白い殻がそれぞれコラージュされています。

あまり知られてはいませんが、同じウズラが産む卵は必ず同じ模様になるそうです。野鳥のウズラは草むらの根元や地面に枯れ草を敷いて産卵する習性があり、茶褐色と白の独特なまだら模様は、卵を外敵から守る保護色の役目を果たしているのです。 大田黒衣美はこの卵の保護色を、「個々のウズラが外界を描いた風景画」だと解釈します。そのうえで、この「風景画」をバラバラにし、新たなイメージを描く素材として扱っています。色の濃淡によって使い分けられた卵の殻は、絵具の代用品といえるでしょう。
《Star Tales −bone constellation II》雁皮紙,膠,ワイヤー,針金,釣糸 サイズ可変 2013

《自分の影を探す鷹とその影で休む鶏》
黒画用紙, 石膏, 糊
82.0×89.5cm 2013
photo: 浅井雅弘
courtesy of KAYOKOYUKI

ウズラの卵のほかにも、大田黒衣美は、チューイングガム、石膏、ビニールシート、トタン板、テーブルクロスなど、絵画の素材としては一般的でないものが好んでもちいます。こうした雑多な素材は、作品の即興性や偶然性を強く印象づけるものです。けれども、素材の選択がたんなる即興や偶然でないことは、ウズラの卵に関する彼女の解釈からも明らかでしょう。素材について作家は、「時間を経ても本質的な価値が変わらない、ある種無機質な物達の存在には、ウズラの卵の模様にも感じるような逞しい包容力がある」と語っています。ありふれた日常の量産品こそが、彼女の想念が生み出すきわめて直感的で、曖昧模糊とした情況を形象化するための最良の画材、支持体になっているのです。

誤解を怖れずにいえば、日常の量産品をもちいて大田黒が表現しようとするのは、理性や感情が支配するイメージの世界ではなく、明瞭な意識や感覚に分化する以前の初発的な知覚や思念の世界です。たとえば、《自分の影を探す鷹とその影で休む鶏》という作品は、飛翔中にふと自分の肉体が存在するのか不安になった鷹が、それを確かめるために自分の影を探すと、自分の影の中で休息する鶏を見つけるという状況を絵画化したもので、作者はこう述べています。「鷹の影は今ある肉体の存在証明であり鷹に生きている安らぎを与える。そのため必死に探しているのだが、その影の中に、肉体を有した弱者が無防備な状態で休んでいるのを見つける、という状況」で、「影の中にいる鶏は鷹が求めていた安らぎを不安定にさせるもので、これを影探しに至ることになった衝動の先にある桃源郷へのトンネル的存在と考える。ここでの桃源郷とは、個人の中の見えない先に進むための見当という解釈である」。

《Star Tales −Greek Myths》ミクストメディア 85.0 x 85.0 x 104.0 cm 2010

《sun bath》
ガム, ボール紙
gum, cardboard
(上)16.0×16.0 cm (中)24.0×4.0 cm (下)15.5×7.0 cm
2013
photo: 浅井雅弘
courtesy of KAYOKOYUKI

日常のなかに突発的に訪れる束の間の錯乱、正気と狂気の狭間で突発的に起こる説明しがたい出来事が、彼女の作品に共通するテーマとなっています。大田黒衣美は、曖昧な意識の不安定、周囲の状況に馴化する以前の居心地の悪さをともなう精神の未分化状態など、日常に潜む名状しがたい人間の精神のありようを、奇想天外なモティーフの組合せや情況設定、あるいは神話や昔話の登場人物に仮託しながら、誰も使ったことがない画材を駆使して具現化させようとしているのです。



ギャラリー展示風景 ギャラリー展示風景
ギャラリー展示風景 ギャラリー展示風景
展示風景

大田黒衣美 OTAGURO Emi
1980 福岡県生まれ
2005 東京造形大学造形学部美術学科絵画科専攻概念表現研究課程卒業
2008 東京藝術大学大学院修士課程油画科修了
2008 アートアワードトーキョー2008グランプリ
現在, 愛知県在住
   
個展
2013 「不知火の水まくら」, 青山|目黒, 東京[企画: KAYOKOYUKI]
   
主なグループ展
2004 「KOSHIKI ARTPROJECT」, 甑島, 鹿児島
2006 「WORM HOLE episode3」, magical ARTROOM, 東京
2008 「アートアワードトーキョー2008」, 丸の内行幸地下ギャラリー, 東京
2009 「Mr FREEDOM X」, 南千住アプリュス, 東京
2010 「四式」, 遊工房アートスペース, 東京
2011 「SLASH/03‐Naivery Manners‐」, island MEDIUM, 東京
2012 「採光‐let in light‐」, 新宿眼科画廊, 東京[企画: KAYOKOYUKI]
「オテル・アパラチア」, TALION GALLERY, 東京
2013 「大庭大介キュレーション"TRICK-DIMENSION"」, TOLOT/heuristic SHINONOME, 東京


■インフォメーション

会場:東京オペラシティ アートギャラリー 4Fコリドール
期間:2014.1.18[土] ─ 3.30[日]
開館時間:11:00 ─ 19:00(金・土は11:00 ─ 20:00/いずれも最終入場は閉館30分前まで)

休館日 :月曜日(祝日の場合は翌火曜日)
入場料:企画展「さわ ひらき Under the Box, Beyond the Bounds」、収蔵品展「絵の中の動物たち」の入場料に含まれます。

主催:公益財団法人 東京オペラシティ文化財団

お問い合わせ:03-5777-8600(ハローダイヤル)