収蔵品展047 絵の中の動物たち 2014.1.18[土]─ 3.30[日] 竹内浩一《遠ざかる音》顔料,紙 182.0 x 215.5cm,1987 photo: 斉藤新
竹内浩一
《遠ざかる音》
顔料,紙 182.0 x 215.5cm,1987
photo: 斉藤新

絵の中の動物たち

飼い犬でも、近所の猫でもいいでしょう。かれらにも知性や思考があり、しかもわたくしたちが見聞きできない世界を感受しているはずだと考えると、その不思議さに吸い込まれそうになることがあります。あるいは、動物にじっと見つめられる体験。なにかこの世ならぬ、別の世界から覗き込まれているような気がして、やはりその神秘に吸い込まれそうになることはないでしょうか・・・。こうした体験は、動物が、われわれ人間にとって、身近でもあり、そして非常に遠く隔たった存在でもあることを告げています。これは太古からおそらく変わらぬことであり、そうした動物たちを、人間はさまざまな文脈や目的で描いてきました。つまり呪術的な文脈において、あるいは神話や宗教における象徴や寓意の担い手として、また観察や鑑賞の対象として、人生における大切な伴侶として・・・。現代の美術家たちも、それらさまざまな伝統を踏まえつつ、より自由に自らの想像力を羽ばたかせたり、あるいはより今日的な視点にたったりして、動物のモチーフに取り組んでいます。
本展は、寺田コレクションの作品を通して、現代における動物イメージの多様な魅力の一端を紹介します。

吉岡正人《遠い夜明け》油彩,テンペラ,板 145.5 x 112.1cm,1991 photo: 斉藤新

吉岡正人
《遠い夜明け》
油彩,テンペラ,板 145.5 x 112.1cm,1991
photo: 斉藤新

西洋の古典技法を駆使する吉岡正人、筧本生の作品に登場する犬は、人間の良き伴侶として、基本的に忠実・従順な生きものとして描かれています。それは、犬の図像を忠誠心の象徴として描く西洋絵画の伝統に則した表現といえます。もちろん、肖像画的な象徴性の強い吉岡作品の犬と比べて、風俗画の色彩が濃厚な筧作品の犬には、一種の卑屈さや、いやらしさを見出すことも可能でしょう。犬は、その従順さ、勤勉さを讃え、愛でられる一方、その卑屈さを蔑まれ、ときに否定的な評価も与えられてきたのであり、こうした微妙な二面性もまた、伝統的なものといえます。
動物園のゴリラを描く相笠昌義の作品には、現代社会における人間に対するアイロニーが漂っています。しかしそこにある種の暖かいユーモアも感じられるのは、「人間にしか興味がない」と言い切る相笠の、本質において健康的な眼差しゆえでしょう。
小林裕児の作品に登場する異形の鳥、ないし鳥人間たちは、擬人化された動物たちが動きまわる寓話の世界を思わせると同時に、人間の無意識の世界を探ろうとした20世紀のシュルレアリスムとの類縁性も感じさせます。
人気のない館の内外を徘徊するキリンやペリカンなどを描く川口起美雄の作品は、通常の合理的な思考では説明できない脈絡で対象を描く「デペイズマン」の手法によっており、より明白にシュルレアリスム的といってよいでしょう。動物たちは、もはやいかなる擬人化の要素もまとわず、ただ徹底して「他者」として登場することで、人間の無意識を喚起する戦慄的イメージを生み出しています。
蓜島伸彦は、動物のシルエットをスタンプのように反復させて絵画作品を制作します。さまざまな意味づけから解き放たれたかのような輪郭だけの平面的な表現からは、動物がもつ佇まいや様相がかえってリアルに伝わってくるのは不思議です。なかば機械的な反復をとおして「個体」や「群れ」といった認識の起源を問うているのも、極めて現代的な試みといえます。

西野陽一《飛行家族》岩絵具,雲母,和紙 180.0 x 366.0cm,2006 photo: 早川宏一

西野陽一
《飛行家族》
岩絵具,雲母,和紙 180.0 x 366.0cm,2006
photo: 早川宏一

日本では、大陸の影響下に、草木とともに鳥や小獣を美しく愛すべきものとして描く「花鳥画」の長い伝統がありますが、江戸中期には円山応挙がでて「写生」にもとづく清新な動物の描写を行い、単なる花鳥画をこえた真に動物画というべき表現を確立しました。また文人画においては、作者の内面を投影する精神性豊かな動物表現の系譜も存在します。
須田国太郎の描く鷲には、研究者から転じて画家となり孤高の道を歩んだ作者自身の姿が重ねられているようです。その内面的な気概、気骨の表現は、文人画の伝統を思わさずにはおきません。
竹内浩一は、応挙以来の写生の伝統が息づく京都の地で、独自の動物画を探求しています。《遠ざかる音》は、日本在来種である野間馬の姿を描いています。背景や奥行きを大胆に省略して描く対象を強調し、それがかえって空間的な拡がりの暗示につながっています。馬の仕草や表情には一種の擬人化の要素が見てとれるものの、動物に人間の内面や感情を単に一方的に投影するような従来のそれとは異なる次元に達しています。竹内の作品では、目の前に息づく素朴な生命のあり方に対する作者の関心や共感の深さが、克明かつ精気あふれる写生を通して、微妙な息づかいとともに伝わってくるのです。
西野陽一の《飛行家族》は、大徳寺に伝わる牧谿(もっけい)筆《観音猿鶴図》以来、描きつがれてきたテナガザルのモチーフを取りあげています。牧谿の禅の精神につながる幽玄な世界に対して、西野は、密林の秘境でみずから重ねた観察を生かして、大胆に抽象化した背景のうえに、軽快でユーモラスな運動のリズムを表現し、日本画による動物表現の新たな可能性をかいま見せています。


ギャラリー展示風景 ギャラリー展示風景
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展示風景

■インフォメーション

会場:ギャラリー3&4(東京オペラシティ アートギャラリー 4F)
期間:2014.1.18[土]─ 3.30[日]
開館時間:11:00 ─ 19:00(金・土は11:00 ─ 20:00/いずれも最終入場は閉館30分前まで)

休館日:月曜日、2月9日[日](全館休館日)
収蔵品展入場料:200円
(企画展「さわ ひらき Under the Box, Beyond the Bounds」のチケットでもご覧いただけます)

主催:公益財団法人 東京オペラシティ文化財団
協賛:日本生命保険相互会社

お問い合わせ:03-5777-8600(ハローダイヤル)