収蔵品展042 やさしさの気配 2012.10.3[水] ─ 12.24[月・祝] 有元利夫《花火のある部屋》ミクストメディア,キャンバス 116.5 x 73.0cm, 1979
有元利夫《花火のある部屋》
ミクストメディア,キャンバス
116.5 x 73.0cm, 1979



寺田コレクションは、寺田小太郎氏という一収集家による個人コレクションですが、3000点を超すそれは、東京オペラシティビルの建設にあたり、先祖代々の家名を初台の地に残すことを一つの目的として買い集められたものです。つまり、コレクションの前提に美術館での展示が念頭におかれていたことになります。もっとも、実際のコレクションには大作も少なくないものの、一般的には美術館が収集の対象としないような、比較的小ぶりな作品がかなり多く含まれています。また、その作風も、強烈な個性や崇高さを放つものよりも、全体としては、落ち着いた、親しみやすい穏やかな印象のものが大半を占めています。 美術の歴史に登場した穏健、温厚な作風をあらわす言葉として、「ナイーヴ・アート(naïve art)」や「アンティミスト(intimiste)」がすぐに思い浮かびます。前者は、素朴派とも呼ばれ、正規の絵画教育を受けていない、素人(アマチュア)画家を指す言葉です。技術的には稚拙ながらも対象を忠実に再現することを目指し、前衛性や革新性への意欲はほとんど希薄ですが、素朴派の代表的な画家アンリ・ルソーのように、結果的に幻想性を示すこともあります。後者は、ピエール・ボナール、エドゥアール・ヴュイヤールら、好んで室内の情景を描き、そこにぬくもりのある親密な情感を表現した画家たちを指し示す言葉です。彼らは、家族や親しい友人、ごく日常的な生活の情景の一こまを、温かみあふれる色彩と光によって描き出し、親密感(アンティミテ)に満ちた作品を制作しました。印象や雰囲気には確かに近似するものがありますが、今回紹介する作家たちはいずれも正規の教育を受けた美術家で、また、作品もとくに室内の情景のみを表現しているわけではありません。作品から醸し出される、素朴さ、親密さ、繊細さが混然一体となったような不思議な気配。この「やさしさの気配」は、一体どこからもたらされるのでしょうか。

河原朝生《室内 I:夏の終わり》油彩,キャンバス 81.0 x 100.0cm, 1998

河原朝生《室内 I:夏の終わり》
油彩,キャンバス
81.0 x 100.0cm, 1998

小杉小二郎と河原朝生の二人の作風にはどこか似通った雰囲気が感じられます。屋内、屋外の違いはあるものの、ともに風景を描き、また、静物画を得意としています。画中に人物が描かれることは稀で、たとえ描かれていても、それはまるで人形かたんなるシルエットのようで、表現は単純化されています。風景にしろ静物にしろ、余剰なものを極力削ぎ落とし、簡潔な造形のなかに独自の詩情ただよう小宇宙を表出させようとしています。しいていえば、小杉の場合は静物画において、河原は室内風景において、そうした志向がより顕著な効果を発揮しているように思われます。 単純化や簡略化は、稚拙さや素朴さとも相通じるものがあります。たとえば、有元利夫は、よく知られているように、ピエロ・デッラ・フランチェスカやジョット、あるいは日本の仏像などからインスピレーションを受け、稚拙さや素朴さを彼独自の様式美にまで昇華させました。女神を連想させる女性像を描き続けた有元利夫に対して、奈良美智は何とも形容しがたい、独特な表情をした子どもをモティーフに、独自の世界をつくり出しています。

山根 隆《オアシスを行く旅人》油彩,キャンバス 45.5 x 53.0cm, 1982

山根 隆《オアシスを行く旅人》
油彩,キャンバス
45.5 x 53.0cm, 1982

子どもや愛らしい動物などの描写が、作品に「やさしさ」をもたらすという側面はあるでしょう。もっとも、モティーフのいかんにかかわらず、その描写や表現方法によって、画面に「やさしさ」が生まれることもあります。そう考えさせるのは、相笠昌義の作品です。相笠が描く人物はいずれも、まるで上から圧迫されたような、鈍重な姿にデフォルメされています。とくに2000年頃までのニューヨークや東京などの都市風景を描いた作品では、その特異な人物表現の効果から、そこで暮らす人々の閉塞感や疎外感が強く感じられました。しかし、同様にデフォルメした人物を描きながらも、メキシコの子どもたちを描く作品や近年の作品には、そうしたシニカルな印象はまったく感じられず、画面には温かさややさしさが滲み出ています。おそらくそれは、描かれた対象自体によるものというよりも、対象に注がれた作者の眼差しによるものに違いありません。 このように「やさしさの気配」というキーワードを手がかりに、個々の作家のスタイルや、作品におけるイメージや色彩の働きに思いを馳せながら、ジャンルも経歴も異なる作家たちの作品を一堂に味わうことができるのも、個人コレクションならではの愉悦といえるでしょう。

ギャラリー展示風景 ギャラリー展示風景
ギャラリー展示風景 ギャラリー展示風景
展示風景

■インフォメーション

会場:ギャラリー3&4(東京オペラシティ アートギャラリー 4F)
期間:2012.10.3[水] ─ 12.24[月・祝]
開館時間:11:00 ─ 19:00(金・土は11:00 ─ 20:00/いずれも最終入場は閉館30分前まで)

休館日:月曜日(祝日の場合は翌火曜日)
収蔵品展入場料:200円(企画展「篠山紀信展 写真力 THE PEOPLE by KISHIN」のチケットでもご覧いただけます)

主催:公益財団法人 東京オペラシティ文化財団
協賛:ジャパンリアルエステイト投資法人、NTT都市開発株式会社
協力:相互物産株式会社

お問い合わせ:東京オペラシティアートギャラリー Tel. 03-5353-0756