プロジェクトN

project N 39 住田大輔 SUMITA Daisuke
2009.10.17[土] ─ 12.27[日]]
《Sleepers, wake, the voice is calling》 油彩、キャンバス、130.3x130.3cm、2009年 Photograph: KEI OKANO Courtesy: TEZEN
《Sleepers, wake, the voice is calling》
油彩、キャンバス、130.3x130.3cm、2009年
Photograph: KEI OKANO
Courtesy: TEZEN
 
ことばとイメージのあいだ

住田大輔の油彩画は、平面的な情景描写と量感的とはいい難い人物などによって構成されています。例えば、新作《The things I have seen I now can see no more #1》では、地平線が画面上部に描かれ、画面の大部分を占める湖面の情景は壁のようにみえます。《Sleepers, wake, the voice is calling》では、少女は草むらに身体を投げ出し、顔をつねっています。少女の皮膚は、柔らかなゴムであるかのようです。その皮膚感覚はアニメーションやCGなどのそれに近いように感じられるのでないでしょうか。

住田の作品には一見、明るい色彩と艶がありますが、燃える森や建物、不安げな表情をする子供たちなど、不穏さをかき立てるモチーフがしばしば描かれています。映画のワンシーンや小説の断片であるかのような情景には、この不穏さの原因が描かれることはありません。イギリスロマン主義の詩人ワーズワースによる詩などからとられた作品タイトルは、作品の意味を暗示するだけで、不可解さをよりかき立てます。この捉え難さによって彼の油彩画は、独特の浮遊感を帯びるようになります。彼の作品は一見終末的な情景でありながらも、破滅的な意味合いのみに満たされているわけではないのです。

《Shut myself in》 油彩、キャンバス、100.0x100.0cm、2009年 Photograph: KEI OKANO Courtesy: TEZEN
《Shut myself in》
油彩、キャンバス、100.0x100.0cm、2009年
Photograph: KEI OKANO
Courtesy: TEZEN

例えば《Shut myself in》において足に包帯を巻かれている羊は、確かに不吉な印象を与えるかもしれません。羊は少女の懐に収まり、いかにも弱々しくみえます。反面、羊は少女に大事そうに抱かれ、守られてもいます。一方羊を守る少女もまた、まるで不安に怯えているかのように羊を抱いています。彼女もまた、羊の温もりを頼りに何らかの受難から逃れようとしているかのようです。このように羊と少女の意味や関係性は、一方通行的なものではなく、持ちつ持たれつの関係をみせています。

彼の作品においてあるひとつの情景やモチーフは常に両義的な意味を持ち, かつそれは別のものと組み合わされることで、いかようにも意味が変化するように感じられます。画面全体は私たちにひとつの明確な意味を与えてくれません。そのため彼の絵画には、個々のモチーフは、明瞭に描かれているにもかかわらず、画面全体について理性や言葉によって明確に把握したり、説明したりすることができません。この説明のつかなさこそ、まさに見る人に不穏さをかき立てる源のひとつといえるでしょう。

それでも彼の作品が持つ独特の浮遊感は、それだけで生じるものではありません。そこで彼の水彩画をみてみましょう。水彩画は彼が毎晩、絵はがき大のケント紙に描いているものです。いかにも習作らしく、同じような構図やモチーフの作品が繰り返されています。住田はこの水彩画を習作と認識し, それを元に本作として油彩画にとりかかるのだといいます。

水彩画のイメージの源泉は、巨匠たちによる絵画、映画、インターネットの画像など、何らかの形で彼の心をとらえたものだといいます。まさに水彩画は彼にとって見本を基にして描く行為、いわば「手習い」的なのでしょう。けれどもここでいう「手習い」とは、名画や名シーンを克明に「なぞる」ことを意味しません。むしろ彼の水彩画制作は既存のイメージの色彩を変えたり、モチーフの組み合わせを組み替えたりしながらその効果を推し量るもの、いわば実験的なものだといえましょう。この過程の中で彼の水彩画は、次第に参照元としたイメージから遠ざかっていきます。そして水彩画の制作を経て完成された油彩画は、それ故にどこかでみたことのあるものの、今までみたことのないイメージとなって我々の前に現れます。彼の作品が醸し出す独特の浮遊感や捉え難さは、こうした制作過程のなせる業かもしれません。

住田大輔が本格的に油彩画を描き始めたのはきわめて最近のことです。現役で武蔵野美術大学の油絵科に進学し、2008年3月に大学を卒業した彼は、大学3年生くらいまで学校の提出用くらいにしか絵画を描いてこなかったそうです。その間、彼は演劇やマンスフィールドやサリンジャーなどの英米文学に親しみ、脚本や小説に書いていたといいます。にもかかわらず、彼の絵画には言葉では形容のしがたい才能の予感が感じられはしないでしょうか。彼の作品の不穏さとは、いまだ底しれない彼自身の可能性の故でもあるにちがいないでしょう。

展示風景 展示風景
  展示風景

住田大輔 SUMITA Daisuke
1985 埼玉県生まれ
2008 武蔵野美術大学造形学部油絵学科卒業
現在,埼玉県在住
   
グループ展
2006 「光への憧れ。」,人形町Vision's,東京
2007 「光達の戯れ。」,Gallery 銀座フォレスト,東京
2008 「アートアワードトーキョー」,丸の内行幸地下ギャラリー,東京
   
■インフォメーション

会場:東京オペラシティ アートギャラリー 4Fコリドール
期間:2009.10.17[土] ─ 12.27[日]
開館時間:11:00 ─ 19:00(金・土は11:00 ─ 20:00/いずれも最終入場は閉館30分前まで)

休館日 :月曜日(ただし祝日の場合は翌火曜日)
入場料 :企画展「ヴェルナー・パントン展」の入場料に含まれます。

主催:財団法人東京オペラシティ文化財団

お問い合わせ:東京オペラシティアートギャラリー Tel. 03-5353-0756