projectN 01 :南川史門 MINAMIKAWA Shimon

1999.12.3[金]― 2000.2.20[日]



project N 01 南川史門 MINAMIKAWA Shimon

12月3日より、アートギャラリー4階コリドール(廊下部分)にて、"project N"が始まります。
このプロジェクトは、故難波田龍起氏の遺志により、若手作家を紹介する5年間の展覧会シリーズで、同氏の文化功労者年金をもとに開催されます。

"project N"では、若手作家に作品発表の機会を提供することで、その制作活動を支援していきます。また、東京オペラシティアートギャラリーとして、より広い視野のもとで「現在の多様な美術表現」を紹介するため、企画展と常設展だけでは捉えきれない、まさに「進行中」のこれからの美術を紹介してゆくことを目的としています。そのため、"進行中"という意味合いをもつ"project"に、難波田龍起氏のイニシャル"N"を合わせ、このシリーズの名称としました。

記念すべき第1回は、南川史門(みなみかわ しもん)展を開催いたします。

1972年生まれの南川は、われわれの周りに存在する、「何だかよくわからないもの」との出会いを「新しい冒険の始まりだ」と述べており、そのさまざまな見え方を、絵画によって表現しようと試みています。彼が目に留める「何だかよくわからないもの」は、見るからに怪しげなものではなく、例えばちょっとおかしな名前の店の看板のように、そのまま気に留めず素通りする人もいれば、後々まで覚えている人もいる類のものです。そうしたものを拾い上げ、記憶のどこかに蓄積しておくことから、彼の冒険は始まります。(彼の不可解なものに対する興味は、自筆の文章『シュヴァルの理想宮』(1998)のなかにも見られます。http://www.bsemi.co.jp/1999/index.htmをご参照下さい。)

例えば、1996-98年頃にかけて数多く描かれている油彩作品では、たっぷりと厚く塗られた油絵具の量感のために、画面を構成している各色面が、あるかたまりとなっているのが特徴的です。色のかたまりで出来たパズルをするときのように画面上の各色面を見ると、同じものが描かれていても、見る人によっていろいろなかたちが浮き彫りにされてきます。それは立体作品を見て、各部分を手掛かりに、頭の中で全体像を組み立てる作業にも似ているでしょう。

また、今回出品しているアクリル絵具による新作、《コンポジション、白のための》(図版1)では、デッサンの中から選び出した複数のかたちが重なり合い、はっとするほど鮮烈な白と黄色、そして紺などで画面が塗り分けられています。油彩作品とは対照的に、フラットに仕上げられた色面は、図柄を構成する部分と背景の地の双方に「白」が用いられることで、各色面ごとにシールのように剥がせるようにも、ひとつに織りこまれているいるようにも、また白い部分だけがつながっているようにも見えます。さらに、手先の小刻みな振動が伝わる線、それに囲まれた色面の上下関係、そしてその強いコントラストを見ていくと、同じ平面上にあるはずの各部分の奥行きや位置関係が揺らいできます。




図版1:《コンポジション、白のための》
アクリル絵具、キャンバス/65.5×53.0cm
1999


人はあるものを、予期しないところで突然見つけると、そこに唐突さや不安定さを感じ、直感的に「不可解」、「『何だかよくわからない』けれど変だ」と思うものですが、そうした「不可解」なものはある日突然にやってくるのではなく、本当はすでにわれわれの周りに、他のものと同じように存在しています。人が見ていると思っている世界は、無限に存在しうる要素のうちの一部であり、どこを見るかによって、見えてくるものと、見えないものがあるのです。

南川の作品を見ると、この「不可解」なものこそが彼の世界を構成しており、それを存在させているのは、私たち自身の主観性、見ようとする意志であるといっても過言ではありません。今回の新作のうち、《14の分身》(図版2)は、基本となるひとつの構図のうち、表出させようとする部分のみに色をおいてゆく14点の連作で、彼の視点の多様性や移動が具体的に表現されています。そこには、「(それは結局)何だかよく分からないが、こう見ることもできる」という、可能性の提示としての表現にとどまらず、不可解な存在との出会いをそのまま「冒険の始まり」として、あるいは見えなかったものが見えてくる瞬間として、肯定的にとらえようとする素直さがあります。だからこそ、14ある分身のひとつひとつは、決して完成された本体を想定したときの影ではなく、どれもが一個の完成体なのです。




図版2: 《14の分身》
アクリル絵具、キャンバス/81.5×66.0cm
1999


不可解なものに対する興味や、さまざまなものの見方を提示しようとする表現は、作家としてさして珍しいことではないかもしれません。しかし、今日、テクノロジーを駆使した技法から身のまわりの個人的・日常的なものまで、あるいは独自の理論によって新しい表現を模索する作家が多くいるなか、南川は昔からある「絵画」の範疇で、もののかたちや色による表現を突き詰めていこうとしています。時代に迎合することのないその素朴さと素直さは、作品のみならず「今後、いろいろなことをするかもしれないけれど、絵だけは描き続けると思う」という彼の言葉にも表れており、わたしたちに、南川が築きつづけるであろう独自の世界に対する期待を抱かせてくれます。




《私は知らない(だってわたし、外をみてるだけだから)の為のドローイング》
アクリル絵具、キャンバス/106.0×149.7cm
1998


"project N"が、南川の表現にもみられるような、真摯に独自の表現を追求しようとする若手作家を紹介するシリーズとして、ひとつの役割を担うことができれば幸です。どうぞご期待ください。

Photo by SAITO Arata

南川史門 MINAMIKAWA Shimon
1972 東京都生まれ
1991 多摩美術大学美術学部二部入学(94年中退)
1998 Bゼミスクーリングシステム修了
現在、東京都在住

展覧会出品歴
1997  第30回Bゼミ展(グループ展 横浜市民ギャラリー/横浜)
1998  第31回Bゼミ展(グループ展 横浜市民ギャラリー/横浜)
アートスフィア灰塚 '98「作品ホームステイ」(灰塚アースワークプロジェクト/広島)
1999  アートスフィア灰塚 '99「作品ホームステイ」(灰塚アースワークプロジェクト/広島)
http://www.ny.airnet.ne.jp./haizuka/index.html参照)

自筆文献
1996  「青空をつくる」
1997  「実現不可能な巨大な楽器に関するプラン」
1998  「シュヴァルの理想宮」
http://www.bsemi.co.jp/1999/index.htm参照)
他、映像、映画音楽、演奏、舞台美術、なども手がける


インフォメーション
期間:1999.12.3[金]― 2000.2.20[日]
開館時間:12:00 ― 20:00(金・土は21:00まで、入館は閉館30分前まで)
休館日:月曜日(祝日の場合は翌火曜日)、年末年始、全館休館日(2/13)

入場料:企画展「難波田龍起展」の入場料に含まれます。

お問い合わせ:東京オペラシティアートギャラリー Tel.03-5353-0756