プロジェクトN

project N 53 池平徹兵 IKEHILA Teppei 2013.7.13[土]─ 9.23[月・祝]
《始まりの終わり》
油彩,キャンバス
162.0 x 162.0cm 2013
photo: HAYAKAWA Koichi
《始まりの終わり》 油彩,キャンバス 162.0 x 162.0cm 2013 photo: HAYAKAWA Koichi
信頼は自信から生まれ、奇跡をつくる ─ 池平徹兵の制作について

ここにある画家がいるとします。画家の前にはまっさらなキャンバスがありますが、なにをどのように描くか、といった計画はなにもありません。しかしその画家には、毎日ひとつずつ荷物が送られてきます。ときにはびっくりするようなものが届くこともありますが、画家はけっして拒否することなく荷物を受け取り、それを日々キャンバスに描き込んでいきます。そうして最後の日までスケッチブックの1ページ目を描き始めるような気持ちで描き続けることができたら、その画家にとってとてもよい作品が完成します。

池平徹兵は、信じて描くことができる作家です。彼に毎日届けられる荷物とは、彼が朝起きてその日に描きたいと思ったもので、いわばインスピレーションの宅配便です。明日は今日のことなどお構いなしに、まったく異なるものが送られてきます。それでも池平は「今日描きたい」と思ったもの、すなわちその日届けられた荷物だけを、キャンバスの上にひたすら描いていきます。画面上ではイソギンチャクの隣でゼラニウムが咲き、海の底には街が広がり、イカと気球が海底とも空ともつかぬ同じ空間に漂っている、といった具合に、それぞれが現実にはありえない配置で存在していますが、すべては池平がその日本当に描きたいと思ったものばかりで、画面構成のために選ばれたものはひとつもありません。
モチーフ選びを意識下に任せ、意外なもの同士が画面上で組み合わされるといった点は、バランスを考えて全体を構成した上で描き始めるおおよその絵画制作のプロセスからはかけ離れており、超現実主義(シュルレアリスム)の自動記述(オートマティスム)やデペイズマンといった手法を思い起こさせるものです。しかし、超現実主義者(シュルレアリスト)たちがこうした方法で無意識の表現や意識の関与しない作品の制作を目指したのに対して、池平の意図は明らかに異なります。なぜなら、池平は「宅配便」の送り主がほかでもない自分自身であることを知っていて、そのことに自覚的な日常を送っているからです。今日彼が見たり聞いたりしたものはすべて、未来の自分にとても大事な荷物として届く可能性を秘めていますが、それを実際に送り出せるかどうかは今日の自分がそれらをいかに純粋に感じることができたかにかかっています。たとえ目の前のものがごくありふれたものだったとしても、自分の見方、感じ方次第でそれは輝きを放ち始め、その輝きが強いほど、時間を超えてある日の自分へと送られていくのです。

《恋する絵画》 油彩,キャンバス 162.0 x 162.0cm 2013 photo: HAYAKAWA Koichi

《恋する絵画》
油彩,キャンバス
162.0 x 162.0cm 2013
photo: HAYAKAWA Koichi

送られてきた荷物は、ときに池平を困らせることもあります。せっかくまとまり始めた画面を一撃で壊してしまいそうなものがやって来ても、それを拒否することはせず、なんとか画面の中にふさわしい場所を探し出して描き込みます。その積み重ねは、一見困ったものが届いたとしても必ず自分の絵にすることができるという自信を育み、明日届くはずの荷物に対して自身をさらに開いていきます。また、この自信は本人発着の荷物に対してのみならず、他者との協働においても池平を大きく解放させています。パリ在住の作家ブリアンデ・カナエとともにOFFICE BACTERIAの名で行うアクセサリーの制作は、一方のパーツで作った原形を相手に送ると、相手は自分の作ったパーツを加えて送り返してくる、という繰り返しで完成させる連歌的な作品ですが、相手からの予測不可能な投げかけをリスペクトしつつ、自分のオリジナリティを加えて返礼するこの制作自体も、「どんなものも作品にできるようにする」ことの訓練になっているといいます。
こうした制作は長年関係を築いてきた人との間こそのものと思われがちですが、池平の場合、たとえほんの短い時間であっても信頼は生まれ、奇跡をつくりあげることができると信じています。2012年に行ったワークショップ《こいのぼり》は、原発事故によってこいのぼりを揚げられなくなった子供たちに、子供本来の姿を返すためのプロジェクトとして行われました。このワークショップは、参加者それぞれが描いた絵をこいのぼりのうろことして貼り付けていくという内容でしたが、作業の冒頭、子供たちに池平はこう言いました。「今日、僕は本気ですばらしい作品をつくりたい。だからあなたたちに、遊びではなく真剣な仕事として僕に全力の力を貸してほしい」。大きな画用紙に描かれた絵の中から池平が「ここ」と思った場所を切り取らせてもらったのは、最初からうろこ型になった紙の上では表現に自制が働いてしまうことを避けるためでしたが、子供たちの「本気」を作品のために切り抜くという行為は、動物の命を生きるための食料としてもらう行為と同様のこととして池平に重く響いたに違いありません。しかしその姿勢は子供たちに「本気で必要とされている」ことを感じさせ、描いた作品を持ち帰ること以上のなにかを与えたはずです。「犠牲」になってくれた絵に恥じない作品にするために、池平はこいのぼりの余白に自らの絵を真剣に描いて作品を仕上げました。そのこいのぼりはいくつかの展覧会で展示され、それを子供が見に来ることで本当の完成とされました。

自身の感覚を研ぎ澄ませること、その感覚のもとに今日を生きること、自分と他者のすべてを肯定できる自信をつけること。この繰り返しの鍛錬によって、池平はこれまで毎日荷物の到着を信じることができ、実際に受け取ってきました。明日はどんな荷物が届くだろう。その期待に胸がふくらむから、今日キャンバスのすべてを決めてしまうことはできないのです。


《こいのぼり》展示風景 2012 島根県立美術館 ギャラリー

《こいのぼり》展示風景
2012
島根県立美術館 ギャラリー

《2011年の沈黙》 油彩,キャンバス 145.5 x 145.5cm 2011

《2011年の沈黙》
油彩,キャンバス
145.5 x 145.5cm 2011



ギャラリー展示風景 ギャラリー展示風景
ギャラリー展示風景 ギャラリー展示風景
展示風景

池平徹兵 IKEHILA Teppei
1978 福岡県生まれ
2001 島根大学教育学部学校教育教員養成課程保健体育専修卒業
2013 第16回岡本太郎現代芸術賞入選
現在, 東京都在住
   
主な個展
2000 「Blue Earth」,島根県立美術館 ギャラリー(01, 03, 06, 09, 12)
2007 「翼の貯蔵庫」,HIGURE 17-15 cas,東京
2011 「OFFICE BACTERIA 宇宙」,東京大学医科学研究所 近代医科学記念館
「OFFICE BACTERIA 宇宙/惑星」,Gallery Conceal,東京
2012 「その空の向こう側への旅行記」,北区立桐ヶ丘やまぶき荘,東京
   
主なグループ展
2005 「SICF6」,スパイラルホール,東京
2009 「Creators Exhibition white vol.4 one.」,ラフォーレミュージアム原宿,東京
2011 「エマージング・ディレクターズ・アートフェア ULTRA 004」,スパイラルガーデン,東京
2013 「第16回岡本太郎現代芸術賞展」,川崎市岡本太郎美術館,神奈川
   
ワークショップ,パブリックプロジェクト等
2006 壁画制作,はすとばら,東京
2007 壁画制作,IGL高齢者複合施設西風新都,広島
壁画制作,サムエル西条保育園,広島
2012 「こいのぼり」,立川市市民会館/グランデュオ立川店,東京
ポスター,「Biofilms 5 International Conference」,パリ
壁画制作,ステッキのチャップリン大丸東京店


■インフォメーション

会場:東京オペラシティ アートギャラリー 4Fコリドール
期間:2013.7.13[土]─ 9.23[月・祝]
開館時間:11:00 ─ 19:00(金・土は11:00 ─ 20:00/いずれも最終入場は閉館30分前まで)

休館日 :月曜日(祝日の場合は翌火曜日)、8月4日[日](全館休館日)
入場料:企画展「アートがあれば II ─ 9人のコレクターによる個人コレクションの場合」、収蔵品展「色について」の入場料に含まれます。

主催:公益財団法人 東京オペラシティ文化財団

お問い合わせ:03-5777-8600(ハローダイヤル)