6+ ANTWERP FASHION アントワープ・ファッション展

オープニングトーク「アントワープを語る」

質疑応答

堀:どうもありがとうございました。時間が押してしまっていますが、会場の皆さんのなかでこの機会に、今日お集まりいただいた方々に何かお聞きしたいということあるかと思いますので、時間が許す限りで質問をお受けしたいと思います。ご質問のある方、手を挙げていただけますでしょうか?

質問者1:アントワープで学んだ三人のデザイナーの方に、伺いたいのですが、先程そのカリキュラムの中で一番重視されたのが、自分らしさというものをどう見つけるか、というお話だったと思うのですけれども、在学中に、たぶんいろいろ変化してこられたと思うのですが、自分らしさというのはどういう風に、見つけられて、具体的にはどういう風にそれを形にしていくことができたかというかということについて、少し教えて頂ければと思います。よろしくお願いします。

坂部:はい。人それぞれ当然自分らしさの見つけ方は違うと思うのですけど、学校の授業の中で、まず一年生のうちに、まず自分というものをどう見つけるかみたいなのをすごく集中してやるのですね。テーマとしては、皆同じシーチングを使ってスカートを作りなさいという授業が一つありまして、自分らしいスカート、自分で思うスカートは何かというっていうことを見つけなさい、というすごくシンプルな、スカートとは何かっていう課題を与えられて、何かその中で明確に自分らしさを見つけていきなさいという風に言われるのです。だから、いろいろなコレクションをやるよりも、一個のすごく簡単なシンプルなテーマを皆同じものを作りつつ、その中で、ほんとに皆が見たことあるものを使って自分らしいものを見つけるっていう作業が一番印象にありますね。

中里:課題が沢山あるのですけれども、その都度テーマとかコンセプトを決めていくのですけれども、一年生の間には沢山、いろいろな課題が出て、その中で毎回テーマを決めていって、その中でテーマの選び方として、例えば自分の記憶とか、自分の育ってきた経過みたいなものを、テーマとして選んだりというのもあって、その中で自分を振り返って、そこから形にしていくという、イマジネーションや記憶だったり、そういう形のないものを、形にしていくという工程を、毎回先生と形を作っていくというような授業の中で、そういうことを、組み込んでいました。

中:お二人がお話ししたことと同じようなことなのですけれども、ファッションの概念を外す、特に一年の、自由な中で出す自分らしさというのもあると思うのですけど、二年になるともう全く、今度は違う角度からのアプローチが始まりますので、今度はファッションの概念の中でどのように出すのか、次三年になると、アートのファッション以外のフィールドから、民族衣装もそうなのですけれども、アーティストからのイメージというものを自分がどう受け止めて、それを自分らしくどう表現するのかという、自分を表現する方法も、様々な枠の中でトレーニングすることで、それに少しずつ順応していくというトレーニングを受けていたのじゃないかと思います。

堀:他にどなたかご質問ある方。

質問者2:本日はありがとうございました。栗野さんにお伺いしたいのですけれども、先程ファッションはコンセプトだということをおっしゃっていた、ブリュロートさんの話でもコンセプトがあるから、ベルギーの方も日本の建築だとか、そういったものにもデザイナーのスピリットが詰まっているということをおっしゃっていたと思うのですけれども、自分の思想があって、ファッションを通してその奥にあるもの見る時に、そこがなぜファッションなのかというのを知りたくて、ファッションというかなぜ服という、人が着る物を通してそれを見るのかっていうのに興味があって、そこのファッションである必要性というか、必然性はあるのかということについてどうお考えなのかお聞きしたいです。

栗野:すごく良い質問であると同時に、答えるのに三日ぐらいかかりそうなのですけど、たった一つ言えるのは、これ結果論が一番良いと思うのです。つまりなぜそれがファッションじゃなきゃいけないのかという話ではなくて、じゃぁ、ファッションでやるっていうことはどうなのだろうということだと思うのですよ。つまり他の手段でも別に良いわけですよ、もちろん。たまたまファッションっていう手段でやった場合に、なぜ自分がファッションでやるのだろうって考えるよりは、ファッションっていう手段でやり始めちゃっていることを通して、もう一回なぜかっていうことをはっきりしていく。それは彼らがアントワープ・アカデミーで受けている教育と全く同じだと思うんですけど、リンダさんと10何年来の付き合いで、もう必ずおっしゃるのは、ダイアログ、インタビューというのが、全員、その生徒との対話、あなたは誰、あなたはどういう人で、どうしてファッションやりたいの、どうしてファッションで表現したいの?とどんどん掘り下げていくのですよ。だから、人によっては、今聞かれたような質問の結果、じゃファッションじゃなくても良いのかなと思ってむしろ辞めてしまう人も絶対いると思います。でもそこにあまりこだわりすぎると、そこまで突き詰めた人しかファッションやっちゃいけないという話になってしまうと思うのですね。それでそれは何かその禅問答みたいな、とても厳しすぎると思うので、それよりは、旅に出る時に、旅に出ながら発見するということの方が大事だと思っているのですよね。なぜ旅に出るかって考えて理由が見つかってから旅に出るようにすると、旅に出られなくなってしまう人いると思うんですよ、でも旅に出てしまえば、家から一歩出たとたんにモノが見えてきますから、僕がアントワープで学ぶ4年間というのは自己発見の旅だと思うのですけども、そもそもファッションということ自体が、これが似合うとか似合わないとか、自分は白が似合うのだとか、あるいは黒が似合うのだとか、自分はなんか四角い肩が似合うんだとか、そういうファッションを通じて自己発見をしていくことだと思うのですけども。おそらくはそれって着る前に悩まないですよね。まず着てしまうと思うんですよ。着てみたら、似合ったな、とか、着ていたら、それを着る自分がオリジナリティだと思うんです。おそらくファッションの面白さというのはそこにあるのだと思う。つまりすぐに関われるという。彫刻や絵画がいくら好きでも担いで歩けないですよね。頭に彫刻をのせて歩く人とか、体に絵画をまとって歩く人とか。ファッションの良いところはそのまま着られるということですよ。だから着られるものだということはもう既に半分答えになっているのではないかなと、僕なんかは思いますね。だから、三日かけて答えるよりは、この辺で答えにした方がお互いハッピーじゃないかなと。(笑)

堀:もう一名ぐらい、はい、では。

質問者3:本日はどうもありがとうございました。ビジネスという、ビジネスとクリエーションという面で、栗野さんとブリュロートさんにもちょっとお伺いしたいと思うのですが、ラフ・シモンスやマルジェラ、アン・ドゥムールメースターのオンリーショップが真っ先に日本でオープンするなど、日本の、アントワープのデザイナーに対しての日本のマーケットの影響は非常に強いと思います。その日本のマーケットがアントワープのデザイナーに対して、クリエーションやマインドにどんな影響を与えているのか、現時点での影響と、アントワープのアントワープ6が出た頃に、その当時与えた影響というのをブリュロートさんに聞きたいですし、現時点でどうなっているのかっていうのを栗野さんにも聞いてみたいと思いまして、あとは栗野さんに対して、その与える影響についての責任感みたいのを感じているのであれば、教えて頂きたいなと思います。

栗野:先に答えて良いですかね?と言うのは今日の二時間でね、その答えも全部出ていると思うのですよ。コンセプトを大事にするファッションであるということと、日本の人はコンセプチャルなものが好きだから、だからウケたと。だからアントワープ・ファッションは認められたということ、そのお店が日本にあるということは、つまり、あなたたちは認める人なのですよね、あなたたちは認めてくれているのですよね、だからお店もつくっていますよ、じゃ、そこで買ってくださいという相互関係が、具現化されたのだと思うのです。責任というのは、僕らは、良いのを紹介して買って頂くしかないし、皆さんにはできれば買い続けて頂きたいですけれども、たぶんラグジュアリー・ブランドとか、極端な例ラグジュアリー・ブランド、それからファスト・ファッション。さっきH&Mの話題が出ましたけど。ラグジュアリー・ブランドは、たぶん宣伝を一杯打って、その宣伝によって知名度が上がって、その有名なものを着ている満足感に近いと思うんですよ。でもおそらく、アントワープ・ファッションというのは、別に有名なものを着ているからということじゃなくて、その服が自分に対してどういう影響を与えるのかという、友だちみたいなもんですよ。友だちを紹介されてその友だちとじっくり付き合う楽しみみたいなものが、たぶんアントワープ・ファッションを享受する側の喜びだと思うし、僕らの責任感というのは、責任持って良い友だちを紹介しないと、なんか借金踏み倒したとかね、なんか自転車乗り逃げしたみたいなことあるかも知れないけど、まあ、そんなことはないけれども、そういう真面目なお友だちを紹介し続けるのが、僕らの仕事だと思います。ファスト・ファッションというのは、もうそこまで真剣に洋服と付き合う必要はないじゃないかと、それはそれで今の時代の在り方だと思うんですよ。それを具現化しているのがファスト・ファッションだと思うから、ラグジュアリー・ブランドでもなくて、ファスト・ファッションでもない在り方っていうのを具体化しているのがアントワープのファッションなんじゃないかと思いますね。

ブリュロート:日本、特に東京は世界において非常にファッション的な都市だと思います。というのも、こんなに多くの、ファッションのいろんなタイプのお店ががあるところなんて、他の都市では見たことがありません、というのもいろいろショップがありますよね、グッチであったりプラダであったり。アドバタイズやプロモーションが果たす形、どうやって売っていくかという、その方法は本当にバラバラですよね。でも、それだけマーケティングが上手く進んでいるのだと思います。どうやって売るのか、いろいろな方法が許されていますね。それが日本という市場だと思っています。さらに、日本のブランドと海外のブランドでやりかたは、大きく異なってきます。海外のブランドだからどう売らなければいけないか、そういったことまで考えているのが日本のマーケティングだと思います。実際、ヨウジヤマモトやコムデギャルソンなどの日本における日本のブランドの売り方というのは、グッチ、プラダなど、海外のブランドとは異なってきます。つまりいろいろなやり方が許されている。何でも認められている、許容されているというのが、日本の、とりわけ東京の売り方だと思います。それにひきかえ、アントワープでは基本的にお客様に何かを強要するということはしない方法です。お客さまはフリー、自由でいられるからです。何を着たいか、何を選び取るか、それは個人の自由です。つまりお客様が何を見るかというのは、そのデザイナーが何を考えているのか、そこを選び取ることです。だからこそ、例えばある人にとって、ファッションはすごく大事であります。ある人にとってはそんなに大事じゃないですよね、つまりそんな強要することはないのです。それで、つまりすごく謙虚なお客様に対するアプローチ、それがアントワープにおけるファッション・ビジネスです。グラマラスといったイメージは持っていません。ただし、すごく努力をします、すごく文化を大事にします、伝統を大事にします。しかし、その伝統を大事にするという過程においてものすごくアグレッシブ、革新的な方法を取ります。そういったところが非常にユニークです。だからこそ、それが大きく異なるところ、それが大きな魅力となっています。だからこそ、そのあえてすごくマーケティングをするだとか、すごくどのように広告戦略を練っていく、経営戦略を練っていくってことをしなくても、それ自身がユニークであるために、非常に突出した存在となっています。

堀:ありがとうございました。

高木:今日は参加者の皆さまありがとうございました。聴衆の皆さまもありがとうございました。最後に、本日のトークのスタッフ・メンバーを紹介させてください。本日のコーディネーター三名およびオペラシティアートギャラリーの堀さん、この四人は、服飾文化共同研究拠点「現代日本ファッション・デザインの研究」のチームのメンバーです。この拠点についてはホームページもありますので興味のある方はご参照ください。では、これで本日のオープニング・トークを終わらせて頂きます。ありがとうございました。


第一部:アントワープ・ファッションの揺籃期

第二部:アカデミーのカリキュラム

第三部:日本における受容

質疑応答


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東京オペラシティアートギャラリー
10th ANNIVERSARY